来た道行く道通りゃんせ/風にのって花ひとひら

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オカリナを吹こう

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オカリナ吹こう(30)
吉野山 にて 「故郷」
四月十五日、吉野山の吉水神社で<北朝鮮に拉致された被害者全員を日本に
帰国させるための祈祷会>が行われた。今年も参列させていただきオカリナで「故郷」を吹いてきた。
 
今年の桜はどこも例年より1週間は開花が遅れているらしい。
暖かい日もあり一気に咲くかと思うと、寒さがぶり返し、また極端な寒さや霰が降ったりと、なんだかやきもきさせ、じらされ疲れる春先だった。
そんな中、一気に桜が咲いたのだ。一気に野山に春が来た。
春愁とか花疲れという言葉もあるが、やはり満開の桜は人を浮き浮きとさせる。昨年は震災で自粛ということもあったが、今年の花を求める吉野の人込みは順序ではなかった。桜の時期に五回ほど吉野山には行っているので、人込みは慣れているつもりだったが、あまりの人、人にしり込みする気分だった。まだ朝ぼらけのなか、吉野駅は桜色よりはるかに人影の黒色で覆われていたのだ。私はバスやケーブルに乗らないで横の山道を取る。
山からはもうぞくぞくと人が降りてくる。山道は前日からの雨で、かなりぬかるんでいる。山道を降りてくる人と、登りの人が声を掛け合うのが普通であろう。しかしそれもない。ひたすら降りることと、登ることに人は懸命になっているようだ。桜を観終わった人、これから観に行く人、まるで満員電車の乗降みたいな気がしてきた。こんな経験は初めてだった。観桜には余韻がつきまといそれが桜の色だと思っていたが、吉水神社に着くまでに私はあまりの人の多さにひるんでしまった。桜より人のほうが多いのではないかとさえ思うほどだ。
しかし、吉野の桜は天上人にもさせてくれる。桜は普通花を見あげる。しかし「1目千本」の桜は、全山の桜を見下ろして見られるのだ。しかも山桜である。一色の桜色でなく、白色に近いもの、ピンクの濃淡、そしてところどころに常緑樹も混ざる。それは美しい絵巻物だ。人が求めくるのも分かる。
 
 
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染井吉野と異なり、山桜はそれ一本では地味な桜だ。しかしそれが山全体を覆いつくすと別の世界になる。そして、歴史が流れ、桜をを守り継がれるこの世界に歴史の霊と気品が溢れ、人はそれを求めて来るのだろうか。早朝、桜の下ではもう宴が開らかれているが、騒ぐことなく静かに桜の生気を頂いている風で、またキヤラクター模様のシーツに一人静かに横たわっている高齢者も見えた。
 
 吉水神社の境内の大きな山桜の下でも祭礼が執り行われた。
例年オカリナで「故郷」を吹かせた頂いている。今年も山桜がハラハラと皆の肩に花びらを落とす。花びらは風に煽られることもなくゆっくりと舞っていく。それを目で追っている時、突然、花びらのささやきが聞こえた。
山村暮鳥の桜の詩を花びらが歌っている錯覚に落ちたのだ。
 
さくらだといふ
春だといふ
一寸、お待ち
どこかに
泣いてる人もあらうに

一瞬、私の頭の中は真っ白になってしまった。こんなことってあるのだ。「故郷」は今までに何度もオカリナで吹いている。完全に暗譜していると思っていた。だのに一瞬音を忘れてしまったのだ。一緒に吹いていた佐藤出美先生が何事もないように吹き進めて下さった。とても不思議な体験をした。
 
桜は毎年そこにありさえすれば必ず同じように咲く。しかし観る者には、決して同じ桜ではない。それが胸奥から感じられた。しかしそれが、桜が咲くように人も生きていると言うことだろう。
 
 
 初めて世界最古の木管楽器の「ディジュリドゥ」の音魂にも触れさせていただいた。地底から大地を揺るがし、響いてくる心臓を鷲掴みするような音色に驚いた。
このディジュリドゥ、石笛、笛の音とともに「古事記」の原文の読み下しが朗唱されたのだ。
 日本語の美しさ、言霊が声と音に乗って山桜の間を流れていく。
それは幽玄の世界で、またしても私は立ち尽くしてしまった。
 
 古事記に私も自分なりの解釈を持ち、その素晴らしさを自分なりに自分に還元したいと恐れ多くも、表現するのに悪戦苦闘していた。
しかし、この大小田さくら子先生の「やまとかたり」と名付けらるご自分流の読み方で「古事記」の原文を読み下し朗唱なさる声に宿る力は神に近い。そこに響く、ディジュリドゥと石笛の魂音とでも言えばいいのだろうか、その厳かさに足がガクガクと震えてしまった。
私の古事記の始まりは
「稗田阿礼と仰るそれは見目麗しく聡明な若人が、周りの木々もが静かに聞きほれるような美しい声で、この国の原点を諳んじておられました。」だ。
私のこんな安っぽい思い描きは飛んでいくような気がした。
 
 古事記とは音と響きと言霊、「宙の音の言の葉」ではないか。古事記とはこの音、言の葉に誰もが強く突き動かされる何かを得るものではないかと思えた。
 
桜に酔うもよし。それも魂であろう。また人はその爛漫の春に酔う陰で、泣いている人のことを思いやる魂もある。そしてその中に日本の言霊、文化の美しさをも知る。
これはすべて「ふるさと(故郷)」なのだ

 そんなことを思いつつ下山する今年の吉野山参拝になった。
例年と異なる体験をいろいろとさせていただいた。
今後オカリナで「故郷」を吹くとき、私にまた違う感慨を持たせることだろう。
そして帰宅した我が家の「庭ざくら」も満開だった。いつになくこの桜が一番の美しさに観えた。

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