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〇 浅野裕一『墨子』(講談社学術文庫、1998)

前回の『孫氏』に続いて、ようやく二冊目の本の紹介である。

本書は、中国春秋戦国時代末に、「非攻」や「兼愛」の思想を唱えた墨家集団の著作『墨子』を注釈・解説したもの。
去年末に読んでしまったので、記憶がかなり曖昧なのだが、非常に有益な本であった事だけは確かだ。

人間、平和を望まないものはいないだろう。
多くの人が平和を唱えながら、なお各地で戦争などによって平和が乱されているのも、また事実であろう。
そんな平和を希求する人々にとって、二千年も前に「非暴力」を主張した(と一面ではいいうる)墨子は、(恐らく)自身の主張を補強したいという意味において、強く興味の対象となってきた。
だが、現在の世界平和の考え方と、墨子の考えとは、本書を読む限り微妙なというか、根底の部分で相違があると思わざるを得ない。

すなわち、現在では一人ひとりの人権というものをいちよう認めて、その侵害行為を回避する意味において、世界平和も叫ばれている面は無視できないほどに大きいだろう。
だが、墨子は、もちろんそのような考えもあろうが、非暴力を説くときの理由として、そもそも「天」というものを認めた上で、その天が人間を活かしているのだから、人の傷害行為を天の遺志に背くものとするのである(確かそういっていたと記憶している)。

また筆者は、単に現代的な問題意識から墨子をみようとしておらず、彼の全体的な思想を紹介しようとしていて、実にバランスのとれた構成になっている。
「鬼」が実在する事を、かなり論理的に説明をしようとしている箇所(例えば明鬼下篇)などは、読んでい実に退屈であったが、こういうものを(例えば世界平和を希求しそのために墨子を読もうとしているような)読者に迎合せず、きちんと解説している。

なお、本書読了後、映画『墨攻』を鑑賞したが、あまり面白いものとは思われなかった。
恋愛の要素は、はっきりいっていらないように思われたしだいである。

是非一読を勧めたい。

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三島
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