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列堂はその日、老人に変装し、高田城下にいた。
其れは、牢番と接触し、九兵衛の救出に向け、賄賂を渡す予定であった。
一人の男が列堂に近づき、何やら耳元で呟き、頷きを返し、その男の後を追う様について行き、町外れの朽ち果てた家に辿り着いた。
「お主は、此処で待て」
配下である男に命じ、列堂は一人で家の中に入って行く。
其処には三人の男がおり、列堂は徐に金の詰まった鹿皮の袋を投げ渡した。
袋を受け取った男は、中身を確認し、笑いを見せ、地図が書かれた一枚の紙切を渡した。
列堂は中を検め、その紙切れを口の中に入れ飲み、その場を立ち去った。
残された三人は、渡された金の分配に掛かり、周りの警戒を怠ったのか、突如、家に侵入して来た見知らぬ者より攻撃を受け、呆気なく討取られ、身包み剥がされた。
列堂が飲み込んだ紙切れには、牢番が交代する時間と九兵衛が押し込まれている牢獄の地図が書かれていたのだ。
列堂の三人の配下は、討ち取った三人の顔を真似るかのように入念に化粧を施し、その場に居続け、夕焼けが迫る頃、牢獄の交代とばかりに城に向い歩き出して行く。
雑談を交わしながら裏門へ到達するや、難なく城内へと入り込んだ。
すると其処へ一人の侍が近づき、
「大罪人は、本丸より曳き出され、三の丸の地下牢に移された。直ちに三の丸に向い、番人の交代を致せ」
三人は顔を見合わせ、三の丸地下牢へと向かい、待ち構えていた番人と交代を果たし、投獄されている人物に目を凝らして見れば、正しく九兵衛であった。
「九兵衛様、九兵衛様・・・」
牢番の呼び掛けに九兵衛は乱れ髪で腫れた顔を見せ、また、俯いてしまった。
「鍵は、交代の時に預かった鍵は、如何致した・・・」
問い掛けられた二人の番人は顔を見合わせ、互いに首を振った。
「此処まで来て、何ていう失態。交代の折、鍵を預かっておらぬとは・・・」
其処へ、裏門で出会った侍が兵士を引き連れ姿を現わし、懐から牢屋の鍵を取り出し牢の鍵を開けるや、五人の兵士を待たせ、牢番の三人に静かに口を開いた。
「罪人を引きずり出し、此の場に連れて参れ」
三人は、顔を見合わせ頷くや、好機到来とばかりに、侍、兵士の位置を確認し、手を懐に持って行く。
「ビシ」
懐に手を持って行くその手を素早い動きで鉄扇の様な物で打ち付け、懐から取り出そうとした飛苦無を懐から地に落としてしまった。
鈍い音が牢内に響き、三人はその場で捕り押さえられた。
すると、九兵衛と思われた男が三人に向い、
「捕らえた者は、九兵衛と申すのじゃな」
牢番に変装した三人は、九兵衛の顔を見れば明らかに他人であり、嵌められたと気付いたのだ。
九兵衛に変装していたのは寛太で、侍を演じていたのは雷鳴であった。
先の城への侵入を企て捕らえられた者の名が判り、正種に通達されると、直ちに柳生一族の中で九兵衛に匹敵する者を探し出し、加賀藩、柳生一族の笠間九兵衛であると判明した。
正種は、この事実を筆頭家老である花井義雄に報告した。
花井は、捕らえた九兵衛を厳重に取り締まり、新たに捕まえた三人の柳生忍からも拷問により聴き出した事柄を繋ぎ合わせ、総てが柳生の仕業との判断を下した。
捕らえた四人の者を証人として保護し、幕府が如何様な難問を押し付けた折には、四人の素性を明らかにすることで難を逃れる策に出る事にした。
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