|
図書館で手にしたときには、340ページという分厚さにちょっと腰が引けたのですが、いざ読み始めてみると、私がこれまでほとんど知らなかった「ボース」という人に対する興味がどんどん掻き立てられ、ここ数年読んだ本の中でも、私の中ではトップクラスに位置づけられる本となってしまいました。
●「中村屋のボース」というフレーズは、これまでにも耳にしたことがあり、「中村屋のカリー」には、どうやらインド人のボースという人と深いつながりがあるようだ…何かおもしろそうだなぁ、とは思っていました。
でも、ボースという人が革命家で、イギリスのインド支配に対して抵抗した結果日本に来て日本でも追われる身になり、「日本にパン屋の草分け」である「新宿中村屋」に匿われ、そこの娘さんと結婚して日本に帰化し、その上で祖国の独立のために行動し、結果的に第2次大戦の際に日本軍に加担し・・・という人生は、私の想像を遥かに超えた、まさに歴史絵巻を繙くような知的関心を呼び起こされるものでした。
さらに、ボースの残した「遺産」として「中村屋のカリー」があり、それが生みだされた背景には、当時イギリスから日本に入ってきていた「カレー」に対して、「自分の祖国のものはこんな味ではない」と、イギリス支配に抗する、あるいは、本当のインドを知ってもらうという意味において心血を注いで作られたものであるというのは、ますますこの歴史上の史実に対する興味を掻き立てられるものでした。
●そんなボースですが、祖国インドの独立を第一として行動した結果、心の内では日本の侵略戦争に加担することはしたくないと思いつつ、目的を達するためにその気持ちと相反する行動に出てしまったので、彼の生涯や業績は死後ほとんど顧みられることがなかったということです。
また、彼は独立運動を通じて、日本の国家主義者たちと親しくなりました。それには複雑な経緯があるのですが、当時の社会情勢としては自然な流れだったと言えなくもないかもしれません。
そして、国家主義者と言われる人たちのことを私は本書を通じて詳しく知ることになりましたが、簡単に言えば「とてもいいところのある人たち」でした。私にとって、彼らのことを知ることも、とても新鮮な思いがしました。これまでそのような人たちのことを知ることは意識的に避けてきた面がありますから。
戦争への加担、国家主義者たちのと親密な付き合い…それらのことを考えると、私のような者がボースのことをほとんど知らなかったのも無理はない、という気もします。歴史の表舞台にはこれまで表れてこなかったものですので。
●中島岳志さんは、ボースのご遺族の方から貴重な資料を預かり、ありとあらゆる彼に対する文献を調べあげただけでなく、彼の辿った軌跡を日本のみならずインドでも丹念に訪ね歩いて、29歳という若さでこの本を著しました。
彼は若くして生涯を左右するようなテーマに出会ってしまったとしか言いようがないのでしょう。この本の中からも、彼の「情熱」が伝わってきます。もっとも、彼の参加したシンポジウムでも、「熱いもの」を感じましたから、もともとそういう人?なのかもしれませんがー。
自分の知らないこと、ことに、自分の思想と一見相反するかのように感じられることを深く知ることが、こんなにもおもしろいことだということがわかりました。
「恋と革命の味」と言われる「中村屋のインドカリー」、今度東京を訪れた際には、ぜひ訪れて口にしたいと強く思いましたー。
|