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海流と地形略図
「神 武」
第一章 故郷
2・分け合い
さて、日が変わり宇多の河口から上流に向けて少し続く川原である。
川原中に歌声が響き渡ってている。それぞれ作業をする男女が拍子を合わせて歌う歌声が
何とも言えぬ荘厳な雰囲気を醸しながら、作業のほうも手際よく進められているようである。
♪♪ 宇陀の〜 高城に鴫繩張る 我が待つや鴫は障らず いすくはし〜♪♪
三雲の”おとな”達の音頭でしきられ、ときに大声が飛び交っている。
鯨の解体作業である。昨日のうちに川原の水際に準備まれたと思われる肉乗せ台に、次々と
肉の塊が並べられていく。日が昇って間の無い時刻だが、川原にはもう解体作業人と配給を
目当てに集まってきた男女を合わせると五百人以上と見える人々が、それぞれ喜びを満面に
たたえ、歌を口ずさんで“分け合い”の始まりを待っている。
ワカミケ 「作秋は大嵐に2回もやられて稲が不作で前の年の半分もなかったけん、こいはごっつう助か
るのう 兄ちゃん」
イツセ 「・・・・・・ 」
イナイ 「兄ちゃんよー、“宇佐の使い”ちゅうのが来ちょって、そこに待たせとるが、会うか?」
イツセ 「・・・・・・ 肉の処理もせんならんし、あしたの昼、館のほうに出直すよう伝えろ。」
イナイ 「わかった。」
イツセは顎ヒゲに手をやりながら、何か思案するようにイナイの後姿を見送りながら、
イツセ 「ワカミケ、どう思う?」
ワカミケ 「・・・・・・ 宇佐かあ・・なにやら最近、羽振りがいいとは聞いちょるけんど・・・・」
ワカミケには“タガメ”と呼ばれている野盗が取り巻きの一人として、影のように仕えていて
彼の手下の収集してくる情報がワカミケに齎されているのである。
ワカミケには生まれながらにして人を寄せ付ける魅力があるようで、それはイツセも認めると
ころで、一目を置いているのである。他の取り巻きの事は追々紹介していくこととして、それら
の手下を含めると20人とも50人ともいえる大人、下戸、盗賊たちが、ワカミケを中心に得体
も知れず、組織され始めていた。
ワカミケ 「やっぱり、兄ちゃんを担ぎ上げる腹かのう・・・」
イツセ 「まあ、ええじゃろう。明日 やつらの腹腸ん中を覗いてみよう。ワカミケも(同席を)予定しとけ。」
♪♪ 宇陀の〜 高城に鴫繩張る 我が待つや鴫は障らず いすくはし〜♪♪
♪♪ くじら障る〜♪♪
♪♪ 前妻が 肴乞はさば 立柧棱の 身の無けくを こきしひゑね〜♪♪
♪♪ 後妻が 肴乞はさば 柃の身の多けくを こきだひゑね〜♪♪
♪♪ ええ しやごしや〜♪♪
♪♪ こはいのごふぞ ああ しやごしや こは嘲笑ふぞ〜♪♪
大勢の歌声の響き渡る中、何時の間にか三雲の者達の仕切りに従って、「分け合い」が始
まり、しきたりに従い、長い列ができつつあった。
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