来た道行く道通りゃんせ/風にのって花ひとひら

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一月の歌(餅つき)

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           「語らい」  
 起き抜けに甘い香りが体を包んだ。「あ!蝋梅が咲いた?」
 年末に木々の整理をした。花芽のついた枝を切る私に、辛夷の涙のような蕾が、罪悪感を募らせ責めているようにも見えたので、辛夷・蝋梅・梅の花芽が付く枝を集め、家中の花瓶に挿しておいた。その蝋梅が咲いたのだろう。
 寝床に入ってくる匂いが大好きだ。朝の匂いは心を優しく包みこむ。子供時代の祖母の作る味噌汁の匂い、世帯を持ち、朝食用にセットしたパンの焼ける匂い。先に起きた夫の入れるコーヒの匂い。寝床にもぐりこんでくるのはいつも幸せの匂いだった。
 花瓶を見に走った。梅はコロコロと、蝋梅はトウモロコシ粒のように膨らみ、咎めるような目を向けていた辛夷は大きな微笑で、彩りに加えておいたシシガシラが真っ赤に笑い、賑やかに語り合いをしていた。

 窓の外は雪が舞っている。
寒林のなか梅の木は梅ノ木、辛夷は辛夷、蝋梅は蝋梅、山茶花は山茶花と、一本一本が孤立して立っている。あの木々たちは、蝋梅が開く時、辛夷が毛で覆われた外套を脱ぐとき、梅がほころぶとき、お互いの姿を見てはいても、辛夷のパラリと脱いだ外套を受けとることはあるのだろうか。、蝋梅や梅のほころびの一瞬を聞くことはあるのだろうか。花瓶に押し込め詰め込まれた花木たちは、語り合い仲間のように楽しそうだ。
 「語り合う」ということを、ふと考えてみた。喜怒哀楽は、いつも語り合いのなかに生まれ、息づいているのではないだろうか。思い出も、人と人の繋がりもすべてそれは語り合いの中で生まれ、育っていくように思う。
 一本一本に立つ木々は、それぞれの存在を知り、お互いを見ていたとしても、もしそこに語らいがないとしたら、つまらないものだろう。
 語り合おう。辛夷の脱ぎ捨てるコートを受けてみよう。梅の戯言を聞いてみよう。蝋梅の訓話を聞いてみよう。山茶花と笑い転げてみよう。語り合うことは、朝の匂いのように幸せを運ぶことだと思った。

 雪がより大きく舞ってくる。冷たい廊下の寒気が足裏を伝ってくる。私は急いで、また寝床にもぐりこんだ。そして、蝋梅の匂いを大きく吸い込んだ。
思い出という語らいが、暖かい寝床に広がっていった。
<餅つき>
 家で餅搗きをしてみようと思った。臼も杵もない。近くの農家の庭に、石臼が無造作に放置されていた。それを譲り受けて自転車で運ぶ。夫を先頭に縦一列に並び、一家でよく近郊巡りをした。時には長男が石につまずき、自動車の前に転がったこともある。急ブレーキの音と横たわった子供自転車に、私は声も出ず立ちすくんだ。無傷に涙をこぼした帰路は、足が震え自転車が漕げなかった。石臼や野の草花や、鳥の名前をあの時、カルガモ親子のように並び、語り合いを増やして行ったのだ。
 庭に懐かしい木々を次々に植えたが混雑しはじめ、柿の木を一本伐採した。それを夫が削って杵を手作りした。振り上げた時、持手と胴が離れて大怪我をしないかと、随分心配したが、不細工ながらもなかなかの出来栄えだった。そして、近所に住む夫の同僚家族と餅つきを年毎に重ねた。小豆を煮て餡を作り、黄粉を用意し、大根をすり、丼に山のように納豆を盛って置く。同僚の子供も、我が家の子供も納豆が大好きで、丼を抱え込み餅が搗きあがるころには、いつも丼が空になっていた。トリ粉を敷いた電気炬燵の上台に、湯気と共に白くとろけるような餅が置かれる。それを女たちで丸めていく。語らいと餅が熱かった。子供たちは餅が大好きだ。たくさん作っておくと始発で出勤する夫の朝食にも重宝だった。餅がいっぱい語ってくれていた。
 幼稚園の役員をした。餅つきが行なわれるのだが臼と杵が集らない。我が家の石臼と手作り杵を出すことにした。会長さんが、我が家の道具を見て渋い顔をして驚かれた。私はもっと驚いた。別に提供された臼と杵は、家紋入りの大きな大きな漆塗りの長持ちに入っていたのだ。しかし、園児達はそんなことには気もとめず、賑やかな語らいを餅につき固め、丸めていってくれた。

 最後に餅つきをしたのはいつになるだろう。五年程前、家族に餅つきを呼びかけてみたが誰も乗ってこない。石臼は庭の手水鉢になっている。杵は物置の底で眠っている。私はいまでも、餅つきの語らいを夢見ているのだが……
しかし、花木の蕾が餅花のように語ってくれている。幸せな朝の匂いも語ってくれている。暖かい寝床はたくさんの幸せを流してくれている。それが「語らい」なのだろうと思った。


     蝋梅の香りに一歩二歩の幸


お餅は歳魂(としだま)です。お餅を食べるのは神様から新たな命の一年をいただくことです。いっぱいお餅をついて、いっぱい食べて、いっぱい「語らい」を増やしたいものです。
どこからともなく「節季候(せきぞろ)」がやってきて、夢の、現の、「語らい」を残していってくれるのです。

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