トイガン

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索

全3ページ

[1] [2] [3]

[ 次のページ ]

東京マルイの次世代電動ガンはなかなかの人気のようです。5万円を超える高額商品なのに結構売れてますね。昔から「オモチャ」が売れる三大要素は「色」「音」「動き」って言われてますから、派手な音と激しい動きのある次世代の人気があるのもわかりますね。でも次世代についてはちょっと言いたいことがあるんです。

マルイは次世代を「ホンモノのリコイルショックが味わえる」なんて宣伝してますが、これ、嘘っぱちですよ。次世代にホンモノのリコイルショック(反動)なんてありません。約300gの重いウエイトを前後に動かして、その反作用で銃を激しく前後に揺さぶることで反動があるように錯覚させてるだけです。フェイク(偽物)ですよ。

こんなことを書くとマルイに怒られるでしょうね。私はずい分とマルイの仕事をしてきました。今でもカタログ落ちしていない私が設計した製品もあります。だからマルイには恩義があるわけですが今はもう取引はありません。つまり「金の切れ目が縁の切れ目(笑)」。

次世代がフェイクなのは最初から知ってました。だってこのプロジェクトの初期には私も加わっていて、最初の実験機を作ったのは私だったんですから。
          反動を体感させる電動ガンの最初の実験機。PSG-1のメカボックスで私が作りました。

もっともこのギミックは電動ガンではなくボルトアクションのVSR-10リアルショックバージョンで先に使われたんですけどね(VSR-10リアルショックバージョンは本当のリコイルショックです。そこが電動と違うところです)。
で、私はアームズマガジンのライターもしてましたから、次世代電動が出たときにそれが銃を前後に揺さぶって反動があるように錯覚させるフェイクだって、本当のことを書いてやろうかって思ったんですが、そこは「大人の事情」でぼかしました。マルイは広告のクライアントでしたからね(笑)

でもその後、マルイはアームズに広告を出さなくなった。理由はアームズが外国製の「マルイのパクリ製品」の広告を掲載しているからと言うものです。でもマルイほどのメーカーがちょっと真似されたくらいで怒るなんて了見が狭すぎますよね。トップなんだからもっと太っ腹なところを見せてほしいですよね。

そのころ私はアームズの編集の人に「広告出さないんなら本当のことを書いてやれよ。金をケチるとどんな目にあうか、雑誌の力を思い知らせてやれ」ってけしかけてましたよ。まるでヤクザですねま、マスコミなんてヤクザな商売ではありますが(笑)。尤もアームズの編集は大人なので、そんなマネはしなかったですけどね。

話が逸れましたが、電動ガンの反動の話です。実はフェイクではない「ホントウのリコイルショック」を生み出すことは可能です。あるメーカーの依頼で私はそれを作りました。具体的なメカニズムに関してはまだ公表できませんけど、内部メカの違う3種類くらいのバージョンを作りました。作動については下記のURLから動画をダウンロードして確認してみてください。これを見ればマルイの次世代がフェイクであることも、私が作った「シン世代」(仮称)がホントウに反動で銃が後退してるのがわかると思います。メカボックス単体だと少しですがノズルが跳ね上がります。

写真を追加します。
これは公開した動画とは別バージョンの物で内部メカも異なります。
約4秒で約10㎝(100㎜)の後退量で毎秒では約25㎜の後退量になります。発射速度は平均で毎秒14.2発(毎分約850発で実銃に合わせてあります)。
1発当たりの後退量は約1.8㎜で銃の重さが約3㎏なので約0.005kgf・m(1㎏の物を5㎜動かす。または5gの物を1m動かすエネルギー)なので、1発当たりこのエネルギーのリコイルショックが発生しています。J(ジュール)に換算すると約0.05Jで10禁エアガンの半分弱くらいのエネルギーです。1秒間では0.075kgf・m(約0.74J)ですね。実際は台車の重量やキャスターの転がり抵抗があるので、それ以上のリコイルショックですが。

この試作機の平均初速は0.2g弾で94..24m/s、約0.89Jでした。
1発当たりの後退量(リコイルショック)を倍くらいにすることも可能ですが、発射速度が毎秒12.5発(毎分750発)位に落ちます。

5


もう2点、写真を追加。これは公開動画の銃の中に入っていたメカボックスです。


「シン世代」というのは「シン・ゴジラ」のマネです。「新」であり「真」でもあって「神」の意味もあるという。

このシステムの長所はホントウの反動であること以外に、メカボックス単体でシステムが完結していることです。つまりスタンダード電動ガンのメカボックスをポンとこれに換えれば、それだけでホンモノの反動が味わえる電動ガンに早変わりというわけです。試作はバージョン2でしましたがこれが一番製造数の多いメカボックスであることと、私が開発を担当したものなのでメカを知り尽くしてもいるからです。

性能も高いです。パワーは次世代より少し強めに設定しました。次世代はスタンダードより電力消費量が多いですが、このシン世代は次世代よりハイパワーでも次世代より電力消費が少ないです。私の自信作ですよ。

開発者としては製品化されて世に出てほしいと思うんですが、色々と事情があってそれは難しそうです。どうも幻のリアルショックメカボックスになってしまいそうです。残念ですね。それでマニアの人にそういうものがあったということだけでも知っておいてほしいと思って、これを書きました。

(まあ、設計や試作はしたけど世に出なかった作品は結構あります。私の寿命が続けば、それをまた作ってヤフオクにでもだそうかな…)


 今回はエアガン(正確にはエアソフトガン)の弾道学の話です。これについては今までアームズマガジンやその別冊、MOOKなどで何度も書いてきました。今回書くのはヤフオクに出品した製品でそのわかりやすい実例があったからです。

 弾道学は大きく分けて「腔内弾道」と「腔外弾道」から成り立っています。そしてこの内と外とでは逆の現象も起きます。弾丸の速度やパワーに関しては腔内では軽くて断面積の大きな弾が有利です。でも弾が銃口を飛び出した瞬間にこれは逆転します。

 火薬(発射薬)の燃焼ガスや圧縮空気、CO2ガスなどで銃腔内を加速される場合は圧力を受ける断面積のより大きい方がより大きな力を受けますし、軽ければそれだけ加速度も増します。エネルギーは速度の二乗に比例しますから、重くて遅い弾より軽くて速い弾の方がエネルギーも大きくなります。しかし銃口を飛び出した大気の中では大きければそれだけ空気抵抗が増しますし、軽いとエネルギーを早く失います。弾速の逓減率は弾丸重量に逆比例するからです。ですから腔外では小さくて重い弾の方が有利となります。

 以上は実銃での話し。エアガンでは事情が違ってきます。エアガンは実銃に比べたら三桁も四桁も小さなエネルギーを目いっぱい使って樹脂性の軽いBB弾を飛ばしています。圧倒的なパワーで重い弾を撃ち出す実銃とは別の世界です。でもそれは発射に関してのみで、腔外弾道では実銃と全く同じです。同じ物理原則に従います。

 では具体的にエアガンは実銃とどう違うのか。それを一言で言うと「パワー効率」ということです。実銃の場合、腔内では軽くて大きな弾が有利だった。でもエアガンではある程度重い方が有利なんです。具体例を示しましょう。



↑これはヤフオクに出品したクラウンモデルのTYPE96ジュニアを18歳以上用にカスタムした物の出品時の設定の初速です。0.2g弾の平均パワーは0.86J。それに対して0.25g弾では0.93J出ています。重い0.25g弾の方が約8%パワーが増している。つまりエアガンでは重い弾の方がよりパワーが出る。これがパワー効率です。

 もっとも全てのエアガンでそうなるとはいきません。条件があります。それはシリンダー容積がバレル長に対して十分にあることと、バレル長も十分にあることです。シリンダー容積の少ない銃では実銃と同じように重い弾は不利になりますし、バレルが短いと加速の時間も短くなるので十分にエネルギーを受け取ることができません。シリンダー容積が十分にあるときは、少し重めの0.25gくらいの弾で最もパワー効率が上がります。0.3g弾になると逆に低くなる。理屈では重い方がいい訳ですが、現実にはそんな大容量のシリンダーやバレル長を持った製品はありませんからね。

 なぜこうなるのか説明しましょう。BB弾を発射するエネルギーはスプリングに蓄えられたポテンシャルエネルギーです。それが圧縮空気を媒介としてBB弾に伝わり、BB弾の運動エネルギーに換わる。このエネルギーの受け渡しを「物理的インピーダンス」とも呼びます。弾が重ければそれだけ加速に時間が掛かります。銃口から飛び出すまでが長くなるのですが、圧縮空気に押されている時間も長くなります。それでこの物理的インピーダンスの効率が上がるんです。つまりエネルギーを受け取っている時間が延びるから、それだけ多くのエネルギーを受け取れるということです。

 しかしこれは上に書いたようにシリンダー容積が十分な場合だけです。容積が不足すれば、加速が遅い分だけその間にBB弾とバレルの隙間からエアが逃げていってしまいますから、腔圧が上がらず初速も上がりません。多少エアロスをしても問題ないくらいの十分なシリンダー容積が必要だと言う訳です。
 
 仕組みは違いますが「加速シリンダー」が有利なのも同じ理由です。加速シリンダーとはピストンの前進速度を加速するという意味です。発射されるBB弾を直接加速するという意味ではありません(結果的にはそうなりますが)。ピストン速度が上がると腔圧のピークが早まります。最高圧で最もBB弾は加速される。ピークが早くなればその最大の力で加速されている時間も長くなる。それで物理的インピーダンスの効率がよくなるんです。この場合もバレル長に対するシリンダー容積が十分にあることが条件です。

 あとHOPでも同じ現象は起きます。HOPの抵抗でBB弾は一瞬止められる。その僅かの時間にシリンダー内圧は上昇しますから腔圧のピークが早まり、加速シリンダーと同じ現象が起きます。ただこれもシリンダー容積が十分であることが条件ですし、HOPを強くしすぎればエアロスも大きくなって逆に初速は下がります。一番効果的なのは弱めのHOPですが東京マルイのMP5Kのように極端にバレルの短い物では強めのHOPのほうが効果が出ます。バレル長に対するシリンダー容積は十分すぎるほどありますからね。半分くらいエアロスしても問題ないです。

 さて上に掲げた写真のデータですが、これはちょっと危ないですね。0.25g弾での最高初速は86.73m/s(0.96J)も出ています。銃刀法の規定によれば0.25g弾で許されるのは88.97m/sまでです。ギリギリ違法ではありませんがその差は僅か2.34m/sしかない。弾速器の計測誤差もありますし、上に書いたようにHOPの状態でも初速は変わってくる。それで落札者さんにお送りした製品は少しパワーダウンさせました。
↓これがその結果です。



 銃刀法で規制外となるのは6㎜BB弾の場合0.9896J以下です。でもギリギリでは危ない。ですから1割程度の安全率は必要です。つまり最高でも0.9J程度に抑えておかなければなりません。コッキング式エアガンは初速が安定しているとはいえ多少のバラツキはありますからね。それで少しパワーダウンさせました。パワー効率のよい0.25g弾でも0.89Jです。もっともそれで0.2g弾の場合は平均で0.82Jになっちゃいましたけどね。まあ、より安全なほうが良いでしょう。

 ここでちょっと蛇足です。

 ヤフオクには同じクラウンモデルのU10ジュニアの大人版も出品しました。性能的にはTYPE96とほぼ同じに設定してあります。ですがU10では重い弾を使ってもパワー効率は上がりません。


0.2g弾でも0.25g弾でもパワーはほぼ同じです。むしろ若干ですが0.25g弾の方が下がっている。理由はわかっています。U10のシリンダーヘッドには僅かですがエア漏れがあるんです。TYPE96も同じように漏れていたんですが、そっちのほうはシリンダーヘッドを分解して気密を完全にしました。それでパワー効率が上がった。しかしU10では漏れがあるために0.25g弾で物理的インピーダンスが上がっても、その間にエアが漏れてしまうから腔圧が上がらない。それで±ゼロで0.2g弾でも0.25弾でも変わらなかったということです。

 で、このエア漏れなんですが、実はクラウンモデルは故意にやってるんじゃないかって思えたんです。重い弾を使えばパワーが上がることをクラウンモデルも知っている。だから重い弾で10歳以上用を超えるパワーにならないように、わざとエア漏れさせてるんじゃないかってね。取り説には「専用0.12g弾以外は使うな」ってな注意書きがあった気もします。これは推測で実験したわけじゃないですけど、今度機会があったら試してみたいと思っています。
 
【東京マルイVSR-10お子様カスタム】

 さて、クラウンモデルの10歳以上用のボルトアクションを18歳以上用の大人バージョン(「大人帝国の逆襲」バージョンと呼んでます)にカスタムしたので、今度はマルイの18歳以上用のボルトアクションを10歳以上用にカスタム(名付けて「子ども帝国の復讐」カスタムです)してヤフオクに出しました。

 これには前のところで書いた「10歳以上用でも重い弾を使えばパワーが上がるのかどうか」を調べる目的がありました。結果は下の写真のとおり。





 カスタムの10歳以上用ではほとんど差は出てませんね。0.12g弾で0.115J。もっともパワーの出た0.2g弾でも0.118Jです。これでは有意差があるとは思えませんね。計測誤差の範囲内でしょう。10歳以上用で許されるパワーは0.135J以下です。この規制値は銃刀法ではなく各都道府県条例の「有害玩具指定」によるものです。以前は0.18Jくらいまでは良かったんですが今は厳しいです。
 
 それで重い弾でパワーが上がることを予想して、少し低めに設定したんですが、重い弾でもパワーは変わっていませんね。逆に0.25g弾では下がっています。これはどういうことでしょうか。あまりにエネルギーレベルが低いので、物理的インピーダンスに関係なく、軽いBB弾でも全てのエネルギーを使い切ってるって事でしょうか。どうもそのようですし、それも0.2g弾が限界で0.25g弾になるとパワーダウンする。

 ではノーマルのままではどうなんでしょうか。それも上の写真に示したようにあまり差はありません。もっとも効率の良いはずの0.25g弾でも2%程度しかパワーアップしていません。この2%差の数値は有意だとは思いますが、前のTYPE96に比べたらずっと小さな差です。これもどうしてでしょうか。

 考えられることはこの製品のピストン速度が非常に高く、腔圧のピークが早いということです。加速シリンダーと同じように、早い段階で最大圧に達し、そのもっとも強い力でBB弾を加速している時間が長くなった。計測はしていませんがTYPE96よりはずっとピストン速度は早いはずです。それはパワーの数値を見てもわかります。写真のグラフは平均値の物ですが、最大値では0.2g弾で97.65m/s(0.954J)、0.25g弾で 87.58m/s(0.959J)も出ていました。

 その要因はピストンヘッドのOリングのサイズがジャストで、もっとも抵抗が少ないことと、シリンダー内径が小さいことです。電動ガンのシリンダーに比べて約17%圧縮断面積が減っています。それだけ圧縮効率は高まり、同じスプリングを使ったとしても約17%最大圧が高まります。その高い圧力で長時間加速できたので、物理的インピーダンスが低いはずの0.2g弾でも十分なエネルギーを受け取ることができて、それで0.25g弾との差が小さくなったと推測できます。

 このシリンダーの圧縮断面を小さくした方が有利だということを、私は30年以上前から言い続けてきました。雑誌等で何度も書いてきましたし、カスタムでも圧縮面積を小さくする「減径シリンダー」を作ってきました。エアを圧縮するエアコッキングではシリンダー内径が小さい方が有利です。逆にガスの圧力で作動するガスブローバックではシリンダー内径が大きい方がより強い力を受けてブローバックのリコイルショックが強くなります。
 
 この事は東京マルイにも何度も言ってきました。ガスに関しては話を聞いてくれてデザートイーグルのハードキックを作りましたし、SIG以降はそれまでの12.5㎜から13.6㎜にシリンダー内径が拡大されています。でもエアコッキングガン(電動も含む)では実行してくれなかったんですよね。今回のVSR-10では別に私のアドバイスを聞いたわけではなく、デザイン上の理由から細いシリンダーになったんだと思いますが、結果的にそれが良かったですね。

 でもこのVSR-10は少しハイパワーすぎると思いますよ。パワーアップの改造など全くしていないノーマルのままでも0.95J以上出ています。マルイは昔からパワーにこだわるんですよ。「こだわり」ってのは今でこそ「こだわりの一品」なんて良い意味で使われますが、本来は「そんな××にこだわるな」って言われるように悪いことなんですよ。

 マルイがパワーにこだわるのは、ライバル他社の製品より常にハイパワーな製品を作ってトップメーカーになったからです。昔LSが0.4Jの製品を出していたときに、後発だったマルイは0.5Jの製品でLSに勝った。だからマルイはパワーを捨てられない。常によりハイパワーな物を作ります。私が電動のM16を開発したときも、最初は0.2g弾で70m/s程度でした。パワーは0.5J以下でした。私としてはそれで十分だと思ったんですが、でも「それじゃあ駄目だ。売れない」といわれて0.6J程度にパワーアップさせました。当時のASGK(日本遊戯銃協同組合)の自主規約では0.4J以下(一割程度のアップは誤差として黙認)となってたんですけどね。今の電動ガンは次世代でも0.9Jくらい出てますね。SPAS12のときも私の最初の設定では1発当り0.4J程度だったのにマルイは0.65Jくらいにパワーアップさせた。そのせいでコッキングがめっちゃ重くなって、ラピッドファイアなんかできなくなっちゃいましたよ。

 マルイがパワーにこだわるのは、ハイパワーなエアガンを求めるファンが多いということでもあるんですが、トップとして業界をリードする責任のある東京マルイにはもう少し安全性に配慮して欲しいとも思います。銃刀法には触れないにしろギリギリでは危ないです。それこそトップメーカーとしての矜持を見せてもらいたいものです。法律ギリギリのいわば「ゲリラ的」な商売が許されるのは業界の弱者だけだと思うんですよね。マルイは圧倒的な強者なんだから。
「おいおい。マルイさんよ、そんなにパワー出すなよ。お宅はトップなんだからもっと余裕を持って横綱相撲をとってくれよ」
ってのが私の気持ちです。
 
 
 
 
【謎の論文】

 WAとマルイの裁判は三審ともマルイが勝ちました。マルイの完勝といえるでしう。その判決は科学的には不十分な部分があったと思いますが、常識的には妥当な判断だと思います。判決は「機械弁」とか「負圧弁」という言葉にはこだわらず、現実に何が起きているのかで判断しています。では何がマルイの勝因となったのでしょうか。

 マルイはこの裁判の渦中である大学教授に依頼してマルイが有利となる論文を書いてもらっていました。マルイの話ではその教授は流体力学の権威だそうです。その論文にはかなり高額な報酬を払ったとも聞きました。マルイはその論文が決め手になって裁判に勝てたといいます。仮に100万円、200万円払っていたとしても、何億円もの賠償金が掛かった裁判ですから、それで勝てたのなら安いものだったでしょうね。でも判決文を読む限りではそんな論文の影響どころか、それが存在した痕跡すらないんです。

 マルイの皿型弁が前に動いているのは間違いのない事実です。しかし銃には弁を前に動かす機械的な仕組みなどは全くない。むしろ逆に弁はスプリングの力で後ろに押されている。それなのに現実に前に動いている。そうなれば弁を動かしているのはそこに充満しているガスの作用による物だと考える以外にはない。そこで判決では

「全中央空間部へ流れ込んだガスが当初から皿形弁の前方側と後方側の双方へ流れ込むことができる構造であること,皿形弁は,コイルスプリングにより,後方への付勢力が働いていること,皿形弁は,コイルスプリングで支えられている外は,比較的自由な動きが可能であることが認められ,これらの事実を総合すれば,被告製品において,皿形弁が後方から前方へ移動するのは,①蓄圧室からの高圧ガスによって,全中央空間部内にガスの流れが生じること,②全中央空間部のうちの,皿形弁より後方部分(ピストンカップ側の部分)のガス圧が,皿形弁より前方部分(中間部形成部材内)のガス圧よりも高くなることの双方又は一方を原因とするものであると推測される

 と判断しています。この推測は正解ですがここには科学的知見はありません。あくまで常識的に考えるとそう推測するしかないという判断です「ベルヌーイの定理」だとか「流速増大による圧力低下」だとかといった物理学の知見や理論も全く出てきません。科学的知見に基づいた判断ではありませんその論文が決め手になったどころか、その影響すら見られない。第一もしその論文が決め手になったとしたらWAは控訴審でその論文に反論しているはずです。しかしWAの反論を読んでもそんな箇所は見当たらない。

 ではその論文はどうなったのか。断定はできませんがたぶん読まれなかったんだと思います。マルイの元専務にでも聞いてみないと確かなことはいえませんが、おそらくマルイは代理人を通じて正規の手続きで証拠として出してはいなかったんだと思います。証拠として受理されたいたら痕跡くらいは残りますからね。正規の証拠でないとすればそれは怪文書の類です。しかも被告が出してきた物だから被告に有利な内容であることは読まなくてもわかる。それで判事(裁判長)はそれを無視したんじゃないかなって思います。

 マルイの勝ちにした判断のひとつは、WAが分割出願した「弁前方の圧力低下で弁が動く」という主張を認めなかったことです。単に圧力低下というだけでその原理や機序の説明がないから理解できない、として退けています。

 ここはちょっと微妙です。特許庁はそれを認めたんですから、裁判所と特許庁の見解が食い違うことになる。しかしWAにとっては痛手です。負圧弁だと認められなかったわけですから。それを前提としてマルイの物が弁の前後にガスが回りこむ前後同時出しである事、そしてスプリングの使い方が逆である事をあげて、マルイの皿型弁はガスの作用で動く物だが、WAの物はあくまでスプリングが押す力を前提として動くと結論付けました。つまりマルイは負圧弁だがWAは機械弁だと最終判断を下したんです。そしてこの判断は最高裁まで変わることはありませんでした

 ここで私には疑問なんです。一審で圧力低下というだけでその原理や機序の説明がないから理解できないと退けられたのに、どうして控訴審でその説明をしなかったのか。説明するのは簡単だったはずです。弁の後ろ側にもガスを回していることを言えばいい。それが負圧弁が働くための条件だからです。というか分割出願したときにそれを言わなければならなかったと思うんですよね。

 最初の機械弁としての特許の段階ではプレシュートを強調する為に、弁の後ろは密閉されていると言う必要があったかもしれない。でも負圧弁だと言い出した段階では、ガスは弁の後ろにも流していると言わなければ話が通じなくなったはずです。それを隠していたから判事は「理解できない」とした。何故WAはそれをずっと隠したのか。初めに密閉といってしまったから訂正できなかったのでしょうか。もし控訴審で「いやマグナも弁の後ろにガスを回している。マルイの皿型弁と同じ前後同時出しだ。弁の後ろのスプリングはあくまで補助であって、このスプリングがなくても作動する(実際にマグナはスプリングがなくても動きます)」って主張してたらWAが勝っていたんじゃないかって思えます。

 これは推測というより妄想ですがWAはマグナが負圧弁であることは最初から知っていた。だって弁(フローティングバルブ)の後ろに小孔を開けてガスを後ろにも回してたんですから。今のマグナは小孔どころか大きな切欠きになっている。だから最初から知っていた可能性も大きいです。でもただの負圧弁では特許として認められない可能性があった。マグナの弁が動くのは川面に浮かぶ木の葉や船が流されていくのと本質的に同じなんですから。前に書いた「自然法則の発見」に過ぎないとして特許を取れないことも考えられた。それで最初は機械弁として特許を取得した。だがマルイとの裁判で負圧弁だという必要が出てきたので分割出願をした。しかしここでも詳しい原理や機序を説明してしまうと分割出願が認められないかもしれない。あるいはマルイから「それは自然現象だ」と突っ込まれる恐れもあった。判事はガスがバレル側に流れて圧力が低下するのは当たり前だというようなことも言っている。だから裁判でも詳しい説明はできなかった。

 以上の事は何の根拠もありません。私の妄想です。

 とにかく裁判は終わりました。前に書いたとおりマルイの完勝でした。マルイにとっては「めでたし、めでたし」だったでしょうが私にとってはそうじゃない。最初に書いたように、こんな判決が出たおかげで本当のことが書きにくくなりました。いえ、全く書けなくはないんですが、それを書くとグダグダと長ったらしい説明をしないといけなくなる、でないとマルイからクレームがつきますからね。だから今では全体構造の違いとか弁が動くタイミングの違いを強調して、原理的なことは一般論としてさらっと流すという書き方になっちゃってます。

 今の私の気持ちを一言で表現すると

「ふっ 困ったものです」(by古泉一樹)

ですよ。


【機械弁vs負圧弁?】

 ウエスタンアームズ(以下WAと略します)と東京マルイ(以下マルイと略)との裁判の話です。世に言う「マグナ裁判」ですね。WAはマグナブローバックの特許が侵害されたとして数多くの企業やショップを訴え、数々の裁判を起こしました。結果的にはWAのほぼ全敗に終わりましたが。それにマグナの特許も既に切れています。
完全に過去の話ですね。

 でもライター家業もしている私には過去の話ではすまないこともあります。私はこれまでに何度もガスブローバックの解説記事を書いてきました。「ブローバックランド」なんて別冊も出した。それの奥付を見るとライターにSABURO AOTANI(青谷三郎)、SHIRO MIDORIIKE(緑池士朗)なんて名がありますが、これ両方とも私のペンネームです。そしてイラストレーションはYUKIO HAYASHI(林幸生)。これは私の本名。で編集人も林幸生です。つまり一人で作ってた。

 その別冊を出した頃はまだマグナ裁判が始まる前でした。だからWAのマグナもマルイの弁も原理は同じ、とはっきり書けた。でもいまはそうかんたんには書けないんですよ。原理を争う特許の裁判でWAとマルイの弁は別の原理だっていう判決が出ちゃったんですから。もし「同じ」なんて書いたら当然マルイはクレームをつけてきますよ。「原理が違うことは裁判で認められて、うちが勝訴してる!」ってね。そうなると次の号でお詫びと訂正を掲載しないといけなくなります。何しろ司法のお墨付きがあるんですから。最高裁までいって確定している判決ですから、これを覆すのはまず無理でしょう。

 さて前置きはこのくらいにして裁判の話に移りましょう。この先は単に「WA」「マルイ」とだけ表記しますが、これはそれぞれの会社の公式見解だったり代表者の話だったりします。法人ですから一人の人間として擬人化して話を進めます。

 裁判が始まったのは平成12年(2000年)で最高裁でマルイ勝訴となったのが平成16年(2004年)です。WAはマルイに特許を侵害されたとしてマルイが製造していたデザートイーグルの製造中止、および金型の没収、そして損害賠償を要求した。最初の要求額は損害賠償金3億5105万4000円と弁護士費用2000万円でした。それに利子がつきますから裁判が長引けば何倍にも膨れ上がります。金型の没収は仮執行がなされて金型の一部が東京地裁に押さえられ、マルイはデザートイーグルの製造ができなくなりました。

 この裁判の初期には私も少しかかわっていました。マルイの依頼でマグナが負圧弁であることを証明する実験機を作りました。前のタニコバさんの話でも書いたように、マグナも弁の後ろにガスを流している。その流量を調整すれば弁の動きをコントロールできます。そのことでマグナが負圧弁であることを証明しようとしたんです。
頼まれたから作ったんですが、でもこれじゃWAとマルイは同じだって事になっちゃうから、マルイにとっては不利ですよね。当時のWAはまだ機械弁だという主張でしたから、マルイとしてはとにかくWAに反論すればいいと考えていたみたいです。

 その後マルイは「あんたのところのマグナは機械弁でしょ。特許出願にはそう書いてある。うちのは負圧弁だから違うよ」って主張しだしました。

 ところがそこでWAが「いや、うちのマグナは負圧弁だ」と言い出しました。分割出願で「弁の前の圧力低下で弁が動く」という原理を追加で出願したんです。負圧弁の原理そのものです。そしてこれが認められてしまった。マルイは当然この分割出願は無効だとして訴えたんですが却下されてしまいました。

 このときのマルイは「分割出願した物は原出願には存在しない物だから無効だ」と訴えました。でもこれは拙かったと思いますよ。弁の前の圧力低下は自然現象です。別に圧力を下げる仕組みがあるわけじゃない。したがってそれで弁が動くのは特許法でいう「自然法則の発見」に過ぎない。特許法では第2条第1項において「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と特許を定義しています。しかしマグナにはそんな高度な創作はない。自然にガス圧が下がって弁が動くというだけですから、これは特許法第29条第1項柱書(2)の「単なる発見であって創作でないもの」に該当します。

 マルイとしてはそこを攻めるべきだったんじゃないかなと思います。それは単なる自然現象であって特許の対象ではない、と。この事は後でまた話します。

 それはともかくWAの分割出願は認められてしまった。分割出願は認められると最初に特許を取得した時点に遡って効力を持ちます。そうなるともうマルイはアウトです。「うちのは負圧弁だ」って言ってきたんですから。WAのマグナが負圧弁でそれで特許を取得しているなら、マルイの特許侵害は確定です。マルイは窮地に立ちました。

【負圧弁と正圧弁?】

 しかしそこで今度はマルイが「いや、うちの皿型弁は負圧弁じゃない」と言い出しました。「タニオ・コバさんは負圧弁だって言うけど負圧じゃない。負圧でBB弾を飛ばせるはずがない。負圧じゃなくてショウ圧だ。うちのはショウ圧弁だ」って言い出しました。私はこれを聞かされたとき「はあっ?」って感じでした。相手が何を言っているのか一瞬理解できなかった。

 マルイは負圧を文字通り「マイナスの圧力」と誤解していたようです。マイナスの圧力なんてあるわけないじゃないですか。「マイナスの質量」といった物でも考えなければ、圧力の最低はゼロです。つまり真空。圧力がそれ以下になるなんてありえない。

 それで「いえ、負圧ってのはそういう意味じゃなくて、あくまで相対的な圧力差の問題です。より圧力の低い方を負圧って呼んでるだけです」って説明したんですがわかってもらえませんでした。因みにこの時の「ショウ圧」を最初は「昇圧」のことかなって思ったんですがどうやら「勝圧」って言ってたようです。「負」の反対だから「勝」。って、いくら裁判が勝負事でも「勝圧」はないでしょうに。もっとも後になって「正圧」って言い直しましたけどね。

 そしてマルイは負圧でない事を証明する実験機を作りました。実際の製品の10倍の大きさで、ガスルートの各所に圧力計が取り付けられていました。それを法廷に持ち込んで実験した。10倍の大きさですから少々のフロンガスでは動きません。それでガスの代わりに水道水を流しました。そしてその水圧で圧力計の針が動くのを見せて「ほら、圧力が掛かっている。圧力があるんだからこれは負圧じゃない。正圧だ。わが社の皿型弁は正圧弁である」って主張したんです。そりゃ圧力は掛かってますって。当たり前じゃないですか。そうじゃなくって…いや、もうくどいから説明はしません。

 そんなこんなでこの裁判は何がなにやらって展開になっていきました。でも結果的には一審の東京地裁、二審の東京高裁そして最高裁と全てマルイの勝ちで終わりました。

 かなり話が長くなったので、一旦区切りをつけます。

後編に続く〜
 六人部さんの思い出を書いたんでタニコバさんのことも少し書きましょう。

 タニコバさん、タニオ・コバこと小林太三氏は日本のトイガン史上最高峰の人です。これからも氏を超える人は現れないでしょう。ですからタニコバさんの説明は必要ないでしょう。

 私は氏の弟子ではなかったので直接教えを授かることはほとんどありませんでしたが、氏が作り出す数々の製品によって非常に多くのことを教えられました。氏の作品はわたしの教科書でした。

 タニコバさんはMGCを辞められた後ご自身の会社「タニオ・コバ」を設立されて活躍していました。タニコバさんはとても人徳のある人で、これほどすごい人なのに偉ぶったところなどは微塵もなく、氏の周りには氏を慕う多くの人が集まりました。元MGC社員や関係者を中心とする親睦団体のような物があって、タニコバさんを中心に飲み会を開いたり、温泉旅行に行ったりしてました。私もそれに混ぜてもらってました。

 1993年の忘年会のことです。そのとき発売されたばかりのウエスタンアームズ(以下WAと略)のマグナブローバックが話題になりました。当然ですね、その年一番の話題作だったんですから。そのときタニコバさんは「これは負圧弁だよ」って言ったんです。当時のWAの説明では「機械弁」でした。つまりBB弾がチャンバーにあるとフローティングバルブと呼ばれる弁がBB弾に押されて後退し、バレル側を開き、シリンダー側を塞いでいる。そしてBB弾が発射されると弁はスプリングの力で前進し、バレル側を塞いでシリンダー側を開く、という機械的な原理だと言う物でした。WAの最初の特許申請にもそう書いてあります。

 しかしタニコバさんは「負圧弁」だと言った。機械的なものではなくガスの圧力差によって弁が動くんだと。実はこれが正解でした。流石にタニコバさんです。一目でマグナブローバックの本質を見抜いていた。
 
 WAの説明ではBB弾がチャンバーにあるときはフローティングバルブの後ろ側、つまりシリンダー側は完全に密閉されていることになっている。特許申請にはそう書いてあるし、後の東京マルイとの裁判でもそれを訂正してはいない。でも実は違った。フローティングバルブの後ろには直径1㎜の小孔があったんです。完全密閉ではなく弁の後ろにもガスは回っていた。そしてこの小孔からのガスの流入がないとマグナブローバックは作動しない。そのことは実験で確かめてアームズマガジンにも書きました。今のマグナは小孔ではなく2㎜角くらいの大きな切欠きになっています。


WAの最初の特許出願ではチャンバーにBB弾がある時はフローティングバルブが後ろに押されてシリンダー側は閉ざされていると書かれていたんですが、実際は小孔が開いていてシリンダー側にもガスは回っていたんです 

  タニコバさんは「負圧弁」を使うんならもっといいやり方があるよね、って感じでこの後USPを作りました。弁はマグナとは違ってスプリングの力で後ろに押されています。それがガスの圧力によって前進する。最初のUSPはタニコバさんらしいアイデアのシースルーの樹脂製マガジンでした。でもちょっとそれは不利だった。樹脂では熱容量が少ないですし熱伝導性も低い。それを補う為にマガジン内に鉛を入れてました。でも樹脂ではフロンガスに侵されてひび割れしたりもします。それでマルゼンとタイアップしたモデルでは亜鉛ダイキャスト製のマガジンになりました。

 タニコバさんは同じ原理によるマルイのデザートイーグルも作りました。USPとは違って「皿型弁」と呼ばれる円盤状の弁です。タニコバさんが作ったのは「前後同時出し」とも呼ばれる、弁がシリンダー側を塞いでいないタイプです。放出されたガスはBB弾を押すと同時にシリンダー側のピストンも押す。でもピストンはスライドに固定されています。重量比でいえば0.2gBB弾だとしたらスライド側は数百倍の重さです。それにリコイルスプリングやハンマースプリングの抵抗が加わるので実際には2〜3千倍の重量比になる。だからスライドが動く前に軽いBB弾は発射され弁が閉じてしまう。

 でもWAのマグナも実は「前後同時出し」だったんですよ。ただ初期の物は後ろに回るガスが抑えられていただけ。今は後ろにもドバッとガスが流れていますから、実質的にタニコバさんの「前後同時出し」と変わりません。

 この「機械弁」か「負圧弁」かと言う点はこの後にWAがマルイを特許侵害で訴えた裁判で重要なポイントとなりました。そのこともまた書きましょう。



全3ページ

[1] [2] [3]

[ 次のページ ]


よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

CMで話題のふるさと納税サイトさとふる
毎日お礼品ランキング更新中!
2019年のふるさと納税は≪12/31まで≫
数量限定!イオンおまとめ企画
「無料お試しクーポン」か
「値引きクーポン」が必ず当たる!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事