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♪ 甘酸っぱい 苺
葉っぱの皿に苺を乗せて「はい。召し上がれ!」甘い匂いが体中を抜けて行く。何も加えずそのまま口に入れる。プチプチ弾ける感触の苺。プチプチと思い出も弾ける。
葉っぱの皿をイチゴミルク色の海に浮かべると、甘い香りの蜃気楼の中を<思い出>という汽笛を鳴ら
して舟が、進んで行く。
1年を通し苺は有るが、露地物は5月。値段の安い旬の苺を子供たちの「お八つ」としてよく出した。
ザル大盛に売られている小さい苺はジャムにする。1パック200円ぐらいの中粒苺が「お八つ」にな
る。一粒で口いっぱいになるような今様の苺はまだ売られていなかった。(あの大粒苺はいったいどれほ
どの大きな花をつけるのだろうか)
苺のへたを取り洗いながら、一つ、二つと口に入れる。そして甘い香りとプチプチの誘惑に、ふと気が
つくと苺の数はかなり減っている。「あ!またやった」
急いでガラスの深皿三つに、苺を分ける。深皿は苺の赤色が映って宝石のように輝く。へたの緑に替えて
青紅葉を一枚加え子供たちの「お八つ」だ。
子供たち三人は「どうしてお母さんの分は無いの?」「私のをあげる」「僕もあげる」とフォークに苺を
乗せて差し出してくれる。「お母さんはいいから、アナタたち、たくさん食べて大きくなりなさい」と、
いかにも優等生のお母さん振りを発揮するが、本当は子供たちより先にたくさんつまみ食いをしているの
だ。自分の食べる分を子供たちに与える親はいるが、子供の分け前を先に食べてしまっている母親だ。
赤い苺に反して青くなっていた。
枕草子に「いみじう美しき稚児の、いちごなど食いたる」とある。苺を弾ける笑顔で食べる子供たちに、
罪の意識を持ちながらながめている。そんな(思い)が甘酸っぱく蘇る。
少女期を過ごした山村は、苺つくりが盛んだった。農家の子供は登校前に朝早くから苺畑に出てひと働
きをしてくる。そして商品にならない屑苺を高さ20センチはあろうかと思う大きなアルマイトのお弁当
箱に入れて学校に持ってくるのだ。蓋をあけると朝露と苺の甘い香りが教室中に溢れた。食べ物はみんな
を仲良しにする。ホームルームで下校時の買い食いや、お八つ持込は直に取り上げられ審議?に懸けられ
るのだが、これはパスだった。みんなの家が作農しているせいもあったのだろう。大喜びで食べる一番は
私だった。「小使いさん」と呼ばれる(今で言う用務員の方)お爺さんが「カランカラン」と鐘を鳴らし
始業を知らにくるまでに食べ終わる。
手も口の周りも赤くなる。教室は苺の香りで充満する。私のノートも教科書も苺の匂いで溢れる5月だっ
た。食べるだけではない。苺の味の感想を言うのだ。苺の美味しさ、と甘い香りはリサーチの真似ごとで
もあったのだ。
私は町から転居してきた。苺のリサーチは、農家育ちでない私が役に立ったが、あまり馴染めない思い
の(苛められていると思っていた)土地で、8年ばかりを過ごし、村を去った。
半世紀ぶりに、初めて同窓会に出席した。会えば懐かしい。
2次会は苦手なカラオケだったが付き合った。それぞれが飲み物や軽食を注文する。そのなかで、H君が
「苺!苺!」と注文する。「なんで苺なん?」と聞く私に「どうしても和ちゃんに、苺をいっぱい食べさせたい。この苺は村の苺だよ。品質改良されて、どこに出しても恥かしくない苺だよ」と・・・。
甘くっておいしい苺だった。私は泣きそうになった。しょっぱい味が混ざり、苺はとても甘酸っぱかった。一粒、一粒口に入れる私を、みんなが笑顔で見ていた。苛められっ子で、あまり思い出したくない村
と思っていたが、そうではなかったのだ。
何も足さずに丸ごとそのまま食べる。口に入れると、プチプチ弾けて懐かしい音がする。
懐かしく、甘い香りがする。 懐かしく、甘酸っぱい味がする。
♪♪ 木村徳太郎 童謡詩【日本の旗】ノートより
♪ 「 ベランダ 」
夕焼け 林檎
波の上
赤いジュースが
流れてる。
ランプのついた
ベランダよ
ジャムの匂いが
流れてる。
お風に乗った
白い船
明日の汽笛が
流れてる。
(注)「ジュース」果実のしぼりじる 童謡芸術年刊集 昭和十三年版より
「最初の原文には、ジュースはシロップとなっており、芸術年刊集に収められた時は
ジュースで発表されております」そして(注)が付けられております
(花ひとひら)
♪ 「 樹の影 」
樹の影 なんだか
生きてゐる
うすうす地面に 呼吸(いき)してる。
鐘の音 夕焼け
かけるから
樹の影なんだか 聞いてゐる
雀が落葉を
つゝくから
樹の影なんだか ふるえてる。
樹の影 なんだか
生きてゐる
うすうす地面に 呼吸(いき)してる。
2006.05.10
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