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翠雲が、目的地を江戸と定めた訳でもないのに、一行は江戸と決め付け、周囲を警戒しながらも街道を進んでいた。
 
 
翠雲は、高田を出発するに当たり、四人の者と打ち合わせを行い、天土との会話の中で、己の留守に乗じて柳生が動き出す事を伝え、天土には、柳生が三の丸に攻め寄せたならば、一層目の蔵まで侵入を許す様に伝え、二層目の地下蔵の入口までは発見できぬと申し渡し、身を何れかの場所で潜めて頂きたい、と締めくくった。
 
正種、太郎座には、柳生が侵入して来たならば、適当にあしらい、その後、城内へ引き下がる様に申し伝え、味方への損害を極力少なくする様に、と付け加えた。
 
最後に翠雲は筆頭家老である花井義雄に会い、念密な打ち合わせを行った。
 
翠雲が高田を離れる事で柳生の眼が当然注がれている事に気付いており、旅に出る事は柳生への挑戦状とも受けかねない誘いでもあったのだ。
 
其れほどまでにして、柳生に挑戦状を叩きつけるには訳があった。
 
其れは、家康の寿命がいつ途絶えるのか判らない状況であり、己に密命を与えた張本人が亡くなれば、遠路、高田まで出向いて来た事が、何の意味も持たなくなるとの心配からである。
 
松平忠輝の動向を調べ上げ、金塊の秘密を暴き、徳川家康に報告し、幕府よりの赤壁案諸御墨付を貰い受ける事が出来れば御家安泰に繋がり、繁栄が約束される筈である。
 
 
柳生宗矩も翠雲と同じ考えを持っており、忠輝の所業の事実、金塊の行方、若しくは金塊を手に入れる事で柳生家は、幕府内に於ける万全な地位を築き上げ、筆頭家老まで昇り詰める野望に燃えていた。
 
宗矩は、四男である柳生列堂義仙を高田に送り込みはしたが、列堂は幾度となく失敗はしたものの金塊の隠し場所である確信に迫る所まで来ていたのを承知していた。
 
その為に柳生の存続を賭けてまでも多くの忍を列堂に任せ、願わくば、金塊の一部でも手に入れる事が出来たなら、その金塊を証拠として、幕府に忠輝の陰謀を作り上げるのは不可能ではないと見ていた。
 
列堂は、万全を喫するために多くの間者を高田城下に派遣し、高田藩大名、或いは、其れに準ずる武士に常時張り付かせ、動向を探る様に命じていた。
 
新規に御庭番筆頭家老に昇進した翠雲の屋敷にも柳生の間者の眼が光り、翠雲の動きには特に注目していた。
 
その矢先、伴の者を引き連れ旅に出る事が判り、行く先、目的に探りを入れるべき対応に出た。
 
屋敷を後にした翠雲一行は五人と思われ、高田城下を抜けた後、三国街道をえて、江戸へ向かう足取りであった。
 
翠雲一行の尾行を続けていた患者より列堂に知らせが届き、高田城内に攻め込むも悉く失敗に終わったのは、新任の翠雲に由る指図と見ていた。
 
一介の素浪人から、めきめきと頭角を現し、御庭番筆頭家老まで昇り詰めたのは裏での根回しが行き届いているばかりか、人望も厚いと読んだのである。
 
その、翠雲なる人物がお誂え向きに高田を離れ、この機会を見逃せば一生の不覚と思えた列堂は、翠雲への追跡間者を更に増やし、間違いなく江戸へ向かった事実を確かめ、高田城への侵入を企て、三の丸の地下蔵に眠るとされる金塊の所在を確かめ、持ち帰るのが最低条件だと意思を固めていた。
 
 
武蔵国に差し掛かり、翠雲の思った通りの出来事が先行する涼が周辺に異様な空気を察知し、至る所に其れらしき男がおり、我等を見張っている様な気がしてならぬ、と伝え、翠雲の考えを待った。
 
翠雲は、一度ならず、二度ほど頷き、放っておけ、と一言漏らしただけで、足は、ある目的の家に差し掛かった。
 
後続を見張る凛からも怪しげな影が、高田城下より追尾して来る者がおり、警戒を要すると伝え、翠雲は、凛と涼に戻る様に伝え、今日の宿泊はあれに見える農家である、と告げた。
 
古ぼけた一軒家の農家ではあったが、翠雲の脳裏には見覚えがある農家であった。
 
五人は、農家の玄関先で屯し、徐に翠雲が農家の玄関で、主はお出でか・・・、と尋ね、一人の老婆が翠雲の声に促され出て来た。
「主は、健在でおられますか・・・」
「老婆は、翠雲の顔を窺うかの様に見つめ、目を四方に走らせた。
 
凛は、その老婆の目の先に映る者を見つけ、先程から街道筋で監視していた者達への目配りであった事が判明した。
 
翠雲にその事を告げ、恰も承知の上であると言わんばかりに頷き、再び、老婆に尋ねた。
「御主人は、いつ戻られる・・・」
老婆は、怪訝な顔をし、
「旅の御方と見られるが、宿を求めて参ったのか・・・」
「無理は承知、是非に泊めて頂きたい」
老婆は、翠雲一行の後ろを見るような目付きで、五人を家の中に招き入れた。
 
囲炉裏には火が焚かれ、その上には大きな鍋が掛けられており、何れかの者が訪れる様子を見せていた。
 
老人と老婆の二人暮らしには似つかぬ鍋の大きさではあったが、部屋中に良い匂いを充満させており、他所から客人が訪れるのであれば、一旦、間を置き、再び訪れる考えでいた。
 
翠雲は、老婆に申し分け無さそうに礼を言い、主の帰りを待つことにした。
 
農家の裏口辺りで物音がし、鍬を片手に入って来た老人が土間に鍬を置き、藁草履を脱ぐ様子が窺えたが、凛の耳には、老人とは別の気配を感じ取っていた。
 
この事は、涼も同じで、密かに翠雲の腿辺りを指で押し、警戒を促した。
 
翠雲は、涼のその合図を無視するかのように老人を見つめ、ゆっくりと頭を下げた。
 
すると、老人は、
「よく参ったな、翠雲様。先ほどから待っておった」
 
翠雲以外の者は驚き、一体、何が起こっているのか、判断に苦しんだ。
 
老人を家に帰した手下共は、街道筋を見張っていた者であり、農家の周囲を警戒するとともに、他の者を近づけぬ配慮を行ったのだ。
 
「お久し振りです、権座様。その後のお躰は如何で御座いますかな・・・」
 
世間話を始めた二人に涼は、安堵したのか、翠雲の顔を見つめ、
「お人が悪い」
口から出た一言であった。
 
涼も、その様に思ったのか、翠雲の顔を険しい目付きで睨んでいた。
 
「権座様、江戸へ参る途中に立ち寄ったが、お許し下され」
 
権座は、翠雲が訪ねて来てくれた事が嬉しく、道行く翠雲の姿を認めた手下の者が翠雲の登場を知らせ、その事で翠雲一行を持成す用意を妻である老婆に夕餉の支度を命じておいたのだ。
 
すると、権座の手下が、農家に近づく仕草を見せていた怪しい影を見つけ、その者に農夫姿で話し掛けると、男は黙って遠ざかって行った、と権座の耳元で囁いた。
 
「高田より余分な者を引き連れて参った様じゃな。此方で対応致すが・・・」
権座は、一応、翠雲の伴では無い事を確認し、了承を取り付けたのである。

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