来た道行く道通りゃんせ/風にのって花ひとひら

のんびりしたブログですがよろしくお願いいたします。

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去年今年

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     歩くこと (去年今年 )

 比叡おろしの風がきつい。強風が枯れ葉をまきあげ側溝を埋めて行く。裸木の間を雲が走る。一歩一歩と、風の扉を開けていくように私は歩く。風に向かって歩くそれは、大晦日でもあり、まるで新年への扉を開けていくかのように思えた。
 私が「歩き」というものを始めて、かれこれ六年になる。履きつぶした靴はちょうど五足。最初の一足は娘が巣立つときに「ゴン太の散歩をよろしく」と一緒につけてくれたものだ。
私は幼児のころ猫に耳をかじられ犬に追いかけられ、動物は苦手だ。飼い犬のゴン太の側を通るときも跳びつかれるのが恐く、できるだけ離れて通っていた。しかし、少しずつ靴が減っていくにつれ、いつしかゴン太と私は無二の友達になっていった。
 そのころ、私は夫と離婚届を携えている仲だった。ゴン太に愚痴を言い、ゴン太の目に苦しみも悲しみも掬い取ってもらっていたようだ。そのゴン太が癌に冒された。身体に少しでも触ろうものなら痛いのか、震える周りの空気さえ痛いのか、飼い犬とは思えない形相で噛み付いてくる。オムツをさせなかった。尿意や便意を感じると際限なく吠える。夜は三時間おきに鳴きだす。私は服のまま寝る事が多くなった。夫は近所への迷惑を気にはしても手伝おうとはしなかった。
噛み付かれないように首に襟カバーをつけ、ロープを胴体に巻きつけ私が引き上げ、長男がお尻を瞬時に持ち上げる。そうして立ちあがることができればなんとか庭に出て、用を足すことができた。 新年を前にして、ペンキ塗りかえの門扉が庭に置かれていた。その上にゴン太が倒れこんでしまったのだ。足がはまり込み引き上げようと体にさわると狂ったように噛み付いてくる。やっとの思いで引き上げたとき、長男の手は血だらけ、私の顔は涙でつぶれていた。いきなり長男が、夫の部屋に駆け込み「なんで手伝わんのや。お母さん一人では無理やろ。もうすぐ僕はおらんようになる。」とくってかかった。夫は黙って聞いていた。
 老人に穴掘は無理だろうと、長男はコブシの木の横に、ゴン太の墓用に穴を掘り「仲ようにせえよ」と言い残し、青年海外協力隊に赴任していった。
 ゴン太はもう立ち上がれなかった。便で汚れても薬の副作用なのか、食べることは忘れない。そして、大好きな散歩の時間も忘れなかった。散歩にいけないのに散歩の定時になると吠えだす。私はいたたまれなかった。「代わりに散歩に行って来てやるから」と家を飛びだす。ゴン太の鳴き声を聞きたくなかったのかもしれない。しかし「命とは終えるときも大変。年を取ったとき、誰にも迷惑をかけたくないと私は思っているが、とことん世話になるのも、命かな」と、涙をこぼしながら歩いた。丘の上の我が家の方からゴン太の鳴き声が聞こえてくる。それは命のうめき声のように私を追いかけていた。
 2002年1月25日にゴンタは死んだ。私の帰宅を待っていたように、そして夫の帰宅を待って尻尾を二、三回振って冷たくなっていった。ゴン太の便と汚物で汚れた体を夫と二人で綺麗にし、2階と下に別居していた私たちは、ゴン太を中に川の字になって寝た。
 ゴン太の死を聞き電話口で、娘が泣きじゃくる。そのとき、ゴン太のことや夫とのことがあり、私は娘の帰郷を一日伸ばしにしていたのだが、2月20日の出産予定日が娘にはせまっていた。そして、帰郷しょうとした2月1日に男児が出産したのだ。2786gのそれは元気な男の子だった。ゴン太がまるで見守ってくれたかのように軽い軽いお産だった。
 ゴン太の身代わりに歩いたことがきっかけとなり、それから私の「歩き」が始まったのだ。スポーツクラブに通っていたときのシューズが四足も残っていた。娘からゴン太の散歩用に貰った靴と、その靴で、六年間に五足を掃きつぶした。
六足目の靴を始めて自分で選んだ。長男が海外に立つ時の、遠ざかって行った真っ白のスニカー、娘がゴン太とともに手渡してくれた赤色の靴が浮かんだ。しかし、私は好きなピンク色の靴にした。そして夫のゴルフシューズの横に並べた。昔はたくさんの靴が並んでいた玄関先だ。いまは二人だけの靴が並ぶ。
 子供のとき新年は新しい下駄を下ろしてもらった。それを思い出し六足目の靴は元旦の朝に足を入れることにした。
 大晦日に、強風をこじ開けるように入った新年の世界は、雪という予報を裏切り、穏かな日差しが伸びていた。時たま霧雨だろうか、陽を受けてプリズムのように細かい粒子が、私の体をキラキラと包んでいく。その中を一歩一歩と前に進むピンク色の靴は、まるで大輪のピンクの花が歩んでいくように見えた。



    運動靴    木村徳太郎   【馬鈴薯の澱粉】ノートより

駆ける  駆ける とっとと駆ける

運動靴の白い靴

太陽の下 街の鋪道(みち)

靴は蒸(む)せって 駆けてゐる。


駆ける 駆ける とっとと駆ける

ぢりぢりと目の眩む鋪道

靴は埃を かまはずに

トラックやバスを 追っかける。


駆ける 駆ける とっとと駆ける

暑さに咽喉(のど)が 燒けつくが

水散車(みずまきぐるま)に 目もくれず

靴はぴよぴよんと よけて行く。


駆ける 駆ける とっとと駆ける

ズックの靴の 夏の靴

靴は體(からだ)を 鍛えてる

夏にも負けず 鍛えてる。
  
 
 木村徳太郎の作品(童話、論評、随想)を別頁「木村徳太郎=現在『伝書バト物語』」に掲載していきます。ご愛読下さい。

木村徳太郎

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伝書バト物語(11)マウスを画像上に乗せてください。拡大します。

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[日本児童文化 日本児童文化社] 昭和三十一年一月一日発行 新春よみもの號
=お正月のよみもの(小学生)=(1.2年生のお子さんには読んであげてください)

街の子・村の子   木村徳太郎
  街の子の信ちやんの、お正月の朝はぬきにしましょう。と、言うのは、街の子も朝は学校に、お正月の式に行ったからです。
 さて、昼からのお話ですが、お正月で会社もお休みのお姉さんが、信ちゃんと遊んでくれると思っていたのに、赤い洋服に、青いオーバーをひっかけると、
「信ちゃん。おめでとう。ほら、お年玉」
いつもより真赤にぬった口びるに、笑いをうかべて、うすいナイロンの靴下に、緑色の靴をはき、耳の飾りをひらひらとさせて、
「映画を見に行くのよ」と、小さい袋に入ったお年玉を、信ちゃんの手ににぎらせると、
「ぼくもつれて行って」と、言う、信ちゃんの言葉もかいかないで、姉さんは、さっさと家を出て行きました。
お父さんは、お家の仕事のかんけいのお客さまが、朝からたくさん来ておられて、お酒をのんでいられます。
お母さんは、そのお客さまのおもてなしで、女中の竹やといそがしく、信ちゃんをかまってくれそうにありません。
交通機関でやかましい街も、お正月はひっそりかんとして、いつもの街とようすがちがうようにしづかです。ですから、お父さんたちの、お酒できげんのよい話声が、いっそうお正月らしくはなやかなのです。
 信ちゃんは自分ひとりだけが、お正月からのけものにされたみたいで、つまらなくなって、部屋に入ると、電気機関車だの、無線そうじゅう自動車だのを引っぱり出して、いつものように遊びはじめました。
機械でできた珍しいおもちゃも、ひとりではつまりません。すぐあきてきます。
信ちゃんは、ごろりつと横になると、頭をかゝえて、
「お正月なんて、つまらないや」と、つぶやきました。その時、
「あら、信ちゃん。お正月早々から、寝るなんて馬鹿ね。これおみやげ。これ年玉」
と、お母さんが、かゝえきれないほど、のし紙にくるんだおみやげを、信ちゃんに渡しまたいそがしくお部屋を出て行かれました。 
 お客さまが、信ちゃんのために、もってきてくださったものです。
「うわつ、すごい」
色刷りの美しい本や、模型ジエット機、それに遊戯具まであります。
信ちゃんは、新しい玩具に心をすっかりうばわれて、しばらくは、ときのたつのもわすれました。
でも、いくら新しい玩具でも、いつまでも心をなぐさめてはくれません。あきてきました。また、かわったものがほしくなりました。
 信ちゃんは、自分のものになった、新しい玩具も、つまらなくなって、お母さんにもつげずに、お年玉をポケットに入れると、おともだちの武ちゃんでもさそって、お年玉でなにか買い食いでもしょうと、たちあがって、家を出ました。
 お父さんたちの笑い声が、ひとしきりはなやかに、お家の中からきこえてきます。

 村の子の勝つちゃんの、お正月の朝のお話はぬきにしましょう。と、言うのは、村の子も朝は学校に、お正月の式に行ったからです。
 さて、昼からのお話ですが、いつも野良着のお父さんが、今日はめずらしくよそ行の着物で、やぐらこたつに足を入れて、
「母さんや、勝がかえつたで、にしめで、お祝いしょうや」と、母さんに、さしずをしました。
 いつももんぺのお母さんも、姉さんも、めずらしく着物です。
 田や畠に出ているお家の人が、お昼から、おにしめをならべて、ごちそうをいただくなんてことは、やはり正月です。勝つちゃんは、うれしくなってしまいました。
 お母さんと姉さんが、重箱につまったおにしめを、やぐらこたつのところに、はこんできました。
「 うわつ、すごい」
重箱のふたをのぞけると、大根、ごぼう、にんじん、それにぼうだらのにつけ、かまぼこ・・・。(かぞえればきりがありません)玉子のさえた黄味が、いつそう勝つちゃんの心をはずませました。
 「ほら、勝つちゃん。お年玉」
姉さんが、にっこりと笑って、紙にくるんだ、お年玉をくれました。
 「ぼく、凧もあるし、お年玉なんて、いらないや」
お家の人が、このようにそろって、おにしめをいただくことで、勝つちゃんはまんぞくなのです。お年玉を、竹筒の貯金箱に、紙ぐるみをぽつんと入れてしまいました。
 おにしめをいただきながら、勝つちゃんはお家でできた野菜も、このように料理して、重箱につめると、たいへんなごちそうになるものだなあと、いつもみている野菜が、なんだか美しいとうといものにおもえました。
 おにしめのごちそうに、お父さんのまねをして、ちょこで少しなめたお酒で、体がはずんできて、勝つちゃんはじつとしていられなくなってきました。
奴凧をもつと、晴れたお正月の空へ、楽しい心をあらわすように、うなりをつけて、高く高く凧を上げようと外へ出ました。
 「勝つや。お父さんも行くぞ」
と、奴凧をしっかりにぎって、外にかけだした勝つちゃんの、うしろから、お父さんの大きな声が、おつかけてきました。
 それといっしょに、お母さんとお姉さんの笑い声が、ころがるようにきこえてきます。

(きむら・とくたろう。児童文学者。著書「狐の裁判」「児童文化文学保護」「よみがえる少年たち」等、多数あり)

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