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Miki Matsubara (松原みき) - Studio Collection II (スタジオコレクションニ) 『狸三題』
新潟県佐渡島には、『団三郎狸』と呼ばれる狸の伝説が残っとう。
淡路島の芝右衛門狸、屋島の禿狸と並んで『日本三狸』に数えられる、
いわば大親分やねんな。
この団三郎狸、いまでも人をよく化かす。
「平成から令和を迎えた時代に狸て」て笑われるかもしれへんけど、
島の人々は怪事が起こると口を揃えて「狸の仕業や」ていう。
こっちがなおも否定すると、今度は具体的な体験談を持ち出し、
その信憑性を主張すんねんで。
以下は、そんな佐渡島の方々より聞いた、不思議な話やで。
島内で農業を営むMさんの話。
ある早朝、彼が自身の田圃へ向こたら、誰かが青々しとう稲のなかに屈んで
野良仕事に精をだしとう。
草刈りしてんのか思ったものの、雑草が伸びる時期にはまだ早く、
誰かに手伝いを頼んだ憶えもないねんね。
米泥棒にしては、季節があまりに違いすぎるし。
緊張しもって近づいた途端、人影が身体を起こしてこっちを向いた。
「うおッ」
顔も衣服も麦わら帽も、すべて自分とおなじ男がにこにこと笑っとう。
予想外の出来事に驚いていると、男は再び田圃のなかに屈み、そのまま消えてしもた。
気がつくと、朝飯に持参したおにぎりがリュックのなかから消えてたいう。
Kさんが、島の高校に通っていたときのこと。
自転車で学校に向かってると、目の前をひとりの小学生が歩いとう。
せやけど、小学校はまるで別方向やねんな。
具合悪なって早退したんやろか。
小学生の脇を走り抜けてから、なんとなく気になった彼女は、
自転車の速度を緩めて後ろを振り返ったんや。
小学生の姿はなかった。
遠くにかけていく獣の姿が見えた。
あ、化かされたッ。
慌てて通学鞄をたしかめると、放課後の楽しみにこっそり忍ばせておいた
チョコレートが、外箱だけ残して空になってたそうや。
ゴミになるだけやから箱ごと持ってってほしかった、て彼女の漏らした言葉やねんね。
ある年の冬の日、Oさんは佐渡金山周辺をめぐる路線バスのハンドルを握ってたんや。
戸中いう集落に差しかかったころやったいう。
彼方の停留所にバスを待つ人影を発見し、Oさんはスピードを緩めた。
待ってたんは、白髪を丁寧に結った和装のおばあさんやねんね。
そのときは『このあたりで見かけへん顔やな』て、ぼんやり思た程度やった。
首を傾げたんは、次の停留所。
バス停の看板の前に、誰かが立っとう。
和装で白髪結った、おばあさん。
先ほど乗せたばかりのおばあさんに、姿形が酷似してる。
お茶会でもあるんやろか。
言い聞かせてはみたけど、どうにも振りかえる気になれへん。
動揺してハンドル握るうち、バスは次の停留所へと到着した。
「えっ」
着物で白髪の女が、また立っている。
服の下を冷たい汗がつたう。
Oさんは、再々度乗り込んできたおばあさんから目を逸らすように前方を凝視した。
窓の外はいつのまにかすっかりと暗くなってて、ヘッドライトの光のほかは、
暗闇に潮騒が響いとうばかりやねんね。
これはなんやねん。なんやなんやなんや。
確かめるんが怖い。
せやけど、もう確かめずにいられへん。
眼球だけ動かして、バックミラーで乗客席へ視線を移す。
「うわっ」
バスの乗客が全員あのおばあさんになっていた。
ひとり残らず、Oさんを見つめながら笑てた。
驚きのあまり運転席から転げ落ちる。
はずみで、視線が再び車内へと向いた。
「…あれ」
おばあさんの姿はなかった。
座ってんのはヘッドホンしたまま眠りこけとう高校生と、
怪訝な表情でこっちの様子をうかがっとう主婦のふたりだけ。
そのときはじめて、化かされたんやて気がついた。
しばらくは、和服のおばあさんを見ると身構える癖がついてしもたいう。
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