来た道行く道通りゃんせ/風にのって花ひとひら

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蒲公英(タンポポ)

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踊る タンポポ

  一気に春が来た。春が立ちのぼる。
  南斜面は、タンポポ、イヌフグリ、ナズナ、ホトケノザ、ハコベが地を覆い、ところどころには、まだ穂を出さないツバナの紅い葉が、春の陽炎にシャープな線を加え、野のキャンバスを立てかけているようだ。
 とくに目立つタンポポは、ほとんどが外来種だがその黄色の群生は、春の塊りそのものである。
「あ!タンポポが空に飛び上がった」(それは紋黄蝶が二匹、もつれているのだったが)
 タンポポが広がっている。タンポポの群生が踊っている。輝く黄金色のヒマワリが太陽の子どもなら、さしずめタンポポは、太陽の孫であろうか。
黄金色に輝く小さな群生が、春の野を歌い喜び、踊っているように見える。
 タンポポに向かって私は手を振った。

 2004年、12月26日。スマトラ沖大地震があった。スマトラ島北端沖のプーケット島へは、何年か前に訪れたことがある。またスマトラ沖の発展途上国へは、青年海外協力隊の日本の若者が沢山でかけ、支援をしている。
ほんとうに痛ましい災害だった。あの美しい自然が破壊され、沢山の人々が亡くなったのだ。私は心を痛めた。同じ様に青年海外協力隊に参加したことのある息子に、少しばかりだが義援金を託した。そのお礼として映画のチケットが贈られてきたのだ。
 『踊る夕陽のビッグボス』というインド映画で、上演会場は、地元の滋賀会館だった。滋賀会館のシネマホールは、マイナーな映画しか興行されていないという、先入観があったのと、駐車場がない。行くことに躊躇したが、地震被害を受けたインドの映画でもあり、チケットを無駄にすることは忍びなかった。
ところが、行って驚いた!
  会館を囲むように大勢の人の輪が出来ている。そして、黄色のハチマキやタオルを首からかけている人々が、雑談をしている。それはタンポポの立ち話のように見えた。どの顔も楽しそうに太陽のように輝いていた。どうして黄色のタオルなのかと思いながら、私も列に加わり開演を待った。一台の大型バスが入ってきた。中から肌が黒く、彫りの深い顔をした人たちが、大挙して下りてくる。みんな黄色のタオルやハンカチを持っているのだ。中には当時流行っていた、「マツケン・サンバ」の松平健が着ていたような黄金色の着流し姿で下りて来る人もいる。私は首をかしげていた。

  映画のストリーは、ありふれた勧善懲悪と恋愛で組み立てられている。
「分けありの過去を持つ男が、三輪タクシーの運転手をしながら家族の面倒を見、因縁の相手と再会し、過去と決別するため自らの手で新しい運命を切り開いていく。そこに絶世の美女がからむ」そういうストーリだ。出演の女優陣がなんとも美貌そろいで、うっとりとする。其れに反して男優陣は、ちよっと太目で、どうみてもラブストリーに似つかないような男たちである。が、みんな目が澄んでいる。目に嘘が無い。なかなか今の日本人には、見ることの出来ない綺麗な目の人たちだ。その人たちが、歌って踊って、ギャグを飛ばすとても面白い映画なのだ。大人数で踊りまくるミュージカルだ。同じように群衆で踊り歌うものには、大昔のこと、姉に連れられて観たことのある「ウエストサイド物語」が浮かぶ。しかし、あれは足の長いスマートな若者たちばかりだった。見知らぬ国への甘い憧れで観ていたものだ。
目のまえの映像は、足の短い中年のおじさんたちが、踊り歌っているのだった。
そして、主役男優のラジニカーントが出てくると、会場は「バーシャ、バーシャ」と大歓声につつまれる。立ち上がって、持っている黄色のタオルやハンカチを振り始める。
バーシャとは、映画の主人公の別の名前で、本当の正体はインドの武闘派ファミリーのビッグボス、「バーシャ」であるが、訳あって兄弟分を引き連れ足を洗って、しがない三輪運転手をしているのだ。しかし、巨大マフィアのボスの度重なる悪事や、世の中の不条理に、怒りが爆発すると「バーシャ」に戻り、大暴れするという荒唐無稽な話である。ここ一番というときに、印籠をだしてくる「水戸黄門」のようなおもむきである。水戸黄門の立ち回りのように、バーシャたちの群像は、ここ一番というとき、必ず黄色のタオルを首にかけ、黄色の群像が乱舞するのだ。
  会場は「バーシャ、バーシャ」と波打ち、黄色い声が舞う。私もいつのまにか、その踊る太目のおじさんと、黄色の波にすっかり乗ってしまっていた。「バーシャ、バーシャ」と手拍子をとる。私も一緒になって手をたたいていた。ずいぶんと、のりやすい性格だと後になって思う。また後で知ったのだが、インド映画スターが「縁故」「白い肌」「美男」「金持ち出身」などを兼ね備えている者しかなることが出来なかったのに、ラジニカーントは、それとは対照的な「縁故なし」「褐色の肌」「おっさん顔」「庶民の出身」で、大人気を得た俳優ということだった。
 「歌い踊れば全てが、楽しい」「誰も、死なない」「平和を、願う思想」それが全面に押し出されている娯楽映画だった。とても楽しい映画だった。それにシネマホール(滋賀会館)もこざっぱりしてなかなか良かった。

  以後、私はタンポポの群生をみると、インド映画のスーパースター、ラジニカーントの太めだが、澄んだ目を思い出す。そしてタンポポに手を振っているのだ。
  どこまでも乗りやすい私だ。
  黄色い群生のタンポポが、歌い踊る春である。
中には早くも、綿毛を飛ばすタンポポもある。
  上演をしていた滋賀会館が、この秋には採算割れで閉館されるらしい。また一つ、歴史の幕を閉じる。
    
          たんぽぽの綿毛一部欠け全部欠け


  たかがタンポポ、されどタンポポであろうか。



  春の雁      木村徳太郎      
 
             芹摘めば(せりつめば)

             黄錮魚(わたこ)が群れて(むれて)

             とろりこと。

          __日射(ひざし)も温う(ぬくう)

             なりました。


             おゝ明日は

             田螺(つぶ)をつゝいて

             母さんぇ。

          __嬉しゆがらせて

             あげましょうか。


             芹摘めば

             岸も静かで

             雁が鳴く。

          __空も明るう

             なりました。

    

木村徳太郎の作品(童話、論評、随想)を別頁「木村徳太郎=現在『伝書バト物語』『児童文学者の目より見たる』」に掲載しています。ご愛読下さい。 
          

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