|
【機械弁vs負圧弁?】
ウエスタンアームズ(以下WAと略します)と東京マルイ(以下マルイと略)との裁判の話です。世に言う「マグナ裁判」ですね。WAはマグナブローバックの特許が侵害されたとして数多くの企業やショップを訴え、数々の裁判を起こしました。結果的にはWAのほぼ全敗に終わりましたが。それにマグナの特許も既に切れています。
完全に過去の話ですね。
でもライター家業もしている私には過去の話ではすまないこともあります。私はこれまでに何度もガスブローバックの解説記事を書いてきました。「ブローバックランド」なんて別冊も出した。それの奥付を見るとライターにSABURO AOTANI(青谷三郎)、SHIRO MIDORIIKE(緑池士朗)なんて名がありますが、これ両方とも私のペンネームです。そしてイラストレーションはYUKIO HAYASHI(林幸生)。これは私の本名。で編集人も林幸生です。つまり一人で作ってた。
その別冊を出した頃はまだマグナ裁判が始まる前でした。だからWAのマグナもマルイの弁も原理は同じ、とはっきり書けた。でもいまはそうかんたんには書けないんですよ。原理を争う特許の裁判でWAとマルイの弁は別の原理だっていう判決が出ちゃったんですから。もし「同じ」なんて書いたら当然マルイはクレームをつけてきますよ。「原理が違うことは裁判で認められて、うちが勝訴してる!」ってね。そうなると次の号でお詫びと訂正を掲載しないといけなくなります。何しろ司法のお墨付きがあるんですから。最高裁までいって確定している判決ですから、これを覆すのはまず無理でしょう。
さて前置きはこのくらいにして裁判の話に移りましょう。この先は単に「WA」「マルイ」とだけ表記しますが、これはそれぞれの会社の公式見解だったり代表者の話だったりします。法人ですから一人の人間として擬人化して話を進めます。
裁判が始まったのは平成12年(2000年)で最高裁でマルイ勝訴となったのが平成16年(2004年)です。WAはマルイに特許を侵害されたとしてマルイが製造していたデザートイーグルの製造中止、および金型の没収、そして損害賠償を要求した。最初の要求額は損害賠償金3億5105万4000円と弁護士費用2000万円でした。それに利子がつきますから裁判が長引けば何倍にも膨れ上がります。金型の没収は仮執行がなされて金型の一部が東京地裁に押さえられ、マルイはデザートイーグルの製造ができなくなりました。
この裁判の初期には私も少しかかわっていました。マルイの依頼でマグナが負圧弁であることを証明する実験機を作りました。前のタニコバさんの話でも書いたように、マグナも弁の後ろにガスを流している。その流量を調整すれば弁の動きをコントロールできます。そのことでマグナが負圧弁であることを証明しようとしたんです。
頼まれたから作ったんですが、でもこれじゃWAとマルイは同じだって事になっちゃうから、マルイにとっては不利ですよね。当時のWAはまだ機械弁だという主張でしたから、マルイとしてはとにかくWAに反論すればいいと考えていたみたいです。
その後マルイは「あんたのところのマグナは機械弁でしょ。特許出願にはそう書いてある。うちのは負圧弁だから違うよ」って主張しだしました。
ところがそこでWAが「いや、うちのマグナは負圧弁だ」と言い出しました。分割出願で「弁の前の圧力低下で弁が動く」という原理を追加で出願したんです。負圧弁の原理そのものです。そしてこれが認められてしまった。マルイは当然この分割出願は無効だとして訴えたんですが却下されてしまいました。
このときのマルイは「分割出願した物は原出願には存在しない物だから無効だ」と訴えました。でもこれは拙かったと思いますよ。弁の前の圧力低下は自然現象です。別に圧力を下げる仕組みがあるわけじゃない。したがってそれで弁が動くのは特許法でいう「自然法則の発見」に過ぎない。特許法では第2条第1項において「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と特許を定義しています。しかしマグナにはそんな高度な創作はない。自然にガス圧が下がって弁が動くというだけですから、これは特許法第29条第1項柱書(2)の「単なる発見であって創作でないもの」に該当します。
マルイとしてはそこを攻めるべきだったんじゃないかなと思います。それは単なる自然現象であって特許の対象ではない、と。この事は後でまた話します。
それはともかくWAの分割出願は認められてしまった。分割出願は認められると最初に特許を取得した時点に遡って効力を持ちます。そうなるともうマルイはアウトです。「うちのは負圧弁だ」って言ってきたんですから。WAのマグナが負圧弁でそれで特許を取得しているなら、マルイの特許侵害は確定です。マルイは窮地に立ちました。
【負圧弁と正圧弁?】
しかしそこで今度はマルイが「いや、うちの皿型弁は負圧弁じゃない」と言い出しました。「タニオ・コバさんは負圧弁だって言うけど負圧じゃない。負圧でBB弾を飛ばせるはずがない。負圧じゃなくてショウ圧だ。うちのはショウ圧弁だ」って言い出しました。私はこれを聞かされたとき「はあっ?」って感じでした。相手が何を言っているのか一瞬理解できなかった。
マルイは負圧を文字通り「マイナスの圧力」と誤解していたようです。マイナスの圧力なんてあるわけないじゃないですか。「マイナスの質量」といった物でも考えなければ、圧力の最低はゼロです。つまり真空。圧力がそれ以下になるなんてありえない。
それで「いえ、負圧ってのはそういう意味じゃなくて、あくまで相対的な圧力差の問題です。より圧力の低い方を負圧って呼んでるだけです」って説明したんですがわかってもらえませんでした。因みにこの時の「ショウ圧」を最初は「昇圧」のことかなって思ったんですがどうやら「勝圧」って言ってたようです。「負」の反対だから「勝」。って、いくら裁判が勝負事でも「勝圧」はないでしょうに。もっとも後になって「正圧」って言い直しましたけどね。
そしてマルイは負圧でない事を証明する実験機を作りました。実際の製品の10倍の大きさで、ガスルートの各所に圧力計が取り付けられていました。それを法廷に持ち込んで実験した。10倍の大きさですから少々のフロンガスでは動きません。それでガスの代わりに水道水を流しました。そしてその水圧で圧力計の針が動くのを見せて「ほら、圧力が掛かっている。圧力があるんだからこれは負圧じゃない。正圧だ。わが社の皿型弁は正圧弁である」って主張したんです。そりゃ圧力は掛かってますって。当たり前じゃないですか。そうじゃなくって…いや、もうくどいから説明はしません。
そんなこんなでこの裁判は何がなにやらって展開になっていきました。でも結果的には一審の東京地裁、二審の東京高裁そして最高裁と全てマルイの勝ちで終わりました。
かなり話が長くなったので、一旦区切りをつけます。
後編に続く〜
|
全体表示
[ リスト ]


