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佐野元春がインタビュアーのNHK教育テレビ“SONG WRIGHTERS”を私は楽しみにしていますが、今回の松本隆さんの話は、作詞の世界にとどまらない普遍性を持つもので、この人の話を聞くことができて本当によかったと思えるものでした。また、今だから語れるエピソードなども満載でとても興味深いものでした。
●はっぴぃえんど時代からやっていることは変わらない!?ー松田聖子プロジェクト
松本さんは、はっぴぃえんど時代に、質と量で言えば質を追求した詞作りをして、「決して売れないように」とがんばっていた?そうです。でも、はっぴぃえんどの終盤では「売れてきてしまった」ので、居心地の悪い思いをしていたとのこと。
そしてはっぴぃえんどを解散してから、アイドルたちの歌の詞を依頼されるようになってきましたが、今度は「質」の部分はそのまま維持しつつ、「量」、つまり、「いかに広く受け入れられるか」を念頭に置いた「質も量も」追求した詞作りをしていくことを自分自身に課したそうです。
特に、松田聖子という「天才」に出会ってから、作詞は松本さん、作曲はその時代に活躍していた名だたる方々(松任谷由実、財津和夫、佐野元春、等など)と組み、良質な曲を常に提供してきたとのことですが、松本さん自身が自分自身の最高傑作と言っていたのが、はっぴぃえんどのメンバーだった細野晴臣さんと組んだ「天国のキッス」だというのですから、私は驚きでした。
松本さんは、アイドルだからと言って手を抜くなんてことは決して行うことはなく、そのときそのときの自分の最高傑作を作りだす、ただそれだけを思って詞を作り続けていたわけです。
それは、松田聖子という、「レコーディング直前に曲を渡してもすぐに覚えて雰囲気まで感じて全身で表現して歌いきる類いまれなシンガー」と出会ったことも大きなことだったそうです。だから、「常にナンバー1を取れるような歌作り」をしてきたそうですが、それはテクニックでもマーケティングでもなく、「そのときの自分自身の感性を信じて力を出し切る」ことがもっとも大事なことだったそうです。
私も同じ時代に生きた同い年の歌手として松田聖子には愛着があります。そして今でも、彼女の歌ってきた曲はいいものばかりだったと思えるのですが、どうしてそうだったのかの裏づけが取れたような気がして、なんだか今満足しています…?
松本さんは、松田聖子がいまだに現役バリバリで歌い続けていることは予想していなかったとのことですが、それは今だに歌い続けるに耐え得る歌の存在があってこそなのでしょうし、そうして歌い続けられる歌を作ることが松本さんとしても最高に幸せなことのようでした。
●「時代を読む」のではなく、「普遍性」を探求すること、
それはどんな分野にも応用可能な人間が生きて行く根本のことー
この番組は、佐野元春の出身の立教大学で、学生たちを集めての公開録画です。そこで毎回、学生たちからの質問を受けるのですが、そのやりとりもおもしろいものでした。
中でも特に印象深いのは、松本さんの詞作りに対する姿勢です。
「幅広くものごとを知っている。多様な世界を知っている。テクニック的にも十分なものがある。でもそれだけではいいものはできない。肝心なことは常に自分が白紙の状態でその場に向き合い、そのときに持っているすべての力を出し切ること」。
松本さんの伝えたいことはこのようなことだと私には感じ取れました。
そのためにはどんなことをすればいいのでしょう?ーと学生に問われて、それに真摯に答えていたのも印象的です。
「私は中学時代、図書館の書棚の端から端まで片っ端から読破していくことを友人と競っていた時期があります。映画はジャンルにこだわらずありとあらゆるものを観てきました。そのようなことを経てきて残ったものこそが、自分の本当にやりたいことであり、興味のあることなのだと思います」。
そして松本さんは、「自分自身を掘り下げることは、人間生きていく上でとても大切なことであり、そのようなことを続けていくことは、どんな仕事でもどんな分野でも応用可能なもの(力?)が得られる。逆に言えば、それをしていけば人間は生きて行ける」というようなことをおっしゃって、私はなるほど〜と思いました。
私が1986年から1995年の東京時代にやってきたことは、まさに「それ」でした。ジャンルを限定せず本を読み映画を観、音楽会に足を運び、人から話を聞く機会を持つ、それを続けていたことにより、私には生きていく力が備わっていったのでしょうーそうとしか思えません。
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