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とある街の南向きの三叉路に春が訪れました。歩行者用信号機の緑の男が赤の男に話しかけました。
「君はいつも立ってばかりでいいね。僕はもう歩き疲れたよ。ねえ、替わってくれないかい。」
「いいよ、僕も立ち疲れたから。一度でいいから歩いてみたいと思っていたところさ。」
こうして、人通りの少ない深夜に入れ替わりました。
翌朝の人間たちの反応は様々です。首をかしげる人、ニヤリと笑う人、ぜんぜん気づいていない人。
歩き疲れていた信号機はとても快適です。じっと立ったままで、春の風と光を受けています。
立ち疲れていた信号機も颯爽と歩いています。気持ちよさそうです。
夏になりました。昼の太陽がいつまでも、じりじりと照りつけます。赤い服を着て立ったままの信号機はたまりません。歩いて少しでも風に吹かれようと考えますが、とんでもない。体が動きません。一歩も歩けません。熱いー。ねえ、替わってくれよと歩く信号機に頼みますが、秋までの辛抱だよと言われました。
快適な秋になりました。立ったままの信号機も満足そうに秋空を眺めています。もう替わってくれなんて言ったことすら忘れています。
冷たい風が吹くようになりました。朝晩の冷え込みが厳しくなりました。そして、ついに雪が舞う冬がやってきます。赤い服の信号機はぶるぶる震え出しました。歩けないなら、せめて足踏みだけでもと考えますが、それすらできません。
「寒いよー。ねえ、お願いだよ。春まで待てないよ。替わってくれよ。」
「仕方がないねえ。じゃあね、君が光る時間を少し長くしようか。僕が歩く時間を少しだけ君にあげるよ。そうすれば、少しは温まるかもしれないよ。ね、春になったら替わってあげるから。もう少し、頑張って。僕は歩きたいから。」
赤い服の信号機はしぶしぶ承諾すると、なんとか立ったまま冬を乗り切ることが出来ました。
「ねえ、今日こそ交替しよう。」
この言葉を何度聞かされたことでしょう。歩く信号機はしょうがないなあという顔で承諾しました。
「およそ一年だったけど、楽しかったよ。君はどうだった? 楽しかったかい?」
赤い信号機は、とてもすまなそうな顔をしています。
こうして、この日の深夜、二人はまた入れ替わりました。
翌朝の人間たちの反応は様々です。首をかしげる人、ニヤリと笑う人、ぜんぜん気づいていない人。
人ごみが何もなかったかのように動いています。(了)
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