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家康の下を離れ、城内の一室に案内された、翠雲、敦姫、千姫は、お互いに顔を見合わせ、徐々に湧き上る再会のためか、強張った顔に笑顔が戻り始めた。
 
「伯母上、千姫、心配をお掛けした、この通り、相済まぬ」
 
二人に深々と頭を下げた翠雲の手を千姫が握り、無事でいてくれた事への喜びか、握り締めた手に力を込め、大きく、泣き崩れたのである。
 
泣き崩れた千姫の肩にそっと手を添え、背を摩り始めた。
 
敦姫は、二人の様子を微笑ましく窺い、静かに部屋を後にした。
 
泣き止まぬ千姫の背を摩りながらも、いない間如何程の辛い思い、苦労を重ねたか、千姫の震える背が物語っていた。
 
千姫の顎に手を添え、懐から取り出した油紙で、真っ赤に腫らした目の涙を拭き、そっと唇を合わせた。
 
千姫は、温かな唇が小太郎、否、翠雲であるか確認するが如く目を開け、愛しい主人である翠雲の顔を眺め、
「御会いしとう御座いました」
はっきりとした口調で、己の本心を曝け出した千姫であった。
 
「千、儂が居ない間、苦労を掛けたな。再会する事が出来、儂も嬉しいぞ」
 
あらん限りの力を両手に込め、千姫を抱き締めた翠雲であった。
 
敦姫が立ち去った部屋には、翠雲と千姫が積もる話に花が咲き、空腹を覚えたその時、翠雲の口から意外な言葉が出た。
「凛、部屋付きの侍女に夕餉の支度を申し付けよ」
 
千姫は、翠雲が如何なる者に命じたのか訳が分からず狼狽えていると、翠雲は、部屋の外に控えていたのは、同志であると伝え、話を赤壁の事に戻した。
 
千姫は、翠雲が姿を消してから、翠雲の母である瑠衣、敦姫より、武芸、乗馬を習い、日々、鍛錬を行っていた事を話し、上田より駿府まで馬で来た事も付け加えた。
 
翠雲は、ひ弱な千姫が馬に乗り駿府まで駆けて来たことに驚き、千姫の手の平を眺めた。
 
手の平には、幾つかの小さな豆が出来ており、苦労した痕が滲み出ていた。
 
すると、部屋の外より声がし、敦姫様も御一緒なさるそうですので、膳を運ばせて頂きます、と侍女の声がし、襖を開いた。
 
「千姫、翠雲と話が出来ましたか・・・」
優しさを含んだ敦姫の声に、千姫は、元気を取り戻したかのように笑みで応えた。
 
 
家康の寝床を、翠雲、正信よりも一足先に退席した半蔵は、一旦、己の部屋に戻り、城内の警備に当たる者より耳打ちを受けた。
「翠雲様の御伴に涼が参っている様で御座います」
 
半蔵は、天土となる者が、我が次男と驚きをもって聴き、退席後もこの言葉が脳裏を離れなかった。
 
天土が、服部正重で、幕府の金塊を横領した張本人だとは夢にも思えなかったのだ。
 
此の侭、翠雲が高田に戻り、正重の悪事が公になれば、己の身ならず伊賀忍衆の崩壊に繋がると考えていた。
 
「涼を、儂の下に呼んで参れ」
配下に命じた半蔵は、翠雲が、如何程までに調べ上げているか、を訪ねる心算であった。
 
部屋で、翠雲の帰りを待っていた涼の元へ半蔵の配下が訪れ、半蔵の言葉を伝えるや、その言葉に誘われるかのように半蔵の下へ姿を現わした。
 
涼より、詳しい事情を聴き出そうとした半蔵ではあったが、天土と金塊の繋がりに付いては、涼は知らぬ事であったのだ。
 
半蔵は、涼が嘘をついているとは思えず、涼に、翠雲が生きていれば、伊賀の壊滅に繋がる危機を訴え、その対策として、翠雲を亡き者にすれば伊賀は救われる、と説いたのである。
 
涼は、悩んだ末に出した答えは、譬え、急場凌ぎであると承知で、半蔵の命令を承諾する事であった。
 
部屋に戻った涼は、半蔵の言葉を反芻したが、我身が賊に襲われた時に、己の身の危険を顧みず助けてくれた翠雲の恩を思えば、半蔵の言葉よりも翠雲の行動に重きを置かざるを得ないのである。
 
 
服部半蔵は、涼に翠雲を討ち取る様に命じ、屋敷へと戻ると直ちに配下である玄海(半蔵の配下、上忍)を呼び寄せ、思案の末出した言葉を口にした。
 
其れは、考えに考えた苦渋の選択で、己の次男である天土(正重)を討ち取る命令であった。
 
半蔵にすれば、金塊の事など念頭になく、己の身、伊賀の郷を守るべき手段に出ただけである。
 
天土が半蔵の次男である事が露見すれば、金塊を横領した首謀者に加担されたと勘繰られ、良くても遠島、悪ければ、領地召し上げの上、切腹を幕府より言い渡される可能性があるのだ。
 
その様な事から逃れるためには、翠雲を討ち、天土の存在を消さねばならない。
 
玄海に十名程の配下を与え、越後高田へ向かう様に伝え、高田藩、天土と名乗る男を抹殺する様に申し渡した。
 
 
部屋に運ばれた膳に箸を付け、敦姫が、翠雲の留守の間に千姫が如何なる武芸を身に着けたか話をし、翠雲は笑みで応えていた。
 
「小太郎様・・・、翠雲様でしたね」
千姫の胸の内には翠雲の名が馴染めず、苦労をしている様子であった。
 
「御一緒に赤壁へ帰れますか・・・」
「明日、正信様より沙汰が言い渡されると思うが、今一度、高田に戻り、事を解決せねばならぬと考えておる」
 
この様な話で暫しの和んだ時は流れ、膳が片付けられ、その間にも別室では、布団が敷かれていた。
 
敦姫と千姫は、案内された部屋に入りはしたが、敦姫の粋な計らいが千姫に齎された。
「積もる話もあるであろう。千姫、翠雲の部屋へ私と共に今一度参る」
 
敦姫は、千姫を連れ翠雲の寝床の前で襖を開け、千姫の肩を後ろから押し、勢いで部屋に押し込まれた千姫は翠雲の顔を見つめるなり口を開く間もなく、敦姫はその場を去って行く。
 
放り出された格好の千姫は、翠雲の顔を見つめ顔を赤らめ、総てが、敦姫が仕組んだ心遣いであると伝えたが、言葉途中で翠雲の唇が千姫の口を塞ぎ、言葉を遮った。

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