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17 ・周辺状況
イツセ 「昨日のお婆の話し、どう思う。わしは途中から胸糞悪うなってなあ。」
ワカミケ 「実際のところ、あの通りじゃろう。」
イツセ 「・・・・・・?? 確かにお主だけは最後まで顔色一つ変えずに
お婆の話しを聞いておったなあ。」
ワカミケ 「・・・・・・・・実はのう、今までに他から2回も同じ話しを聞いておってのう。
確信が持てるまではと兄ちゃんへの報告は控えておったんだけんど、
昨日のお婆の話しを聞いて確信が持てた。」
ナレーター あくる日の呪術師ヒシカを送り返してから、例によって
イツセとワカミケの二人っきりでのボソボソ話である。
二人っきりのときには、ワカミケは御館様のイツセのことを
“兄[アン]ちゃん”と呼んでいる。ワカミケの情報収集能力は卓越していて、
これまでワカミケは、イツセに対し、入手した情報を整理したり
選別したりして的確な情報だけを提供をしてきた。
イツセ 「そりゃあ、間違い無かか。」
ワカミケ 「わしも半信半疑だったんじゃ。が、昨日のお婆の話しを聞いていて、
支配される側の目で見るようにしてお婆の“カタリ”を聴いていたら、
むしろその方が実際の事実じゃろうと確信が持てたんじゃ。」
イツセ 「お主の受け止め方は解ったが、放っておいてもええもんか。んー」
ワカミケ 「どうしようも無かじゃろう。仮にお婆の家系を根こそぎ処分したとしても
裏で伝わる“カタリ(言い伝え)”は脈々と流れる。
きつい“みせしめ”の処分をしたところで、そう言う“カタリ”の流は
さらに裏の奥へ深く潜り、わし等に聞こえてこなくなるだけじゃ。」
イツセ 「むむ・・・・・・・」
ワカミケ 「それに鹿見のお婆には何時か重要な役割を担ってもらわなならん
時がくるはずじゃ。それに昨日のあの場面、ひとつ間違えば
切り捨てられてもおかしくないところじゃ。腹を決めていなすったのう。
ええ度胸じゃッた。あの婆はつかえる。」
イツセ 「解った。ワカミケがそう思うとるんじゃったら、そん事はそいで良しじゃ。
・・・・・・じゃが他に、わしにまだ話しとらん事があるじゃろう。」
ワカミケ 「大王家の周辺の事かのう。いろいろ騒がしいのは今に始まった事じゃない
がのう。大漢帝国からの使者が来た事は、もう話してあるしのう。・・・・」
イツセ 「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
ワカミケ 「分かった、分かった。兄ちゃんには勝てんのう。じゃがこれは、・・・・
まだ噂の域じゃ。兄ちゃんに報告するにはもう少しと思ったんじゃが、
まあ良い機会じゃ。“こんな動きもあるよ”と言う事で話しとこうかのう。」
イツセ 「おーっ、そうこんけりゃあのう」
ワカミケ 「今の王族の中で大王家に反感を抱いちょるのはわし等も含めて少なくないわのう。
性質が悪いのは表向き従順を装って大王家から良い役目をもらったり、
戦での出兵を免れたりしちょるのに、反大王家の仲間を集めようとしちょる伯父貴
達もおる。そん事はちょいと前にわし等ん所にも使いを遣したのがおったから、
兄ちゃんもよう知っちょろう。・・・そん中の一人がなあ・・・・・」
イツセ 「ああ、カブリの伯父貴じゃったかのう。しかしあの辺りがどんな動きをしようとも
どうにもならんじゃろう。ほっとけほっとけぇ。」
ナレーター この段階でのこの情報は全く深刻なものではなかった。
“クーデターの動きかもしれない”というものだったが、
イツセもワカミケも情報の元であるカブリの伯父貴のことは昔から良く知っていて、
とてもそんな大それた事ができるような人物では無いという判断だった。
はっきり言って少々バカにもしていたのである。
伊勢の海の入り江の小勢力であるカブリ一党は、ニニギ支配の開始以来の
由緒ある王族ではあるが、当代のカブリの伯父貴こと“オオイワイ”が
家系を継いだことによって全く精彩を欠いていたのだ。
その理由は一言で言えば、オオイワイの見栄[ミバ]えの悪さだ。
現代風に言えば軽度の身障者で背丈が異常に低い上に、
顔面や手足に痙攣が有り、当然話し方にも違和感が有ったので、
一党の中でも家系を継がせるのに、反対意見も多かったが、
祖父の鶴の一声で決まったらしい。
知能、知略はさておいて、周囲の評価は外見の評価が優先し、
相手にされていないのだ。
ワカミケ 「そうじゃのう、わしもそうは思うが・・・・・・まあ良かか。
あっそうそう、話は違うけんど、今度の東方行を三雲の伯父貴のところへ
届けるんじゃが、何時にするかのう。」
イツセ 「あんまり行きとうは無いが、仕方無いわのう。しかし、
しばらくぶりに伯父貴の顔を見とくのも悪うないか。
日取りは何時でも良えが、届け出の中身はできとるのか。」
ワカミケ 「だいじょうぶ、用意は万全じゃ」
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