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雪しまく越(こし)の宿(やどり)の波の音 遠き別れが疼きはじめぬ
味真野にながされし日の中臣宅守(やかもり)も嘆き見にけむ越に降る雪
昨夜(よべ)の月のひかり抄(すく)ひしてのひらに須臾とけゆけり春の淡雪
花散れるさまに降りくる春の雪病めるひとりの窓明るめよ
あといくつ峠越ゆればゆるされむ濡れたる翼のすでに破(や)れしも
変換も消去も叶はぬわが身なれ神の浄めか額(ぬか)濡らす雪
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覇王樹 今月の歌人
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覇王樹8月号は、年一度の結社賞である「覇王樹賞」の発表号です。
※作品は、一人二十首一作品として4月末締め切り、覇王樹の会員であれば誰でも応募する事が可能です。
次席 「淡海徒然」 宮本照男
●ファスナーのたった一つの閉まらねば運の悪さを嘆いてみたり
●読みさしの本はばさりと手より落ちわれに返りて宙をみつめる
●予報まで曇り時々雨という 冬の夜空のこころの振り子
●ケータイに充電するごとわがこころ満たせる術のコンセント欲し
●折り目なく筋目も見えぬ世の中の赤き折り鶴息を吹き込む
●独り居のしばし厨を見廻して無愛想なる扉を開けり
●最澄の山の頂ぽっかりと誤解のない雲 夏雲の在り
●湖沿いの黄色未満の花揺れ通りゃんせの唄の聞こえる
●夕暮れの切り絵のごとき赤とんぼ淡海にあわき記憶となりぬ
●茜さす暮れゆく空の淡海の水鳥たちはまれびとと為る
●見上ぐればこえ無き声の月待ちのもみじ彩づく帰り道ゆく
●年暮れし残る暦の一枚にまだ追いつかぬ融通の無さ
●スポットを浴びし桜の樹の下の光の陰の独り菜の花
●追伸のことば一つを添えたるか八重の枝垂れの桜山里
●八枚のうすき花びら空にむけコスモス一本すいと立ちたり
●炎天の少年サッカードリブルで百個の風鈴一斉に鳴る
●銀塩のフィルム消えて又ひとつモノクロームの時代(とき)は去りたり
●切れかかる電球みたいな星の夜 天才バカボンこれでいいのだ
●未来という街角にはもういない 欠礼葉書指で確かむ
●迷いつつ花折れ峠のつづら折り車止めれば風の私語あり
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覇王樹 7月号・戦争特集「Ⅱ戦争に関する歌」より
臼井良夫 「夏の記憶」
−20年8月14日、二百機のB29が秋田市土埼の石油コンビナートを襲った。
終戦前夜、本土最後の空爆だった。
防空壕・銃後・神風・八月の言葉浮かべて聞く蝉時雨
外苑の雨の行進 映像を幾たび観るに幾たびを泣く
空襲を知らすラヂオの傍に寄り灯火管制の夜を過ごしき
二百機のB29の爆音が夜空をわたるただ延えんと
弁当を新聞紙(しんぶんがみ)にかくしつつ母の炊きたる糅飯(かてめし)を食ふ
結局は昔話にされるだらう君らに語る戦争講話
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覇王樹 7月号爽什より
※爽什は同人の特選欄です。毎月10篇が選出されます。
大木 平 「なんとなく春」
自叙伝など臆面もなく書き残しし福沢諭吉一万円札となる
死を恐るる心そのものも死んでゆくこの一点の思ひつらぬく
連翹の花黄に光る夕まぐれ雨の降りくる気配のありや
窓の外に椿重たく花を垂れ力づくにて春をたけしむ
満点星の花の白さ夕つ陽のそこに照りつくる時もありけり
足たたまぬ人を憎むことありて椅子を廻せばきしむ音たつ
皆様からの忌憚無きご意見を御待ちしております。
コメント欄にお願い致します。
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覇王樹 6月号「爽什」より
永山裕恒 「いびつな記憶」
いぢはるな朝日が夏を呼びだして俺の頭を燻りだす
ぐにやぐにやの太陽ばかり照つてゐた荷役人夫のおいらの青春
夢なんてある訳もないこの俺に一つのことばが光りだす
のけ者にされてゐるのに覗かれる。又も誰かが去つてゆくなり
あこがれは打ち消すことが一番さ高倉健はおいらの兄貴
平原のちひさな祠に射す夕日、闇に侵され俯きだした
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