来た道行く道通りゃんせ/風にのって花ひとひら

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虫の話

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マツムシ草
 

 草叢に落ちる陽射が柔らかくなり、首筋を爽やかな風が通りぬけていく。合歓の大木にニイニイゼミが鳴いている。夏? 秋? 夏と秋がせめぎ合い綱引きをしているのだろう。
 夜は秋が大勝だ。
煌々と月に照らされた草叢から、湧き起こるように虫の音が響きだす。その風情に夏の余韻も消えていく。
しかし暫らくしてその鳴き声があまりにも騒々しく、夏を蹴散らし我が物顔で鳴いているようにも思えてきた。
 半月ほど前には、クマゼミが喧しかった。朝早くから「シャカシャカ シャカ」と寝床から私を強引に引きずり出し、暑苦しさをかぶせるように鳴きたてていた。どうしてか、例年聞き慣れているアブラゼミの鳴き声が少なかった。アブラゼミは名前からして(油の熱さ)を感じるが、クマゼミのような厚かましさはなく、「今日も暑いですよ。お機嫌いかが」と、朝の透明な空気の中をさぐるような、慎ましい謙虚さがあった。また一日の厳しさを抜けた夕凪の中を、ヒグラシゼミが「今日もご苦労さん」と労ってくれる。しかし、これも今年は二、三回しか聞いていない。
 我が家の庭に、何か異変が起こっているのだろうか。
クマゼミは本来、南国生れの外来産が日本に居着いたと言う。秋虫の騒々しさも、暖冬化の影響だろうか。万葉の時代から奏していたものに加え、聞き慣れていなかった南国産の虫も加わって鳴き(喚き)通おしているのだろうか。「ガーガー ジャカジャカ ゴーゴー」と鳴き立てる。昔の野もこんなに騒がしかっただろうかと、その騒々しさに体が沈みそうになって首をかしげる。

 虫の鳴き方にも、いろいろある。「ほんなき・さそいなき・あらそいなき」(ひとり鳴き、くどき鳴き、脅し鳴き、とも言う)虫の鳴き声は人間の言葉と同じで、意思を伝えるためにいろいろと上手に使い分けて鳴く(虫も人も同じなのだ)。
 エンマコオロギの本鳴き(ひとり鳴き)は「コロコロリーリーリーリー」と鋭く透き通る声で鳴いて自分の位置を知らせ、同性にテリトリーの誇示と異性を誘い込む効果を発揮する。誘い鳴き(くどき鳴き)は、「コロコロリーコロコロリー」と控えめに優しげに鳴く。きっと♀が側にいて愛を語るプロポーズなのだろう。脅し鳴きは「キリキキリキリ」と激しく複雑な声で鳴き、縄張りに同性が侵入して、♀の奪い合いになる。戦いに勝ったときには「勝ち鳴き」もあげるようだ。
このようにそれぞれの虫が、それぞれの鳴き方で鳴きだすのだから、賑やかになるのは頷ける。(私は台所の隅のほうから「コロコロコロ」と、もの寂しくか弱く鳴くコウロギや、「チンチンチン」とリズミカルに鉦をたたくカネタタキが好きだ。そして、「くどき鳴き」が好きだ。秋の夜長に、人では不可能なので、虫に口説かれた面持ちで聞き惚れているのだろう)。

 そんなことを思っていて、我が家は虫の来訪が多いことに気がついた。
 この夏に帰郷した孫の女の子は、私が抱っこをしようと腕を広げたとたん泣きだした。大きな土産袋を両手に靴を脱いで上るなり、なんとミツバチを踏んだのだ。泣く孫とおろおろする私に、娘が「針を抜いたからもう大丈夫、大泣きしたら体に毒が廻るからね」と諭している。これはそっくりそのまま、過って私が娘を育てていたときの姿だ。(なかなか親の貫禄がでて来たものだと思う)。
就寝中にムカデに噛まれまた大泣きだ。これはキンカン(塗り薬)を塗るだけで治まった。それにしても柔肌の女の子ばかりを狙うとは、虫も油断がならない。
男の子の孫の方はハチの巣を見つけた。バッタを見つけカマキリが振り上げる斧に驚き、爺ちゃんと虫篭を買いに走った。網戸にセミやカブトムシが光りを求めて衝突してくる。トカゲもいる。もちろんアリの行列も。黒アゲハも飛んでくる。ヤモリが台所の窓に丸い吸盤を映して、カを捕まえる。夕立が通り過ぎれば、小さなカタツムリやミミズが草叢から出てくる。ダンゴ虫も、トンボもカナブンもクモもいる。
 危険な目にあいながらも、我が家を恐がらずに孫たちが帰宅してくれたのは有り難い。
 その嬉しさが置き土産になって私の胸に残る。
もう一度その置き土産を開けてみよう。 

 昼に砂糖蜜を塗っておいた木に、集ってくるクワガタやカブトムシを期待して夜に捕まえに行く。漆黒の闇の中を一列に並び虫篭を期待で一杯にして、手探りで進む。いきなり懐中電灯に照らし出されて、浮かび上がった甲虫類の角は勇ましかった。子供たちが部屋に、カナヘビ(トカゲ)を持ち込んで競争をさせる。カナヘビはそのまま家具の隙間にもぐりこみ、忘れたころに私を飛び上がらせた。天井裏にトックリバチが巣を作った。天井裏へ煙の殺虫剤を置く。階下の一部屋で家族が固まって震えた。壁の中を伝い、凄い羽音をたてハチが降りてくるのが分かるのだ。その羽音で家が揺れるようだった。後には綺麗な巣が残っていた。洗濯機に衣類を入れるときは、カナブンが入っていないか確かめる。ユズボウ(柚子坊)の大きな目と睨みあいそれがクロアゲハになるのを学ぶ。カマキリがTVの上で、映像に合わせてダンスをしていた。長男を叱って外に放り出したとき、ドアーを叩いて泣く。「ムカデに噛まれた」。それを聞いた長女が「マムシに噛まれた」と聞き、「死ぬ!死ぬ!お母さんのバカ」と泣き叫び、私を怒る剣幕には驚いた。マムシと言えば、私の入院中に夫がマムシを捕まえて吊るしておいた。「お父さんとても格好良かった」と子供達は、その捕獲物語を上気して退院してきた私に語るが、胆を潰した私はまた寝込んでしまった。フエンスに絡まる蛇を握った子もいる。トンボやチョウを追いかける。オンブバッタを離そうとする。部屋の隅に毒々しい朱赤でヌメヌメしたものを見つけ悲鳴をあげたが、それは私の小さい時にも池に泳いでいたイモリだと分かると、心を落ち着かせ「生き物には大切な命があり、むやみやたらに自分勝手に持ち帰らない」と、急いで池へ返しに行かせた。しかし、怒ってばかりいる母親も、実は子供のころ虫と遊んだのだと見抜かれてしまった。ケムシにも刺される。チャドクガの針が風にのって洗濯物に刺さる。それを着ると針が体に移るのだ。蚊に刺されるどころではなかった。
虫だけはない。ヘビもいた。イタチが屋根裏を走っていた。コウモリもいた。タヌキもキツネもいた。ホタルも飛んできた。セミが這い出た穴は、庭に見事な点描模様を描いていた。
 我が家には、沢山の生き物が生息していたのだ。(いまは見かけなくなったものもいるが) 子供たちや孫は、小さな命に興味を持ち大きくなっていく。これは幸せな体験だろうと思う。騒々しく感じる外来産のセミであれ秋虫であれ、懸命に命を繋いでいる。そんな虫たちに囲まれ、生活の出来ることは有り難い事なのだろう。そのことに気がついた。
 そうして、もう一つにも気がついた。
人間に住む虫だ。人間の心に生まれ巣喰う虫だ。泣き虫・弱虫・怠け虫・怒り虫・浮気の虫に遊び虫……。
 庭にこんなにたくさんの虫がくる。なにもこれ以上、虫を増やすこともなかろう。
外からやってくる虫の侵入は、私の力では止められない。しかし、人に巣喰う虫は自分で選り分け止められだろう。増やさなくともよい虫は侵入させないことにしよう。

 置き土産の袋が、そう語っていた。


     一心に鳴くちちろ虫探す宵

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