来た道行く道通りゃんせ/風にのって花ひとひら

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青田に映る影
画像「神楽芸術研究所」より

 影  桜の樹のもとで

私の家は小高い丘の上にあります。坂の途中に大きな山桜の樹があり、そこでいつも一息いれます。下りはブレーキを絞り一気に降りますが、上りは心臓破りです。自転車に体を預けるようにして上ってきて、この桜の下で休むのです。休む回数が年々増えて来たように思います。この坂を同じ様に上り下りしていた子供達は、もうみな巣立っていきました。
眼下に青田が広がっています。四月始め、少し冷たさを残こし水入れだけのこの田には辛夷や卯の花が映っていました。そしてついこの間まで、水の輪と一緒に小さい若苗が揺れていたのに、今は隙間も見せず苗は濃い緑一色に雄々しく広がっています。
そして、陽が傾きはじめ、桜の樹、傍らの家、周りの山々がくっきりとその緑に影が黒く線を描いているのです。影が揺れます。影がまるで生きているように動きました。
桜の樹や家が影に変身して青田に乗り移り、本当の桜や家は休憩しているのかのようでした。桜の樹や家も疲れる事があるでしょう。街路樹の樹だって疲れる事があるでしょう。そんな時、影を地面に映して実像は澄まして一服しているのかもしれません。そんなことをふと思いました。

私はこの坂を三十五年近く上り下りをしてきました。車で一駆けし自転車や徒歩のときも、坂を下りる時は目的地へ向かっていく事、坂を上る時は家に戻ること、そればかりに懸命だったように思います。季節季節の風を感じて歩いていたようでも、濃緑の上にこんなに影が乗っていて、影が生きていることに気がついていなかった、そんなふうに思えてきました。
心奥底へ呼びかける風や影に気が着かず、なんとなく見過ごしなんとなく生きてきたことが多いのでは……。そんなことを思いました。

私もちよっと一服しましよう。「樹の影」を映してみましょう。それは呼吸していくことかもしれません。

こんな詩を思い出しました。


「樹の影」木村徳太郎

       樹の影 なんだか
       生きてゐる
       うすうす地面に 呼吸(いき)してる。

       鐘の音 夕燒け
       かけるから
       樹の影なんだか 開いてゐる

       雀が落葉を
       つゝくから
       樹の影なんだか ふるへてる。

       樹の影 なんだん
       生きてゐる
       うすうす地面に 呼吸してる。



「芸北神楽」
私は子供の頃、神社で過ごしました。お神楽を良く知っているほうだと思っていました。巫女の装束をつけてもらい舞の真似事をした事もありました。また神社に獅子頭を持った人たちが泊まっていくこともありました。遠い遠いところから来たのだと聞きました。その人たちは小さい私を膝に乗せ、いろんな話をしてくれました。それは「古事記」や「日本書紀」の事でしたが、私にはまだ書物は読めず、話をワクワクドキドキと、風が雨戸を叩いて行く音とともに聞きいり、いつしか眠り、夢の中にお話の神さまたちが出てくる世界に入っていくのでした。商店街に住居が有ったもっと小さいときは、お正月に獅子舞が来ました。晴れ着を着せてもらって各戸を回っていく獅子舞に、従兄弟と町外れまで付いて行ったこともありました。新しい下駄をお囃子に合わせて鳴らし心躍ったものでした。でも、お神楽のことをなんにも知らなかったことに気が着きました。
神楽は宮中伝来の御神楽(みかぐら)と民間で行なわれる里神楽(おかぐら、)があり、この(おかぐら)は全国各地に多種多様に広く文化として残されているのです。
巫女神楽(社[やしろ]神楽、奉納神楽ともいい、参拝者の依頼により巫女が舞いを奉納する形式)
出雲神楽(出雲佐陀[いずもさだ]大社の神楽から出た系統で、採物[とりもの]のあるのが特色)
伊勢神楽(湯立という禊[みそぎ]の一種を中心とする神楽)
獅子神楽(獅子を権現と崇め、獅子頭を家ごとに持ち回り悪魔払いなどを行うもの。東北の山伏神楽や伊勢の大神楽はこの系統) 
岩戸神楽(神話や縁起をしくんだ神能から発し各種の芸能の要素が加わって発達)他に神代[じんだい]神楽や、東京の郷[さと]神楽など……。
宮中で行われる御神楽に対して、庶民の間で神を招きその神座で、鎮魂、清め、祓いのための芸能として行なわれているのが里神楽です。私が小さい頃、どこまでも下駄の音を鳴らしてついて行った獅子舞は、里神楽の一つだったのですね。

そして、最近「芸北神楽」と言うのを知りました。私はいままで、こんな神楽は知りませんでした。
驚いたのなんのって……。

「なに! これお神楽? まるで京劇か スーパー歌舞伎やないの」

里神楽は『古事記』『日本書紀』を題材にした神代神楽、『お伽草紙』を題材としたお伽神楽、能や歌舞伎の演目を素材にした現代神楽があります。その中の神代神楽なのでしょうか。画像を観ただけなのですが、それは煌びやかな日本武尊、彩色鮮やかな、八頭大蛇が所狭しと跳動しているのです。私の大好きな古事記の世界がギラギラ、ハラハラと広がっているのでした。
そして、さらに飛び上がって驚いたことに、なんとこの「芸北神楽」が広島の神楽で、「加計・戸河内」が神楽どころとして全国に知られていると言うのです。太田川上流域一帯に石見地方(島根県邑智郡石見町)から入ってきたと言うのです。
加計・戸河内は夫の生育地であり、いまも義兄が住んでいます。太田川は、原爆投下の翌日市内に出てきたら、川は死体で埋っていたといつも聞かされていた川です。そして加計は島根県との県境だと聞かされていました。
「太田川上流域。石見地方から入ってきた」「加計・戸河内・堀八神社……」いつも聞き慣れていた単語が溢れているのです。
私はドキドキしてきました。いままで芸北神楽のことを夫から聞いた事はありません。加計にこんな伝統文化があったなんて聞かされた事がありません。夫は、広島カープのことは「市民みんなでドラム缶にお金を貯めて出来たんだ」と郷土を誇り、熱く語ることはあっても、こんな素晴らしい文化のことを話したことはありません。夫は知らなかったのでしょうか。夫の帰宅を首を長くして待ち、そして帰るなり聞いたのです
「芸北神楽」て知ってる?
「よく知ってるで……」
そして今まで話したこともないその芸北神楽のことを、それは生き生きと話し出したのです。
子供のとき、お爺さんに連れられて芸北神楽を見に行ったこと。隣の「森川屋」の叔父さんが芸北神楽の名役者だと言うこと。「徳川時代から続いている郷土の文化」と語る夫の誇らしげな顔。結婚して38年は経ているのにどうしていままでこの神楽の話が出たことがなかったのでしょう。柿の木から落ちて遠く離れた町までお父さんに背負われて行ったこと。食べ物が無くお腹をすかせた食べ盛りのころ、行商の人が落として行った魚を拾って食べたこと、家の前で川遊びをしていたら、空が真っ赤になって行く原爆投下の日のこと。雪に埋る暮らし、腰まで雪に埋って父親の葬式を出したのが、大学を卒業した年だったこと……。たくさん話を聞いてきたつもりでした……。でも芸北神楽のことは始めて聞きました。
懐かしいことを思い出したと、昔を見つめるように芸北神楽の事を話し始めるその顔は、輝いていました。私の知らないお祖父さんですが、小さい夫がお祖父さんに手を引かれ食い入るように芸北神楽を見ている姿が目に浮かびます。そしてあの、腰が曲がり、殆ど寝たきりになっている森川屋の叔父さんが芸北神楽をしていたとは……。
いままで生活に直接関係がないことだったので、話題にあがらなかったのでしょうか。でも私はこのとき思ったのです。なんと素晴らしい文化を背おっていることか……。
いままで、話題に出たことはありませんでしたが、心の奥底にしっかりとお祖父さんに手を引かれて観た芸北神楽が生きているのです。それは夫の文化です。難しいことでなくそれが文化なのではないかと思いました。こうして何かの拍子に熱く飛び出し心に残っている物、それが文化ではないでしょうか。郷土を離れていても、また忘れたように見えていても、古里を恋うるように心に魂にしっかりと描かれて残っているもの、昔を思い出し描ける事、それが文化なのだと思いました。きっとそれはその人の「生きる素材」に影響してくるものではないでしょうか。それが文化なのだと思えました。芸北神楽という形だけでなく、普段必要が無く忘れていた記憶。お祖父さんと一緒に手を繋いだ温かさ、空気、言葉……それらが文化であり、残されて行く財産なのではないでしょうか。
私も一度この芸北神楽を見たいと思いました。そして子供達にも見せたいと思いました。それがDNAであり文化ではないでしょうか。心のどこかに残り受け継がれ、見た目の食べ物でなく、心の食べ物になる。そして次世代へまた栄養として残っていく、それが文化なのだと気が着きました。


なんだか呼吸をしているような「樹の影」にそんなことを思いました。樹のもとで一休みする頬に悠久の風が流れて行きます。一服をして思いだしたこと、気が付いたことなどをこれからも樹の影に話してみたいと思います。


  緑陰をなせる大樹に抱かれて

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