宗教法人華厳宗東大寺末寺「辰昇寺」ブログ〜運命・人生をひらく

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 昭和22年、ソ連での捕虜生活で三度目の冬が来ました。
志水曹長の捕虜生活はまだ続いており、その日も飢えと寒さに
耐えて壕を掘っていました。
すると別な方向から掘ってきた一団とかち合ったのです。
見ると、ボロボロの夏服で、麻袋の布を巻きつけています。

「俺達よりも酷い状態だな・・」
格好は同情をそそいましたが、作業振りには目を見張るものがありました。
流れる汗を拭う時間も惜しいかのように、懸命にツルハシを
振っているのです。

志水曹長たちは一瞬手を止めて、目を見合わせました。
新鮮な感動が、彼らを襲ったのです。
それは、長年忘れていた溌剌とした仕事ぶりでした。
しかし、それも束の間、別の感情が段々と湧きあがってきのです。
「なんだこいつら、マジに仕事しやがって・・、胸くそ悪い。
こんな連中と一緒に仕事をさせられたんじゃ、こっちがへばってしまう」

志水曹長達は、仕事をしながらその一団の仕事を振りをチラチラと
窺っていましたが、歩哨が見ていようと見ていまいと関係なく
一生懸命に働いていたのです。
休憩時間に、志水曹長達は話し合い、意見がまとまりました。
それは、こちらに歩調を合わせるように、その抗議をすること
になったのです。その代表者として、隊員80数名を代表する
使者に志水曹長が選ばれ、夕飯を終えた志水曹長は相手の部隊を
尋ねたのでした。

「お前たちのリーダーは誰だ!」

志水曹長は、大きな声で居丈高に怒鳴ると、35、6歳ぐらいの
小柄ですが精悍な顔つきの男が立ち上がりました。

「村中一等兵です」

昼間の作業振りがひときわ目立ち、印象に残っていた男でした。

「貴様!敵の仕事に協力しやがって!それでも日本人か!」

志水曹長の頭に血が上り、そして一気にまくし立てました。

「理不尽な重労働のため、我々の仲間がぎょうさん死んでいきよる。
我々の身を守る唯一の策は、サボって体力を消耗させないことだ。
それなのに、貴様らのように無茶をやられたのでは、せっかく保ってきた
統一行動が崩れてしまう。一生懸命仕事をしたら、それだいいものを
食わせてくれるとでも思っていのか!甘いにもほどがある。
明日からは馬鹿みたいに働かんと、わしらと歩調をあわせよ。

志水曹長の言い分にじっと聞き入っていた村中一等兵は、やおら口を開いた。
「志水さん、あなた方は大変な間違いをされている・・」
村中一等兵の口から出た穏やかな敬語に、直観的に目の前の人物はただ者
ではないと感じました。
「あなた方には一番大切な精神の気概が欠けていると思いませんか。
それでは栄養失調に陥り、餓死するのも当たり前です。
失礼ですが、あなた方の目は腐ったサバの目と同じです。」

「私の体を見なさい。私の目や筋肉は、失礼だが、あなた方と違って
生きています。私たちは国境でソ連軍と戦闘し、多数のソ連軍を
殺したため、最低の条件で労働させられています。食事も待遇も
あなた方よりも悪い。しかし、私たちの方が溌剌としている。
なぜだと思いますか。」

村中一等兵の落ち着いた声の調子には説得力がありました。

「私たちは自分たちが捕虜という名の奴隷だとは思っていません。
いやいやながら作業していません。心まで捕虜になり下がったら
そこから全てが崩れていくのです。」

村中一等兵の信念に満ちた言葉と目の輝きは、誇り高い人間のそれでした。

この瞬間、志水曹長には思い当たることがありました。
将校として毅然としていた軍人が、ひとかけらのパンだけが最大の関心ごと
となり、唾棄すべき人間に成り下がっていく例をいくつもみてきたのでした。
それに比べたら、目の前の人物はみじんも誇りを失っていない堂々たる
人間でした。痩せこけてはいるものの、凛とした村中一等兵は説きました。

「大事なことは目的意識です。あなたたちにはこれが欠けている。
希望のない人生は闇だ。確かに日本は戦争に敗れた。でも、再建が残って
います。数百万の英霊に替って、日本を見事に再建する責務が残っています。
日本が焼け野原になり、人心はすさみ、秩序も何もなくなっているに
違いありません。再建は戦争遂行よりも難儀なことにちがいないです。
それを我々が担わなければいけない。」

「・・・・」

村中一等兵の一言ひと言が志水曹長の胸に突き刺ささりました。

「日本を再建するためには、より強固な不動の信念と、頑健な体力が
必要です。ここでの労働は敵のための仕事なんかではない。
いつの日か帰国して、日本再建に向かわなければいけない、その
ための準備なんです。天が与えた試練なんだ。大きな目標を胸に抱き
目の前の仕事に集中するんです。私たちはへこたれない。へこたれて
いる暇なんかないんです。現在の苦しい作業や悪条件は天が与えて
くれた試練なのです。決して敵のための仕事なんかじゃない。
天のまさに大任をこの人に降さんとするや、必ずまずその人の心志
を苦しめ、その筋骨を労せしめ、その体膚を飢えしめ・・・です。
今がそのときでしょう。志水さん!」

志水曹長の頬には大粒の涙がとめどもなく伝わっていきます。
慙愧の念でいっぱいでした。村中一等兵の話が終わったとき
志水曹長は思わず手を握り、「よおし、やります。明日から頑張ります。」
と魂に火をつけられ、立ち上がりました。

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