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 日本のガンファンやガンマニアなら「六人部登」という名を知らない人はいないでしょう。タニコバさん(タニオコバ=小林太三氏)と並んで日本のトイガン(モデルガン&エアガン)の黎明期から今日までをずっとリードしてきた巨匠です。「神様」と呼ぶマニアも大勢いました。六人部さんは2004年にお亡くなりになりましたが、氏が作り上げた作品は今もファンやマニアの高い評価を受け、そういった人たちの心の中だけでなく、流通する製品としてもまだまだ生きています。
 私が六人部さんと最初にお会いしたのは1987年です。場所は東京池袋の夏目ビル(夏目漱石のお孫さんのビルでした)にあったK.T.Wの事務所です。当時私はLSなどのエアガンを設計し、トイガンデザイナーの仕事をしていましたが、広告代理店のグラフィックデザイナーとの二足の草鞋でまだ名古屋にいました。東京に行ったのはホビージャパン社で出版するGUN SMITH3に掲載予定だった電動ガン「バルカン砲 GE7.62㎜ MINIGUN(もどき)」をK.T.Wの和智社長に届けるためでした。実は当時の和智社長が私のマネジメントをしていたんです。
そのK.T.Wの事務所で偶然六人部さんにお会いしました。その時は夜で六人部さんはこれから飲みに行くところでした。ズボンの後ろポケットに無造作に200万円くらいの札束を詰め込んで。六人部さんはキャバレーが好きでした。六人部さんクラスになれば一仕事のギャランティーは100万単位ですから、そのギャラが出たらキャバレーで豪遊してました。私も連れて行ってもらったことがあります。
 その後私は1990年に埼玉県に家族と共に移り住み、東京で仕事をすることになりました。それで六人部さんの工房にも月に1、2度お邪魔するようになったんです。そこで色々と教えていただきました。一流の人というのは出し惜しみしない。自信もプライドも高いからでしょう。聞けば何でも教えてくれました。「ここはどんなふうにやるんですか」と聞けば「それはこうやるんですよ」と実演して見せてくれました。1990年以降に六人部さんがされた仕事の全部を、私はこの目で見ることができました。六人部さんが今何を作っているのか、それがどのくらい進んでいるのか、私は全部見ることができた。六人部さんの仕事のお手伝いをしたこともあります。
 それはタナカから出したマグナブローバック方式のルガ―P.08とブローニングハイパワーの製図です。六人部さんは試作屋さんです。手作りで試作品を作る。言ってみれば「原型師」ですね。だから物は作るけれどいわゆる「設計」はしない。図面は描かないんです。設計は六人部さんの原型を基に他の人がする。その意味では「トイガンデザイナー」ではなく「トイガンモデラー」と呼んだ方が正確でしょうね。
 六人部さんは超一流の腕を持った職人でもありましたから、その原型、試作品は素晴らしい出来でした。でもそこに問題もあった。それを製品とするためには金型で量産しないといけないわけですが、金型ではその名人芸が再現できないんですね。六人部さんは名人芸の手作りだから何でもできる。でも金型では不可能なことが結構多かったんです。それで量産できるようにあちこち妥協して形を変える。その結果、六人部さんの試作品は素晴らしかったけれど量産された製品は凡庸なものになってしまうことが多かった。「六人部さんの試作は一流。でも量産の製品は二流」なんて悪口も言われてました。
 六人部さんは量産のことはほとんど考えなかったんです。原型としての自分の作品を最高の物にすることしか考えていなかった。私はメーカーからの依頼でトイガンを設計するフリーデザイナーですから、当然量産化を前提に設計する。金型を作りやすい形。湯流れが良くて離型もしやすい形に配慮する(「湯」というのは型に流す素材のことです)。成型コストは時間で決まります。一型打つのに何秒かかるか、1分で何型打てるかでコストが決まる。だからそれを考えて設計する。さらに組み立てやすさも重要です。工場で組み立てるのパートのおばちゃんです。そのおばちゃんたちが組み立てやすいように設計しなくては生産性が上がらない。
 しかしそんなことは六人部さんの頭の中にはなかった。それで量産できるように、量産しやすいように原型の形が変えられて行く中でどんどん性能は下がって行った。私の場合もありました。六人部さんの原型のままでは量産できないので一部の設計を変えた。そうしたら「私が作った通りにやって下さい」と叱られました。「でもそれじゃ湯が回りませんよ。無理ですよ」と言ったら「無理でもやって下さい」と言われました。
 六人部さんはトイガン史に残る数々の名作を生み出して来ました。でもそのほとんどは六人部さんが作った原型とは違っている。六人部さん自身が作った限定品ではなく、量産された六人部作品は玄人向けかもしれません。そのままでも十分に価値のある物ですが、ちゃんと分かってるマニア、自分でチューンできる知識や技術を持ったマニアが六人部さんが作った本来の形に戻せたなら、さらにその輝きを増すことでしょう。

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こんにちは。

今回もまた、たいへん興味深いお話です。

>六人部さん・・・「トイガンモデラー」と呼んだ方が正確・・・
そう思うと、機構の発案から試作、量産型への落とし込み・設計までされるタニコバさんの凄さは、また一際だと言えますね。

その2・・・その3・・・その*・・・楽しみにしております/^^)。

2017/7/1(土) 午後 11:19 [ 鍛冶屋 ]

初めまして。
やはり貴殿のおっしゃる通りでそうなんだと思います。勉強になりました。ありがとう御座いました。

2017/7/8(土) 午前 7:19 [ reybow ]


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