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♪ 梅干のオブジェ
梅壷にひびが入っている。梅酢が上がってくると、例年梅壷へ塩漬け梅を移しかえるのだが、これでは移し変えられない。ガラスの広口瓶が、戸棚の奥に仕舞い込んであったのを思いだしそれを利用することにした。
塩もみを終え、アクを絞った縮緬紫蘇を梅の上に乗せる。深瓶なのでかき混ぜることが出来ない。紫蘇と梅酢が合わさったときの、紅色に染まるあの一瞬が見られないと不満に思いながら上から抑えてみた。裏返した手のひらは紅色に染まっていた。
鮮やかな紅色を見るや、梅壷のひび割れの気落ちなど飛んでいった。これで今年の梅干漬けも、80パーセントが成功だ。しかも、透明瓶なので中身がよく見える。紫蘇が梅粒と梅粒の間を徐々に紅色に染めながら、まるで生き物のように下へ流れ落ちて行く。紅色と梅粒の動画をみているようだ。あまり綺麗なので、瓶を暗所に置かず食卓の上に飾っておくことにした。素敵な紅いガラスのオブジェが、食卓の花として加わった。私は毎日それを眺めて楽しんでいる。
<一日目>蓋のように被せた赤紫蘇から濃い紅色が出て、中ほどまで染まってきた。
『私は母親を早くになくし、女親から受け継ぐであろう暮らしの知恵や家事の躾が出来ていなかった。父はそれを気にし、婚家になんども詫びを入れ嫁がせた。詫びる父の背中に、私はベテラン主婦になることを誓った。
その手始めが梅干漬けだった。漬け方が分からない。料理本をみて梅をつけてみたものの紫蘇はそのまま梅の上に乗せて置くものだと思っていた。その年、紫蘇はずるけ梅に黴が生えた』
<二日目>瓶の赤色は濃さを増してくる。赤色が均等になるように瓶を揺らしてみた。
『夫が懇意にしている同僚の実家が植木屋だった。長女出産祝いに梅の木をくれた。借家の庭の隅に、夫と遠慮がちに植えた。それから八年後に家を建て、引っ越し作業をほとんど終えた夜、この地に住んでいた思い出にと、夜店に出かけた。10センチにも満たない草花の苗のような梅が、ポットに入れられ100円で売られていた。二つ買った。新居の庭には父が、「梅干をつけられるなんてもうりっぱな主婦だなぁ」と呟きながら梅の木を祝いに植えてくれた。私はそれを聞きながら小さいポット苗の梅を植えた』
<三日目>梅酢はますます紅色を濃くし、ガラス瓶に押し付けられた梅の面だけがピンク色だ。
『梅漬けにカビが生えると、良くない事が起きると言う。これは梅(心)の手入れが疎かになることを戒めた言葉だろう。その年、私は義母を預かった。パートに出ていた。梅をかえり見る余裕はなかった。梅はどす黒く黴ていた。
塩、梅、塩、梅と置いて行くと塩だけが底に溜まる。翌年、私はビニール袋に梅と塩を入れ転がすと、均一に塩が馴染むこと、重しをきつくすると早く梅酢が上がることを知った。夫、長女、長男、次男、私の順で初夏の風をきって、自転車で重石になる石を探しに出かけた。カルガモ親子のようだった。以後、その重石と袋塩まぶし法で、我が家の梅干はつくられる』
<四日目>上に被せた紫蘇も梅酢をたっぷりと吸い、ガラス瓶のオブジェは風格が出てきた。
『夫はゴルフに出かけるとき、必ず水筒に梅干を二,三個入れる。これを持っていくと好成績が出るという。長男は青年海外協力隊で赴任時、テング熱にかかり梅干で回復した。私は梅干を口に含み、その酸っぱさに顔を歪め筋肉トレーニングをしている。梅干は我が家になくてはならない宝物になってきた』
<五日目>瓶は、赤い宝石のような梅をいっぱいに詰め込み、静かに土用干しを待っている。
『首にタオルを巻き、日焼けをものともせず、梅を一つ一つ表裏返していく。草いきれと梅の香りが広がっていく。一つ口に入れてみると梅は温かく、ふんわりとした塩味だ。父の笑顔を思い出す。「何も出来ない娘で」と詫びていた姿を思いだす』
<六日目>梅のガラス瓶が朝日を受け光っている。
『長女誕生記念の梅は、老木になり枯れかかってきた。仕方が無かろう。娘だって、もう子を持つ主婦だ。夫がかわりに小梅の苗木を買って来た。何時まで梅干を漬けられる分からないのに。
しかし、何も出来ない私を受け入れてくれたあの日から、梅干には家族の歴史と味が含まれている。出会った瞬間、梅が紅に染まるように、私たち家族も出会って赤く染まってきたのだ。小梅の苗木は私へのプレゼントと受け取っておこう。
私もずいぶんと物分り良く、梅干のように丸くなったものだと思う。すっかり梅干婆さんになってしまったもの。
♪ 「穂高岳 」 木村徳太郎 【日本の旗】ノートより
霧から山が 開けてく
山は雪山 穂高岳。
白樺つヾいて 風の道
葉っぱの匂ひが 流れてた。
どこかで鶯 うたふたうから
渓流(ながれ)の岩魚が 聞いてゐた。
白樺つヾいて 山の道
お空の青さが 目にしみた。
山から山が 開けてく
山はアルプス 穂高岳
2007.07.07
☆ 今日は七夕さんですね。こちらは雲が厚いです。最近は笹飾りを近所でもあまりみません。
デイサービスや介護施設では笹飾りをたくさんみました。☆
昨年の七夕、星祭です。http://blogs.yahoo.co.jp/hanahitohira06/10261787.html
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