来た道行く道通りゃんせ/風にのって花ひとひら

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11月の歌(柿日和)

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実寸大の柿
           日和 
 地元にある芸術系大学が地域と組み、いろんなイベントを行なっていた。その一つに「ブォーリズ・カフェ」があった。赤いレンガ塀に囲まれた三角屋根と、尖った塔の可愛い教会は、ウイリアム・メレル・ヴォーリズの手によるもので、登録文化財にもなっている。地元の誇りの教会だ。以前から温かく優しい感じのする、曲線の扉や蔦の絡まる窓辺に興味はあったが、クリスチャンではないので近寄り難かった。そこに喫茶店が設けられているのだ。知人と早速覗いてみた。教会の窓はステンドグラスとばかり思っていたが、柔かいオレンジ色一色の硝子がはめられ、優しくその色の光が部屋を包んでいた。窓や壁を伝う蔦紅葉に季節を教えてもらっていたが、部屋の中からみると、窓に影を映して光の粒子のように揺れていた。そして静かに音楽が流れてくる。光と影の注ぎ込む空間が、私の心を優しく紐解いて行った。
ここは懺悔の場だろうか。どんなことも包み込んで許されるような気がしてきた。
 私は大の柿好きだ。柿に目がない。秋の好日、毎日柿を食べ続ける。
オレンジ色の光が、柿の世界へ誘うように思えてきた。まるで柿の海を漂よっているかのような光と影である。
「なぁ柿とり(盗り)に行かへんか 」急にあらぬ事を口走る私に、知人がコーヒーを急いで飲みほした。
私は以前から、どうしても気になる事があったのだ。田舎道を走っていると、たわわに実った柿の実が鴉に突かれ、雪のころはヘタばかりが枝に残っている。そうかと言ってそれを盗る勇気もない。「誰も採らへんのやったら貰ろても、ええのんと違うやろか。やっぱり泥棒やろか」と懺悔した。
すると、友は心強い! 「偵察に行ってみようか」と、話がすんなり決まってしまった。教会でこんな会話がなされるとは、お釈迦様いやキリスト様もびっくりだろう。

 オレンジ色の光に背を押され、小春日和に誘われるように野にくり出した。日本百選の棚田で有名な所である。畦の柿の木もなんだか風情がある。鴉に突かれそのままにしておくほうがが良いのかもしれない。しかし、小春とは言え、稲刈りも終え尋ねてくる人も無く静かな田園がセピア色に広がっているだけだった。
女の人が畑仕事をしていた。「柿を一つ二つ貰えませんか(遠慮気味に言う)」「これは渋柿やで食べられへん(不審気に睨むように言う)」「渋柿が欲しいんです。吊し柿にします」と答えると、田圃脇に止めてあった軽トラックの方へ行ってしまった。
戻って来る手に綺麗に乾いた干し柿が二つ。それは、ぼってりとして私の一番好きな乾き具合だ。「食べてみ」と手渡してくれた。口に入れると甘くて美味しい。美味しさに顔が緩む。童心に帰った。
そして、なんと!
「家で食べる分はもう干してあるから、後はいらん。いくらでも採ったらええわ」と言う。おまけに「菊菜を食べるけ」と、手入れをしていた瑞々しい菊菜まで摘んでくれる。私にはその女性がマリアさまに見えた。
しかし私たちは、急な偵察だったので鋏みを持って来ていない。手の届く範囲の柿を数個いただいて帰った。
 翌朝早起きをして、高枝鋏みを携え大手を振って柿の木へ向ったのは言うまでも無い。

 私は誤解をしていた。
稔りぱなしの柿を、農家の人は怠慢で採らず農村の衰退のように思っていたのだ。成り物を有り難く頂く心、原始の心を失いつつあるのかと寂しく思っていた。しかし、自分たちが食べる分は、ちゃんと採っておられたのだ。高齢化が進んだのであり、怠慢ではなかったのだ。それが分かって安堵した。
 朝靄が流れる中を知人が柿の木に登って行く。これには驚いた。柿の枝に両足をかけ、踏ん張って高枝鋏みを振っている。朝の光をうけ後光が射していた。木登りなど、とうてい出来ない私はまたマリアさまかと思った。彼女がどんどん柿を落としてくる。朱色の玉が清々しい空気の中を走ってくる。私が拾う係りになる。二メートル先に落ちる。駆け寄る。反対側に落ちる。駆け寄る。なかなか忙しい。屈んで拾う背中に「ゴ〜ン」と音を立てて特大の柿が落ちてくる。可笑しいと二人で笑い転げる。たまには上手に柿をキャッチする。私は土手を降りるのもへっぴり腰で、お尻で滑らないと下りられなかった。知人はそんな私を見かけによらない人だと笑う。私も知人を、見かけによらない猿人?だと笑う。お互いそんなことが可笑しいとまた笑う。澄んだ空気の中を老婆二人のはしゃぐ声が流れて行った。柿が草叢に落ちる。追いかけると竜胆が咲いていた。野菊の上にも落ちる。たまに、石に当たって割れたりもする。高枝鋏みが陽光にきらりと光り、陽の色ををいっぱいに吸った柿が跳ねる。
 私は思い出していた。やはりこのようにして柿を採ったことがあるのだ。高枝鋏ではなく、竹の先に割れ目を入れ小枝を差し込む。それが柿採りの道具だった。私が使うと竹がよじれて割れてしまう。夫が採り役だった。柿を拾うのは子供達と愛犬のレオ。深い草叢に落ち込むと柿はどこに落ちたか分からない。それをレオが上手に咥えて出てくる。落とされる柿は子供達が上手にキャツチする。私はあまり役に立たなかった。
「あ!こんなところに竜胆が、センブリが、ツルガネニンジンが」と見つけていた。顔をあげると湖西線を走る列車が見えた。その向こうに琵琶湖が見えた。広い広い野があった。住宅公団の開発予定地が、耕作されない田圃と薄を共に広がっていた。そして、柿の木が点在していた。そんな幻になってしまう柿の実を、私たち家族は採りに行った。田圃を売却した人の中には、突然手にした大金を子供が遊ぶお金に使いきったとか、先祖代々の土地を手放したことの慙愧の念におかしくなったとか、お金を海外旅行で使いきり、結局身代をつぶしたとかが噂されていた。
 ある日、ストンと山が消え谷が掘られブルドザーが何台も動物のように動き始める。子供達が化石を拾って遊んでいた山も一夜にして消えてしまう。ただただ人間の力に驚く日々だった。伐採され燃やされる栗や橡(クヌギ)の木を拾って、椎茸菌を植えた。柿は渋柿ばかりで吊るし(干し)柿にした。果皮を剥き枝と柄のT字型の部分を利用して、1本の紐に数個から十数個挟んでいくのだが、おおざっぱな性格の私は、挿む柿の数がまちまちだったり、挿まれる間隔が統一されていない。夫が「同じやるならもっと美的にやれ」と言う。開発地を通り過ぎると在所があり、その里には「柿簾」が整然と秋色を見せていた。私にそんな真似は出来ない。柿を二つづつ振り分けて行き、紐を輪にしてT字型にかけて引っ張る。そういうテクニックを夫に教えてもらった。紐には棕櫚を裂いて使うのが良いと教わり棕櫚を植えた。私は、柿を捥ぎ皮をむき柿を吊るす。その一連の作業が楽しかった。なんだか、知恵を働かせ進化していく原始人になったような手作業の一時が大好きだったのだ。手が渋で黒くなってくる。包丁もネバネバしてくる。布巾で汚れをとる。やっていることが形として見えてくる。その過程が面白いのだ。
 開発地はどんどん整地されて行き、宅地の抽選が始まった。当る確率が100〜150倍とも言われた。柿の木も、田圃も山も川もなくなった。そして5000戸近くのニュータウンが生まれた。里にはもう柿簾はみられなくなった。「心は丸く、田圃は四角」のスローガンが掲げられ圃場整備が始まり、四角い田圃の水田に舞う桜の花びらを求めて、人々が訪れるようになった。

 柿を採り終えたころに、農作業の人の姿が点を置くように見え始めた。採った柿は約四百個もあった。凄い働き人に思えた。

沢山の量の柿を見て、夫が「食べるだけ貰ってくればいいのに」と言う。
「? これ私、全部食べるんやけど」……。
棕櫚で括られた柿簾が我が家の軒先に揺れた。教会のオレンジの光りのような柿簾が揺れた。農家の人の優しい甘味、歴史の甘味、季節の甘味、奮闘の甘味、沢山の甘味が熟成して揺れていく。あ〜〜〜喉が鳴る。


    干柿の甘味のカロリー気にはする

           ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


   秋陽          木村徳太郎   
  
           土手をゆく

           僕の背に
            
           おんぶよ

           秋陽は子供です。

        ___柿の実が  

           光ってて

           秋陽は

           欲しいとぢれました。
           
        ___土手をきて

         黄金の田
       
         二人で
  
         見てますお昼です。

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