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列堂の配下は、翠雲が見知らぬ農家へ入り込み、本日の寝床と決めた事に疑念は湧かず、只、農家の周囲には農夫らしき男が数名いたのには気になった。
「其処の物売りの御方。何を売っているのじゃ。我等が欲しい物が有れば買いたいが・・・」
突然声を掛けられた列堂の配下は、音もなく忍び寄って来た農夫を見、慌てた様子で仲間の居る方向を見た。
野良仕事を切り上げて来たと思われる農夫の一団は、村に帰るのであろう、各々の農具を肩に背負い、話の種にと言わんばかりに軽い気持ちで声を掛けて来たと思ったのだ。
行商人に化けていた配下は、農夫が近づいて来たのは、己が物思いに耽っていた為に気付かなかったと勘違いしたのか、農夫の前へ背負子を下ろし、背負子の中の品物を見せた。
すると農夫は、行商人らしき男が三人程いるのを見つけ、手招きしたのだ。
その手招きに誘われるかのように行商人に化けた列堂の配下が農道を歩いて来ると、農作業を終えた一団とすれ違ったが、農夫の肩に掛けられた農具は、鍬、鋤などであり、別段、怪しい所は見られなかった。
「もし、もし・・・」
農夫であろうか、声を掛けられた三人の行商人は、振り向きざま、農夫達の持っていた農具が頭上より襲い掛かり、避ける間もなく鍬が脳天に鋭く突き刺さった。
それは、一瞬の出来事であり、農夫と思い安心し切っていた隙を付かれた攻撃であった。
その為に、気が付いた時には頭蓋骨は割られ、鍬が刺さった所から夥しい血が流れ出していた。
残りの二人も同じ様に農夫からの攻撃を受け、その場に倒れ込んだ。
其れを見ていた背負子を開けていた行商人は、己の目の前の農夫を見た。
笑った顔が、鬼の形相になったかと思われた時には、矢張り、他の三人と同じく、脳天に鋤が突き刺さり、頭蓋骨の割れ目から血が顔面を濡らし、鋤を振り下ろした農夫に手を差し伸べたが振り払われ、力なく前屈した姿勢で崩れ落ちた。
農夫達は周囲を窺い、討ち取った四人の衣類を着ぐるみ剥がし、持っていた鍬、鋤で道路脇を掘り始めた。
ある程度の穴が掘られ、四人の遺体がその穴に放り込まれ、急いで遺体に土を掛けた後、何事も無かった様に行商人の持ち物である背負子を担ぎ、その中に剥いだ着物を入れてその場を立ち去った。
幾度となく、多くの間者を葬って来た連携の取れた早業で始末し、何食わぬ顔をして農家に戻って行く後ろ姿は、実入りが少なかった様子なのか、血が付着した鍬、鋤を小川で洗い流し、余裕であろうかと思われるほどに、その場で雑談していた。
農夫に化けた一人の男が、権座のいる農家の裏口に姿を見せ、軽く頷くと、囲炉裏の傍に居た老婆に、
「若い衆に酒を渡し、仲間で分ける様に・・・」
銭が詰まった袋を老婆に渡し、何もなかった様に翠雲と話の続きをし始めた。
権座は、江戸へ向かうと言っていた翠雲の言葉を信ずる事が出来ず、目的を以って、態々、翠雲が訪ねて来たと読んでいた。
だが、周囲には伴の者がおり、話し辛いと見たのか権座は徳利と茶碗二つを手に取り、翠雲を外に連れ出した。
権座が褒美として差し出した酒を配下の者達が飲んでいる近くで腰を下ろして、翠雲に空の茶碗を渡し酒を注いだ。
翠雲は、権座より徳利を渡してもらい、権座の空の茶碗に酒を注ぎ、互いに酒を飲み干した。
「翠雲様、遅らせながら、太郎座が世話になっております」
権座は、翠雲に深々と頭を下げ、太郎座が翠雲の下で働き、昇進して行く様子を眺め、礼を申したのだ。
「権座様、儂は、金塊を手に入れたいと思った事はない。だが、金塊が隠されている場所を特定し、あるお方に話さなければならず、苦慮しております。一つ、御協力お願い出来ますでしょうか・・・」
「翠雲様、金塊とは・・・」
「天土様は、儂に申しておりましたが、三の丸の地下蔵に恰も眠っているかの様に儂に地下蔵を見せは致しました。ですが、腑に落ちないのです。一つは、新参者の儂を如何に信用成されているかは知りませんが、大事な金塊の在処を易々と教えた事に納得がいかないのです」
「天土様は、翠雲様を信用成され、地下蔵へと案内したと思われますが・・・」
「もし、地下蔵に金塊が眠っていたと致しましょう。その金塊を如何様にお使いになられるのか、不明なので御座います」
「何故、その様な話を儂に・・・」
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