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教育全般

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 第九章【鑑定/少年が抱えていた「障害」】より

《 付添人の2名の弁護士からは、少年の鑑定が請求された。
  鑑定請求書にはこう記載されている(原文ママ・ルビは引用者)。

〈少年は、犯行前に父親に対する殺意を有するに至り、実行に移そうとした事実も認められるが、第1回審判での少年に対する裁判官からの質問にもあるとおり、その行動にも現実味がなく、突飛さがみられる上、さらに、本件犯行もかかる父親への殺意がその端緒となっているにもかかわらず、父親不在の際に敢行され、しかも、放火行為に及ぶ必要性も客観的には乏しいにもかかわらず、これを実行に移している。

このような少年の犯行動機と犯行の間には齟齬が見られ、行為自体も短絡的で了解不能な点が存し(中略)事案の重大性に照らし、慎重の上にも慎重に判断していただくべく、少年の本件犯行時の精神状態を明らかにするため、本鑑定を請求する〉

 検察側は「鑑定の必要性はない」と意見書を提出したが、石田裕一裁判長は鑑定を行うことを決定した。
 結論から言えば、鑑定結果は少年の処遇を決定する際の大きな論拠となった。
 現行少年法に照らせば、16歳以上で殺人罪を犯した少年は、原則として検察官送致されることになっている。つまり、公判廷で刑事裁判を受けることになる。
 少年の場合、年齢と罪状を鑑みれば、検察官送致に該当する。しかし、裁判長が下した決定は、「中等少年院送致」の保護処分だった。
 石田裁判長は「決定要旨」の「結論」の部分にこう書く(原文ママ・ルビは引用者)。

〈少年は、(中略)高校入学後の最初の定期試験で平均点を大幅に下回る点数しか取れなかったという、少年にとって誠に危機的な状況に陥ったことから、遂に不快な感情を抑えつけることができなくなり、実父に叱られずに済む方法として、「実父を殺害して家出をする」ことを決意した。

 そして、それを実行する場面では、広汎性発達障害という少年の生来の特質による影響が強く現れ、放火という殺害手段を選択したり、殺害する相手がいないという現実に合わせて計画を変更できなかったり、継母らの生命の危険に十分注意が及ばなかったり、放火が犯罪であるということに全く注意を向けなかったり、その後場当たり的に占有離脱物横領などの行為を重ねたりしてしまったものである〉

 広汎性発達障害。それが、鑑定人が少年に下した診断だった。
 広汎性発達障害とは、「自閉症」、「アスペルガー障害」、「特定不能の広汎性発達障害」などを含む、生まれつきの資質に基づく発達障害のことである。少年の診断名は特定不能の広汎性発達障害だった。

 近年、非常に注目が高まっているとはいえ、まだまだ馴染みが薄い障害なので、ここで簡単に説明しておく。
 広汎性発達障害の基本的な特徴は、「対人相互的反応性の障害」と「強迫的傾向(固執、こだわり、反復)」とに要約できる。

 平易な言葉にするならば、対人関係において相手の感情をうまく読み取れないというハンディキャップと、一つの事物に集中すると他のことに注意が向かない傾向、となる。そうした基本特性は共通だが、たとえば自閉症は言語発達上の問題を有するなど、障害の程度には幅がある。特定不能の広汎性発達障害は、自閉症やアスペルガー障害のような特定の診断名がつかない広汎性発達障害を指す。
 少年の鑑定書には、こう書かれている(原文ママ・ルビは引用者、以下同)。

〈広汎性発達障害の根底にある注意の障害の中には、あることに注意が向いている時は、他のことにあまり注意が向かずに、周りへの配慮に欠くということがある。その程度は病的であり、単なる不注意という程度ではない。特に現前する物や現在の関心事に強い注意が向くことが多い。そして、抑うつ気分にあるときは、この傾向がさらに強まる。

 今回の事件を引き起こすには、上で述べた持続的な抑うつ気分、注意の限局と、少年のもつ強迫性の字義通り性が大きな役割を果たす。
 事件の理解は、一般的な心理解釈だけでは不十分で、こういった広汎性発達障害の特徴を考慮して行われる必要がある〉》


●私はこの本を読み進めて、最後にこの少年に下された診断を知って驚きました。
「広汎性発達障害」だったとはー。
 その特徴は上記に記されている通りだと思います。
「後先顧みずに行った行動」は、この「障害」に依るものだった部分が大きかったというのですから。

 父親は勉強を押し付けるばかりで、自分の子どもがどのような行動を取り、どのような特徴があるのかなどには、目もくれずにいたのでしょう。
 母親も二人の板挟みとなり、そのような「障害」の存在、ましてや自分の子どもがそうだなんていうことにはまったく気が回らないでいたのでしょう。

 学習障害も含め、このような障害を持つ子は近年どんどん増えていると聞きます。広く一般にこの障害のことが認知され、どのような子どもでもその可能性はあると知っていたら、このようなあまりの悲劇には発展しなかったような気もするのですがー。

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