紹介文
大阪の私立晴峰女子高校では、理事長の酒井が学校法人を私物化していた。美術講師の熊谷と音楽教諭の菜穂子は、酒井に不正の証拠をつきつけ、理事長退任と教員の身分保障を求める計画に同僚から誘われる。交渉は成功したかに見えたが、その後酒井と愛人が失踪。ふたりの行方を追った熊谷と菜穂子は、交渉を隠れ蓑にした理事長の財産強奪計画に巻き込まれていく-。悪党たちが駆け回るノンストップ騙しあい小説。
感想
久々の黒川さん、関西を舞台にした大金を巡る騙し合いとくれば黒川さんの十八番でありある程度間違いはないとは思うものの著者の「厄病神」シリーズを初めとするこの手の話もよっぽど新鮮味がないときびしいかもしれないという気もします。
友人と創めたデザイン事務所が失敗に終わり仕事を探していた熊谷は私立晴峰女子高校で常勤講師として勤め口を見つけたがなかなか正教員になれずもがいていた。
そんな中、府の教育委員会からの天下り人事により熊谷が同じ学校法人の通信制高校へ左遷されるという噂を耳にする。
熊谷は同じく正教員を目指す体育科の小山田に誘われ音楽科の正教員でありながらいつ解雇にされてもおかしくない境遇の正木と共に学校法人晴峰学園の理事長である酒井の背任・横領などの証拠を武器に自分たちの教師としての職を保障させる計画を実行に移し渋々ながら酒井から「書付」を取ることを成功した熊谷と正木であったがその後二人を先に帰らせた小山田のとった態度に違和感を覚えた二人は小山田を操り酒井を拉致した黒幕の存在を知り酒井を拉致した本当の目的、隠し財産である金塊の強奪計画を知ることとなる。
主人公の熊谷は事業に失敗し一千万の負債を抱え、常勤講師の少ない給料の中から少しずつ返済に充てているという地味な印象、しかもその職を失いたくないために同僚の計画した理事長拉致計画に参加し当初の目的は達せられたものの今度は同じく同僚の女性教師正木に頼られその後の事件に首を突っ込むことになるという自主的な行動のない主人公らしからぬ人物。しかも臆病な性格で巨額の金塊の存在を知った上でもその金塊を奪うという考えにはいたらずどちらかというと好意を持っている正木の頼みを断れぬままズルズルと事件に引き込まれてしまっている印象を受ける。
全体を見ても主要な登場人物は少なく学校法人晴峰学園の理事長で学校という立場を利用して利権を貪る酒井の持つ隠し財産を狙う人々、終始行動を共にする熊谷と正木、過去に酒井に利用された箕輪、箕輪と共に仕事をしている中尾、酒井の愛人で在り裏で他の人間ともつながっているホステスの朱美、晴峰女子高の体育科講師であり箕輪の指示により熊谷たちに理事長拉致計画を持ちかけた小山田といったところ。奪われる側の酒井は別にして構図としては箕輪グループと熊谷・正木コンビの金塊の奪い合いといったところなのだが熊谷たちは理事長拉致事件の真の目的がわからぬまま終盤まで行動をしていることからいまいち緊張感のない流れになっている。
実際、金塊が物語の舞台に登場するまでの流れは理屈がよくわからず、なぜ4千万近い現金を振り込むことによって金塊を管理している会社から2億3千万もの現物を引き出せたのかもう少しそのあたりのシステムを説明してほしいところでした。
キーマンとなるのはホステスの朱美と女性教師の正木という2人の女性キャラで長年北新地で勤めてきたホステスの朱美が男を手玉にとり金塊を自分の物にしようとするのはわからないでもないが彼女が最終的に頼った人物はさておき次から次へと相棒を乗り換える彼女がなぜそこまでその人物を信用したのか、自分の分け前をきっちり貰えると信用しているあたりが府に落ちない。
正木も随所で熊谷の好意に気づいていて彼を利用している感がするのだが違和感を覚えただけの理事長拉致事件に自ら進んで関わろうとする彼女の姿はただの好奇心といってしまうには行き過ぎているような気がして最後にはなにかしらのどんでん返しを期待していたのだがそれまで邪険にしていた熊谷と急に相思相愛となり、しかも控えめな(とはいえ大金であることには変わりないが)要求によってことを収めようとするあたりは納得しづらい。
ここからは本格的な愚痴になるのですが読み終えて感じた一番大きな疑問は根本的な部分、なぜ箕輪は拉致事件という違法性のある行動を取るにあたって自分自身ではなく晴峰学園の関係者小山田を使ったのか、しかも同僚である2人の教師まで巻き込む計画に異を唱えずに外部から見守っている。最終的に箕輪自身が酒井の前に姿を現し、晴峰学園における不正の証拠を突き付けていることから初めから中尾と2人で十分に行える行為だったような気がしてならない。
物語自体は「めでたし、めでたし」といった風を装って終わっているが自分としては酒井の行っていた不正は結局どうなるのか?箕輪たちは報復するのではないか?熊谷と正木のその後は?といった尻切れトンボな印象だけ残り、金塊を手にしたところで実際の持ち主でない彼らはどうやってそれを換金するのか?という大きな疑問まで持ってしまう。
全般を通して騙し、騙される展開を見せてはいるものの最後は駆け足で纏め上げたといった印象で余韻という言うよりも納得のいかない部分が多数ありすぎる気もします。
作中の登場人物たちの会話は関西弁、スピード感のある展開という点では黒川作品らしいと感じるのだが過去の作品と比べて新しいと感じられる部分はなく登場人物たちの騙し合いもワンパターンといったところ、痛快というよりも不自然さを感じる部分が強い作品でした。
※「厄病神」シリーズに見られる桑原と二宮のようなキャラがなく、箕輪や中尾、朱美にしても騙すという行為がどこか中途半端な感じがして物足りない、正木あたりがもう少しあくどいキャラであれば面白かったかもしれません。
マンゾク度:★★☆☆☆
|