|
第五章【破綻/カンニング】
【少年の供述調書より】
《パパは僕に、将来賢い人間になれとよく言っており、その言葉から、医師になれと暗示している気がしてなりませんでした。
その厳しい勉強の中で、時には血を分けた親とも思えぬ、感情をむき出しにした暴力を受けながら、勉強をさせられました。
*
僕はよくパパ側のおばあちゃんから、顔を見るたびに、頑張って勉強しいや、親戚は医者や薬剤師が多いんやと言われてきました。
おばあちゃんの口から出る言葉はそのことばかりで、僕はいつも、もうええわ、うるさいと思って、はいはい、と返事をしていました。
そんなおばあちゃんでしたから、僕が厳しくパパから勉強させられ、いろいろ悩んでいる話もできませんでした。いままで、親戚の人などのなかに、僕の悩みを聞いてくれる人は誰一人としていませんでした。
*
僕の悩みを親族や身近な人に相談しようと考えたことはありますが、その人たちは僕が医者になることは当たり前と思っており、そんな人に僕の悩みを相談できるわけでもなく、逆にいろんな人たちが僕の将来を医師になると決めつけることで、僕のプレッシャーにもなっていきました。
*
僕はおばあちゃんやパパから、親戚は医師が多い、パパは1年浪人している、ということを聞き知るようになって、パパが僕の勉強を必死になって監視する理由が分かりました。
それはパパが、自分は苦労して医師になっている、親戚には医師として働く人が多い、僕をどうしても医師にしなければならない、という親戚に対するプレッシャーを感じていたからだと思います》
《少年は子どもながらに、「医師一族」の重圧を感じて育っている。
考えてみれば、その重圧に晒され続けてきたのは、父親も同じかもしれない。
もちろん少年に加え続けた暴力の科(とが)は父親本人のものだ。だが祖母のこの言葉を聞くと、父親の一族が背負う「業」のようなものをかんじざるをえない》
●我が家は医師の家系であるわけでなく、「一族が背負う『業』」などさらさらありませんし、「いい学校いい会社に行くために勉強しろ」とも言いません。
親として、社会に出て自立(律)して生きていくために身につけてもらいたいことがあり、日常生活の中での決まり事は厳しく言って聞かせています。
ただ、そこらへんが、子どもとしてはもっとも反発してくるところでもあるので難しい。子どもの個性はそれぞれなので、それぞれの家庭にとって難しい部分は違うのでしょうけれど。
|