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武蔵忍を陰で操る権座は、江戸へ向かうとされる翠雲を名乗る二代目と再び対面し、高田城三の丸に眠るとされる金塊の話を持ち出されていた。
権座は、翠雲が如何なる証拠を持ち合わせ、金塊は三の丸に無い様な口振りで話をしているのか、惚けて話を聴いていたが、翠雲は、金塊の所在、使い道を知っていると読んでの会話だけに、調べ上げた道筋を丁寧に話し、権座より事実を聴き出そうとしているのは明らかであった。
武蔵国へ迷い込んだ振りをし、越後高田への陸路を一度は諦め掛けた。
だが、執念と言わざるを得ないほどに高田への執着を見せ、陸路が駄目であるならばと商人になり海路を開き、高田城下に姿を見せるや相模屋を開店させ、何時の間にか家中の御庭番まで伸し上がった苦労は並大抵の事では無い事は重々承知の上であった。
何故に其処まで翠雲を奮い立たせ、次々と手を打って来たのか、最終的には、金塊の所在を明らかにする為に起こした行動なのか、逆に知りたいと思う気持ちが湧いて来た。
「翠雲様は苦労なされ家中の侍へとなられましたが、総ては、金塊の所在を解明する事に執念を燃やされました。ですが、一体、何の為に・・・」
権座の問い掛けに翠雲は、言葉を詰まらせ、話して良いのか迷い、口を開いた。
「私利私欲ではないと申せば嘘になるが、総ては、代々受け継がれてきた赤壁の地を守る事にある。家康様の代ならば、父上の御威光の御蔭で家を保つ事が出来ました。ですが、家康様亡き後の事を考えますれば、先行きは霧の中で御座います。その為にも家康様が存命の間に高田藩の事実を御報告申し上げ、一筆頂ければと思っております」
「察します所、家康様の隠密となり、高田藩を探っていたと・・・」
「左様で御座います。ですが、忠輝様を始め家中の方々は、謀反を企てる様子は微塵もなく、只、金塊が邪魔な存在である事は確かで御座います。そうかと、御上に申し上げればあらぬ疑いを持ち掛けられ、迷惑な話と相成りまする」
隠密である事を打ち明けた翠雲に権座の右手が上がれば、二人の会話を見守っている様子でありながらも周囲に気を配り、近付く者が迫れば、追い払うか、抵抗を見せれば討ち取る構えでいる者が一斉に翠雲に攻撃を開始し、命を消し去る事は間違いない事であった。
その事を承知の上で、権座に腹を割り、隠密である事を打ち明けたのだ。
権座は黙り込み、隠密であると打ち明けた翠雲を如何様に扱うか苦慮していた。
すると、
「権座様、この集落は如何程の軒数が御座いますか・・・」
話しが飛んだ翠雲の言葉に救われたかの様に思わず答えた。
「十五軒だが・・・」
何故に翠雲がこの様に問い掛けたのか意味が解らずいたが、
「十五名の代表の者達が、金塊の守り人だとは気づきませんでした」
何を翠雲が感じ取り、十五名の者が金塊の守り人と気付いたのか、権座には訳の分からぬ言葉であった。
「儂が、この地を訪れた時、隠密より高田への陸路を守る方々と思っておりましたが、確かに高田城下を探る間者を討ち取るには納得が参ります。ですが、余りにも警戒が異常と思えるこの地では、何か知られてはならぬ事情があったのです。その事実とは、権座様を始め、天土様、花井様だけが知っておられる秘密を隠すためであったのです。権座様、どうか、戦乱を回避する為に金塊を使われる事を祈っておりまする」
「・・・、翠雲様。何れへ参られる」
「駿府へ出向き、家康様に御報告申し上げる所存で御座います」
「この地で、命が果て様となされても・・・」
「権座様、儂は、赤壁の主で御座います。家を守るのは、権座様と同じで御座います」
権座が家を守るには、翠雲を討ち取るのが一番の解決方法と知っていながら、身を差し出してまで家康への忠義を貫く姿勢には、己の一命に代えてまでも赤壁を守るという一念でしかない事を伝えたのである。
「翠雲様、如何なる御報告を駿府で申し上げるかは存じませぬが、此の場で翠雲様の御命を頂戴する訳には参りませぬ。もし、儂がその様な行動に出ますれば、息子である太郎座の命は無論の事、この地で暮らす一族の者達の命も失われてしまいます。家を守る長と致しましての行動は、翠雲様と同じで御座います」
権座はこの様に述べ、ニヤリと笑い、武蔵忍の行く先は、総て、翠雲の腹の内にあり、如何様にでも致せ、と言わんばかりであった。
二人の会談を終えた翠雲は農家に戻り、凛、涼、蓮と幸一郎を呼び、其々に言伝を申し渡した。
凛には、翠雲に代わり相模屋の裏方を命じ、蓮と幸一郎には、蓮に由る忍への攻撃から身を守る術を身に着けると共に、花井様の下で城内での役職を継続し、信任を得る事に全うする様に伝えた。
その為に、家老である花井義雄に手紙を書き、幸一郎に持参する様に命じた。
蓮には、幸一郎の身の回りの世話を引き続き行い、忍からの防御、攻撃のいろはを教え込む様に伝えた。
涼は、私は、と怪訝そうな顔をし、翠雲の言葉を待った。
翠雲は、涼に、
「儂と一緒に江戸へ参る」
この様に伝えたのだが、翠雲は、江戸へ行く気などなく、凛と蓮、幸一郎へ聞かせる為に欺きの言葉であった。
権座は、翠雲が武蔵国を離れる時、総てを託す、と一言漏らしただけであった。
翠雲は、権座の言葉の意味を十分理解しており、頷くや、
「武蔵忍は、滅びず。神仏の御加護が必ずやあるであろう。権座様、再びお目見えする事を楽しみにしておりまする」
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