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おならのおはなの挿絵
誇り高き花 ヘクソカズラ
空高く散策が楽しい時である。赤い実が目につく。サルトリイバラ、ノイバラ、ヒヨドリジョウゴ、マユミにサネカズラ、ヤマボウシ、ハナミズキ、ガマズミ、アオキ……。白い実も目につく。ナンキンハゼ、センダンの実は青空に零れている。
ノブドウのグランデーションも、紫のムラサキシキブもある。黒と赤の絶妙な組み合わせのタンキリマメ、クサギもある。どれも精一杯装おっている。嬉しい秋野がどこまでも広がってくる。
そんな中、目立ず物静かに、言うならば燻し銀とでも言うのだろうか、悠久の時を静かに封じ込めたように光っている実がある。
キャラメルを小粒に丸めたような琥珀色の実だ。蔓が絡まり陽を受けて反射している実は晩秋を丸めたように美しい。
ヘクソカズラの実だ。
皀莢(さいかち)に 延(は)ひおほとれる くそかづら 絶ゆることなく 宮仕へせむ
と、万葉の時代から「クソカズラ」と言われ、名前を面白おかしく語られるあのヘクソカズラだ。
夏のあいだ小さい花を次次に咲かせ、その可愛さにサオトメバナとも、またお灸をすえているように、花の中心に火が点ったようにもみえることから、ヤイトバナとも呼ばれているが、全草に異臭があることから、ヘクソカズラと呼ばれ蔑み面白がって言われる事の多い蔓生の草である。
しかし、ほんとうは厳かな花なのだ。ピカピカと光る琥珀色が誇らしく輝いている。
伊勢神宮は天照大神が約2千年前に鎮座され、お社の式年遷宮の制度が、千三百年前の天武天皇の時代に作られた。それ以来ずう〜と二十年毎に社殿を新しくされて続いている。社殿だけではない。装束から調度品のすべても新しくされる。
平成二十一年十一月三日には、遷宮を四年後に控えそれに先立ち、五十鈴川にかかる宇治橋が、檜の香りも新しく「宇治橋渡り始め式」が厳かに執り行なわれた。
式年遷宮は、新居にお移りになられる神様の新しい息吹もさることながら、優れた日本の伝統工芸の技術を絶やさないためにもあるのだと思う。二十年サイクルで遷宮の度に新しくするのは、勿体無いと感じる人もあるかも知れないが、千三百年前の昔の寿命からいくと、二十年と言うのは技術を伝承していくぎりぎりの年限ではないだろうか。現在平均寿命は大きく伸びたとは言え、二十年という期間は技術を守る職人達の匠の技を伝承して行くのに、相応しい年数なのであろう。
また遷宮を執り行なうことにより、経済の活性化も図れる。
私はこの知恵の深い仕組みに驚くと共に、千三百年もの長い年月を伝える、世界に類無きこの伝承方法に日本人として誇りを覚える。
新しくされる調度品の一つに、矢を入れる籠もある。その籠の材料がヘクソカズラだと言うのだ。万葉の時代から「クソカズラ」と呼ばれているあのヘクソカズラだ。
ヘクソカズラの臭さが虫を寄せ付けない。蔓を誤まって引きちぎると手には、何時までも悪臭が残る。その悪臭が防虫になると言うのだ。そのためヘクソカズラの蔓が使われる。古人のこの知恵には感服するばかりだ。
式年祭に先立ち、山歩きの有志の人たちによってヘクソカズラの蔓が集められる。蔓は湯がかれ、干され、均一になめされて籠に編まれていく。細い細い蔓である。悪臭と戦いそれは気の遠くなるような作業工程であろう。何人もの人の手が関わっているのだ。日本の伝統文化を絶やさない心意気と苦労が滲み出ての技である。沢山の人の手と知恵と汗で、脈々と続いている技だ。これは、脈々と続いている日本民族の心意気でもあろう。
赤や白の実を抑え、琥珀の実が悠久の時を経てピカピカと光る。
陽に誇らしげに光った。実は潰さない限り臭くない。琥珀に光る玉は宝石の輝きを持つ。
♪ お話 おならのおはな 花ひとひら 作
家族揃って お夕飯が 始まりました。
「いただきま〜す」 元気に勝君が言ったとき
「プウー」と おならの音が……。
お姉ちゃんが「勝! 行儀が悪い」と嫌な顔をしました。
勝君は下を向いたまま 大好きなハンバーグも食べないで
しょげてしまいました。
それを見てお婆ちゃんが
「勝 あした野原に行こうか?」と 誘いました。
次の日 お婆ちゃんと勝君は緑の波の田んぼを抜け
赤とんぼに挨拶をして 小川近くの野原にやってきました。
ラッパのような白い小さな花が 土手のたくさんの草に絡みついていました。
よく見るとそのラッパの真ん中は赤く そこから「プウープープー」
と音楽が出てきそうです。
「勝 その花のつるを引っぱってごらん」
つるをつかんだ勝君は
「わあぁ〜!臭いよ〜」いそいでつるを離して
汚い物をさわったように ズボンで手を拭きました。
お婆ちゃんが笑いながら「これはヘクソカズラだよ」
勝君は小さな声で聞きました。
「ひよっとして婆ちゃんも 昨日の僕のオナラのこと 怒ってるの?
それでここへ連れてきたの?」
お婆ちゃんは「違うよ」と優しく言いました。
「ヘクソカズラは『臭い臭い おならの花だ』って嫌われるかもしれないね。
でもね とても大事な草なんだよ」。
「どうして?」
「この臭い匂いが とっても役にたつの」
「勝は前に走っている馬の上から 矢を飛ばすのを 見たことがあるね」
「うん あれ流鏑馬(ヤブサメ)ていうんだ」
「さすが勝は賢いね よく知っているね」
「じゃあ飛ばす矢を入れていた 入れ物を知っている?」
「うう〜ん なんだか知らないけど 背中に籠を背負い
そこから矢を抜いて飛ばすんだ とても格好良かったよ」
「あの籠が この臭いツルで編まれているんだ
沢山の人たちが このつるを集めて つるを茹でて 干して
綺麗に滑らかにして 何日も何日もかかって 籠に編むんだね」
「軽くって丈夫で そしてこの臭い匂いが虫を寄せ付けないんだよ」
「ずううと大昔から編み返されて 大事に残されているんだ」
「たくさんの人たちの 苦労と知恵でこの臭い草を守っているんだね」
「うふ〜〜ん とても大事な草なんだ」
勝君は感心してお婆ちゃんの顔をみました。
「そうだよ 自然には無駄なものなんか な〜んにもないだ」
「勝も臭い臭いと 逃げないでちゃんと
ヘクソカズラさん こんにちはありがとう」って挨拶をしようね。
「うん 僕どのお花にも木にも ちやんと挨拶するよ。
みんな 役にたっているんだね」
「勝は賢いね 勝もみんなを楽しませてくれるし 役にたっているよ」
勝君はヘクソカズラのお花を お姉ちゃんへのお土産に摘みました。
「昨日はごめんね でもおならだって大事なんだよ」って
言おうと思いました。
名をへくそ蔓といい悠久の時刻む小さき花
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
悪戯 木村徳太郎
湯構(ゆぶね)に 鯉を 入れようか
すると 大人は 驚くだろう。
「あ〜い〜湯だね このお湯は」
湯然(のんびり)つかって ゐたならば
鯉がぴくりと つゝくから
大人は喫驚(びっくり) 湯構(ゆぶね)を上がる。
すると 子供は 落ちついて
知らぬ顔して 這入るのだ。
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