来た道行く道通りゃんせ/風にのって花ひとひら

のんびりしたブログですがよろしくお願いいたします。

弘ちゃんは生きている(1)

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索

全11ページ

[10] [11]

[ 前のページ ]

 (2) 母の叱言で、弘はしぶしぶ机にむかって勉強を初めたが、勉強をする気になれない。腹立たしさをまぎらわせるために、ラジオのスイッチを入れる。
「もう知恵のポストや。それをかけて」
流れてくる伴奏音の違いに美代子が言う。
いつもなら素直にダイヤルを合わせたのだが、妹の仕草で気持がおさまらず、ダイヤルを合わせない。
「母ちゃん。知恵のポストかけてもらってよ」
甘え声で、母に助けをもとめた。
「弘、かけたりよ」
美代子にかわって、母が叱責口調で言う。
「ぼく知らん。かけてほしかったら、母ちゃんかけたり」
 さきほどからの感情的なやりとりで、素直になれない弘は、憎まれ口を母に返した。
「なにっ、 おっ母にさからうのか」
 弘の口応えに母は、半分糸通しを終えたガラス真珠玉の首飾りを、ぽいっと仕事台に投げ置いた。その拍子に半分糸通し終わっていた首飾りの玉が抜けて、ばらばらと畳の上にころがった。
 ころがったガラスの真珠玉をみて、心がたかぶったのだろう、立ち上がった母は、弘に近づき平手で頬を二度も撲(ぶ)つと、
「母ちゃんの言うこと、なんで聞かへん、弘の本当の母ちやんでないからか」
 憎々しげに、言いすぎる言葉をはきだした。
 その言葉に、一層反抗的になった弘は、
「美代子の言うことばかり聞き、僕なにも悪くない。父さんに言って調べてもらう」
 机の前を離れて土間におりて下駄を突っかけて、父のいる集会所に行きかける。
 「お父っあんがなにや。酒ばかりに飲みよって、たまに金が入ると思うと、ええかっこうをしよって、誰がお前なんどに自転車かってくれるもんか」
 外に出かけようとする弘を、とめようともしないで、捨台詞をあびせる。
 母の恐さと、父まで悪く毒づかれた弘は、暗い外に反射的にとびだした。だが村人が集まっている集会所にも行けない。夜になったいま友達の家に行くのも憚れる。
 美代子は自分の子。僕が悪くなかっても、本当の母じゃないから叱る。継母に対する弘の思いだ。悲しさを心の中でつぶやきながら、村の氏神様の前に来た。
参道の鳥居前の石段に腰をおろし、四歳時に亡くなった実母の顔を、星を眺めながら瞼の裏に浮かべようとするが浮かばない。いまの継母の顔が浮かぶだけ。
 「今頃なにをしている」
 石段に腰を降ろして沈んでいた弘を見て、通りかかった担任の梶野先生が声をかけた。
 
    

   木村徳太郎の略歴がある(童謡芸術年刊集。昭和十三年版より)

私は 1915年9月4日に生まれた。
私は 1926年小学を卒へた。
私は 1929年中学中退した。
私は 1930年以来家業を励んで来た。
私は 1932年詩人S.F.Wと仲よしになった。
私は 1935年初めて、詩を作った。そして仲よし達から喜んでもらった。
私は 1936年童謡芸術協会の仲間に入れてもらった。
私は 初めて、童謡を試作しだした。
私は 毎日幸福に生活した。童謡芸術の仲間は皆んな嬉しい、いゝ人達ばかりなので。
私は 明るい性質になった。家業も楽しい、いゝ友達も出来た。生活もだ。
私は 生まれた時も、亡くなる時も同じところだろう。

これほどに優しさを感じられる略歴を私は見た事がない。

そして

「亡くなるときも同じだろう」。

そんな父の願いは、叶わなかった。


娘の私が、今「生まれた時も亡くなる時も同じ」。

人間としての根源的な、その願いを叶えてあげたい。


 父に未完の創作童話がある。「1700枚を越える児童文学界に衝撃を与える問題作」をと意気込んで

執筆に取り掛かった。しかし、それはあまりにもテーマが大きかった。(と私は思う)また、モデルの舞

台となった田舎の人々からクレームがつき、村を去る原因ともなった。

それは鉄筆で一字一字を埋めて行く、ガリ版印刷の小さな同人誌に発表されて、綴られた。

しかし、いつしか児童文学の筆を折り評論、歴史、政治物に転向していく。

そしてそのまま陽に当ることはなかった。私は子供のとき、この作品の続きをとても楽しみにしていた。

これの続きはどうなったのか・・・。

それが父を紐解く源力、原点となった。

しかし、やっと手にいれた同人誌は半世紀を過ぎ赤茶けて、触るとポロポロこぼれて行く。粗悪な藁半紙

で茶色の中の青いインキの字は判読し難い。ポロポロと手の中で零れていき、涙もこぼせない。

しかし、少しずつでも入力していきたい。途中でどうなるか判らない。(完結していないのだから)。

原文とおりとにかく入力してみたい。同人誌は16号まで出された。それ以後は下書きである。原稿用紙

を埋める字は、私には判読しがたい。

しかし、頑張ってみたい。


(みなさまにお付き合いしていただければ、それが励みになる)




長編少年童話
   弘ちやんは生きている  (1)    木村徳太郎

 弘の父が、焼酎を二合ほど一息に飲み、夕飯も食べず、作業着を普段着に着かえて「どんな所が当るかな。金が入ったら弘に自転車を買ってやる」垣内(かいと)の集会所に行きかけて言う。
「ほんとう」
駄目をおす弘に
「母ちゃんに着物。美代子にはシロボンを買ってやる」
とまでつけ加えて言った。
それを傍で聞いていた美代子は
「シロホンと言うのや。なにも知らへん」
と、叩く憎まれ口に送られて、父は集会所に行きかける。
大阪で戦災に逢い、知人を頼って桧牧村に来て十年。山仕事の人夫をして生計をたてる弘の父は ころがり込みそうな金の胸算用で浮ついていた。
それを感じたのか
「それよりも、借りている金を早く返すことを考えなはれ」
夕餉の後始末をしていた弘の母が言う。
「この際返そう。返してもまだ残る。まかせておけ」
胸をぽんとたたいて、見得を張って笑った。
「弘、お父さんの下駄を出した下げ」
母は弘に言葉をかけ、土間の壁に掛けてある堤燈をとり燃え残りの蝋燭をとりかえ、燐寸の小箱も入れて父に手渡す。
弘は下駄箱から、外出向(よそゆき)の桐下駄を出して土間に揃えた。
 新しい下駄で鼻緒が足になじまないのか、地面を二,三度けってはき父は垣内の集会所に出かけて行った。
父が家を出た後、弘は机の前に座って復習を初めた。
 美代子は寝ころがって漫画本を見ている。
 母は模造真珠の首飾りの玉通しの内職をしている。
「町村合併で思わぬ金が入ってえらく助かる」
誰に言うとも無く母がつぶやいた。
「おっ母、思わぬ金って、なんの金なの」
つぶやきを耳にした美代子が漫画本をふせて聞く。
「今度、村と町が一緒になる。それで垣内の山を町にとられぬように、合併になる前に垣内の者に分けるのや」
「山を分けたかって、お金が入らないのと違う?」
まだ得心の行かぬ美代子が再度聞いた。
「そりゃ・・・。美代子にはまだ判らんこっちゃ」
母はぶっきらぼうに言った。と、
「判らんか、山を分けてもらったら、それを売ってお金にかえる」
復習をしていた弘が口出しをする。
「兄いちやんに聞いていない。兄いちゃんはなんでも知っているのやな」
弘に向ってにくまれ口を叩く。
学校で級友からお人好しで好かれている弘だが、学業の成績は下の方で、妹から何でも知っていると言われて反発を覚え
「なにっ」
持っていた鉛筆を投げる仕草をする。その仕草に
「おっ母さん」
と、大仰に声をあげて、母の傍に身を寄せて、逆に持っていた漫画本を弘に投げつけた。
父がおれば喧嘩にならないのだが、集会所に行っておらない。美代子は母親だけの時はめっぽう気が強くなる。
漫画本を投げつけられた弘は、馬鹿にされたと腹立たしくなって鉛筆を美代子に投げつけた。
「弘、やめなさい」
糸通しをしていた真珠玉を仕事台に置き
「兄が、妹をいじめることがあるか」
きつい顔を弘に向けた。

全11ページ

[10] [11]

[ 前のページ ]


.
花ひとひら
花ひとひら
非公開 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について

過去の記事一覧

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
友だち(7)
  • あるく
  • ++アイサイ
  • まんまるネコ
  • ハマギク
  • plo*er_*un*yama
  • こうげつ
友だち一覧

よしもとブログランキング

もっと見る

プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事