来た道行く道通りゃんせ/風にのって花ひとひら

のんびりしたブログですがよろしくお願いいたします。

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冥加 の 柚子づくし   
 
 冬耕の畦道に点描画のように浮かぶ柿の実も好きだが、緑葉に陽を反射し黄金色に輝く柚子の実はより好きだ。
 最近これらが採集されずに、いつまでも野を飾る姿をよく見かける。鄙びた風情だが「冥加に悪いな〜〜」と、私はあの口真似をする。

 我が家に柚子の木が三本ある。一本はデコボコアバタ面の大柚子。一本は小さく美肌の花柚子。あとの一本は、大柚子の実生から育ったものだ。どれも毎年たくさんの実をつける。刺に苦しめられながら採集した実をいろいろと加工するのが、私の大きな冬の楽しみだ。ストーブに土鍋をのせ、じんわりと柚子ジャムを炊く。果汁をしぼり製氷皿で氷の柚子キューブをつくる。皮を小さく刻んで冷凍する。柚子味噌を作る。四つ割りの大きな皮を砂糖煮にする。柚子大根を作る。蜂蜜につけこむ。百円ショップでガラス瓶を買い求め絞り汁を詰める。絞りかすは手の中でヌルヌルとするが、後はすべすべの手になる。指の先から香りが湧きあがる。残りかすの種は焼酎につけ化粧水を作る。ストーブに乗せた柚子ジャムが湯気をあげ、家中が柚子の香りで満ち衣類に香りが沁みこむほどに柚子、柚子で埋れる。そして、柚子の香りをたずさえて、ジャムや絞り汁の入った瓶をお裾分けに走る。宅急便の荷を造る。それらは色んな物に変身して戻ってくる。海老で鯛を釣るのでなく柚子でメロンを釣るようなものだ。
 いろいろに加工し保存される柚子は、一年中の楽しい恵みとなる私の大きな仕事なのだ。今年も無事に終えられた。
 最初は柚子がこんなに優れ物とは知らなかった。「柚子の大馬鹿十六年、桃栗三年柿八年、柚子は九年の花盛り」などと言われ、実生栽培は結実までに十数年は掛かる。一本は実生から結実しているのだから、私の「柚子開眼」は十数年前に遡ることになる。
 世帯を築き始めた借家の庭に、柿の木と蜜柑のような木があった。よちよち歩きを始めた長女が落ちているその実を「まんま」と言って持って来る。二人で割ってみると未知の香りがし、汁が飛びちり目が痛かった。「これはまんまではないからね」と言い聞かせた。大家さんが、その実を木守柿と同じようにいくつかを残こしていく。雪が積ると白と緑と黄金色の美しい装いになり、まるでクリスマス・ツリーの金の玉のように輝いていた。
 滋賀に転居し、懐かしい木を次々と植えていった。夫は柿の木から転落し、4里の道のりを父親に背負われ町の医者に行ったことを話しながら柿の木を植えた。私は子供時代に過ごした神社の鎮鎮碑横に千切れ雲のように咲いていた辛夷の木を植えた。http://blogs.yahoo.co.jp/hanahitohira06/41229555.html童謡を懐かしんで棗(なつめ)の木を、無花果(いちじく)を木通(あけび)を茱萸(ぐみ)を栗をと、子供時代の懐かしい木々を植えて行った。父からは梅の木もプレゼントされた。http://blogs.yahoo.co.jp/hanahitohira06/34026603.htmlそして、その蜜柑のような黄金色の実の成る木も植えたのだ。目を楽しませる懐かしい風物詩として植えられ、私は実がいくら成っても採らなかった。
 あるとき、我が家の鈴なりのその実を見た人が「奥さん。生り物を採って食べへんのは冥加に悪い。ちゃんと採って有り難くいただかんと。採らへんのやったらワシが採ってやろう」と、身軽に刺の枝を掻き分け実を採ってくれた。「これは観賞用なんやけど」と思いながらも、その「冥加に悪い」の言葉がとても懐かしく響いた。祖母がいつも「冥加に悪い。バチがあたる」と、物を粗末にしたり我儘を言う私を諌めていた。久しぶりに聞く「冥加に悪い」と言うその言葉が懐かしく胸がつまった。「これは柚子で、絞り汁を焼き魚にかけたり、鍋料理に使ったり、風呂に入れたりと重宝する物でっせ」と言う。
それからだ。「冥加に悪い」「冥加に悪い」と言いながら、私は刺でひっかき傷をつくりながら柚子を収穫しだした。そして、年々柚子の利用法のレパートリを増やして行った。庭に野菜屑を埋める。そこから柚子も芽をだした。それが大きくなり実をつけているのだから、私の柚子仕事は、有(柚)に二十年近くのベテランとなっているわけだ。

 デイサービス(通所老人介護施設)へ柚子を届けに行く。あのときの「冥加に悪い」と柚子を採ってくれた人も、もう身軽には動けずデイサービスに通っている。
 明日は冬至である。柚子をたくさん浮かべて湯につかる。湯が黄金色に揺れ、たっぷりの柚子の香りに包まれた、柚子風呂に入ってくれるのを願って持って行く。「あ〜〜良い湯だな。極楽極楽。冥加にええわ〜」そんな声が聞こえてきそうな気がする。
 節気のなかで私は冬至が好きだ。冬至を境に日足が伸びて行く。春が近づくのだ。いくら寒くっても陽と遊ぶ時間が長くなっていく。柚子をかき分け入る湯船の手足も伸びると言うものだ。
 山頭火に「ゆふ空から柚子の一つをもらふ」の句がある。ゆふ空は、赤く燃える夕焼け空で、そのなかに浮かぶ金の玉(柚子)を一つもらふのだろうか。それとも薄紫のとばりが落ちはじめた夕星の輝きのような柚子を一つもらふのだろうか。どちらにしても、美しく輝く柚子の玉を両手で受けるようにして愛しむ山頭火が浮んでくる。山頭火も日脚が伸びていく嬉しさを思って、柚子を一つ手に包み込み生きる喜びをかみしめたのではないだろうか。そんなことを思う。
「これはまんまでないよ」と教えた、よちよち歩きの娘が湯気の中に浮んでくる。寒い夜、受験勉強の手を温めながら熱い柚子茶を喜んでくれた息子が浮んでくる。湯気と香りの中に、柚子を沈めたり浮き上がらせたりしながら人生の浮き沈みも思ってみる。
 明日から、また新しく、陽が伸びて行くのだ。
湯治(とうじ)と冬至(とうじ)の語呂を合わせ、身体息災であれば融通(柚通)が利くという、こじ付けからの柚子風呂らしいが、私には嬉しい冬至の柚子風呂である。


       浮き沈みの香りともない冬至風呂

2008.12.20



    みかんの木   木村徳太郎  

        裏のお背戸の

        みかんの木

        今朝は ぽっくり色づいた。


        北支に征った

        お父さん

        みかんの実をば あげたいな。


        裏のお背戸の

        みかんの木

        今年は一人で 食べまする。

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