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長い間の別離の狭間を埋める口づけであり、二人の間に束の間の幸せが蘇った。
 
其れは、翠雲が戦いの為に赤壁を離れる前日、翠雲と千姫は狂わんばかりに互いの躰を求め合い、永遠の愛を誓い合った出来事であった。
 
ゆっくりと互いの唇が離れ、すると、翠雲の顔に笑みが見え始め、千姫は、そっと右手を翠雲の太腿に当てた。
 
翠雲は、千姫の顔を見れば、心配していますとの表情が顔に出ており、千姫の手を握り締め、躰を己の胸に引き寄せた。
 
千姫は、敦姫の心情が有難いと思っており、一日も早く翠雲の子を宿したいとも考えていたのか、急に感情が込み上げて来たのであろう、胸に抱かれながらも上目遣いに翠雲の眼を見つめ、ゆっくりと目を閉じた。
 
翠雲の唇が千姫の唇に触れ、右手が、千姫の襟元を潜り抜けて行くのが解り、固くなった乳房に触れると千姫の躰は反応した。
 
熱いため息が千姫の口から洩れ、襟元を開ければ興奮の為に白い肌は赤く染まっていた。
 
 
翌日になり、正信より呼び出しを受けた翠雲は、正信の口から家康の言葉が伝えられ、天土となる者の命と、金塊を手に入れる様に、と受け賜わった。
 
翠雲は、正信の前を退席した後、千姫の待つ部屋に戻り、難しい顔をしていた。
 
千姫は、翠雲が只ならぬ事を命じられたと悟り、命をも賭けねばならぬ事態に追い込まれた顔をじっと眺めていたが、昨夜の余韻が残っている躰を翠雲の前に曝け出した。
 
千姫に取っては一大決心であろう、はしたない行為だと知りつつも翠雲の心を癒すには女の身を差し出す他はないと悟ったのである。
 
翠雲は、千姫の心情が可愛らしく思い、再び、千姫の躰を抱き、
「儂の子を産むのじゃ、千」
 
千姫は、嬉しさの余り一筋の涙を流し、
「譬え離れていても、千の心は翠雲様の元に御座います」
 
己の子種を千姫の躰の中に残した翠雲は、死が訪れたとしても、愛する者の躰に宿る子が育てば血は受け継がれるとの思いからか、晴々とした気持ちが訪れた。
 
二人は、身支度を整え、敦姫の居る部屋を訪れ、心遣いを感謝すると共に、千姫を敦姫に託した。
 
 
翠雲は涼を伴い、再び、越後高田の地を訪れ相模屋に舞い戻った。
 
迎えに出た凛と正種に会い、腹を割り、家康の言葉を伝えた。
 
正種は、天土を葬るのは、翠雲の立場からすれば簡単である、と伝えたが、三の丸に隠されているとされる金塊を手に入れ、運ぶには其れなりの人出が必要で、不可能に近いとの判断を下した。
 
翠雲は、思案に思案を重ねたが、金塊を運ぶ手立てが見つからぬ以上、天土を討取るのは伸ばせねばならぬと考えた。
 
 
あくる日、高田城に登城した翠雲は、家老である花井義雄に会い、再び、職務に着く事を報告し、三の丸に出向き、太郎座を交えて天土と顔を合わせた。
 
天土の顔を見つめていた翠雲は、ふとした事から、服部半蔵の顔が浮かび、半蔵が己の次男が仕出かした事実を知った時の顔を思い浮かべた。
 
表情を顔に出さぬ半蔵の顔色が曇った一瞬を見逃さなかった。
「半蔵の立場なら・・・」
この思いが脳裏を離れる事無く付き纏い、如何なる手段に打って出るか思案した。
 
「天土を討ち取り、闇に葬る。或いは、総てを知っている刃を己に向けるのか・・・」
 
半蔵ならば、何方の思い当たる考えを実行すると思われた。
 
何故であろうか、その様な思いに馳せた時、目の前に居る天土を守らねば、との心が叫び、前に座る天土の顔を見つめた。
 
すると、天土が口を開き、何か悩み事でも、と心配した口の利き方で話し掛けて来た。
 
「柳生を追い払い、城内に平穏が訪れておるが、何か心配事でも・・・」
「天土様、柳生が求めて攻撃を仕掛けて来たのには、金塊の所在を探ると共に、天土様を亡き者にとの企てで御座います。何れにも失敗したとなれば、柳生は、幕府を動かし、次なる手段に打って出る事は間違いが御座いません。その手立てとは、伊賀忍衆を用い、天土様を亡き者に・・・」
「翠雲様、儂は、伊賀衆より命を狙われる事はなかろう。心配なさるな」
 
天土は、伊賀忍びである以上、伊賀者より命を狙われる事はないと言っているのであり、伊賀者であるからこそ狙われ、抹殺される事が念頭にないのである。
 
この事を天土と話し合えば、いつまでも平行線であり、結論は出ないばかりか、己の危険が迫ることすら否定していた。
 
自らが、金塊の在処を話さねば、我が身は安全であり、金塊を狙う者からすれば生かして捕らえる他はないとも受け取られ、忠告も意に返さぬ態度であった。
 
 
服部半蔵の命を受けた玄海の動きは素早く、駿府を離れ、江戸より三国街道を下り、一気に越後高田を目指していた。
 
この不穏な動きは、武蔵国を通る旅人に脅威を与え、権座の耳に入らぬ訳がなかった。
 
「権座様、山伏集団が、高田を目指しておられます。おそらく忍かと・・・」
手下よりこの様な報告を受けた権座は、下手に手出しをすれば配下を失うばかりか、己の身にも危険が及ぶ事を恐れ、自らが出向き、報告された山伏一行を一目見、確かめる事にしたのである。
 
手に鍬を持ち、農夫に変装した権座は、足の運びから山伏集団の先を行く間者と思われる二名の者を捉え、その後に続く山伏一行を畑より眺めた。
 
足の運びからして、間違いなく忍であり、それも、皆手慣れた者であると判断を下した。
 
その時、ふと脳裏に浮かんだ顔は翠雲であり、高田相模屋に居ることを祈り、この山伏集団の存在を知らせる事であった。
 
手慣れた忍集団を高田に侵入させれば、息子である太郎座の命に関わる事となり、其れを避けるには翠雲の手を借りなければと思い立ったのである。
 
権座の手下は一目散に高田相模屋を目指し、無事に翠雲に会う事が出来た。
 
権座の言葉を翠雲に伝えるや、居合わせた太郎座と共に旅支度し、権座の元へと駆け付けたのである。
 
権座の配下が急を告げる言伝を齎せた時、瞬時に、自らの思いが蘇り、天土を抹殺する刺客が半蔵の下で動き出した事を知り、如何なる伊賀者が刺客として高田へ乗り込むか、己の眼で確かめずにはいられなかった。
 
 
矢張り忍であろうか、三国街道を駆けに駆け、権座の手配した仲間と落ち合い、即座に農夫への変装を済ませ、目指す刺客一行を待ち構えていた。
 
権座の手下が、翠雲の耳元で囁き、あの者二名は露払いと思われます、と伝え、その後に続く山伏一行を待ち続け、山伏一行が姿を現わした。
 
集団の先頭に立つ男の顔をじっくり眺めると、何処かで見た顔立ちであった。
 
思わず声を上げそうになった翠雲ではあるが、此処は押さえて、その男の正体を思い出した。
 
岩村城攻防戦の折、徳川本陣に連れ去られ、翠雲を本陣より大坂まで道案内をした玄海という忍であることに気が付いたのである。
 
「半蔵の配下に間違いない。天土様を討ち取る為に派遣されたか・・・」
 
山伏の姿に変装した刺客の顔を確認した翠雲は、遂に、半蔵の手に由り刺客が放たれた事を知ったのだ。
 
「天土を刺客の手に渡し、金塊を奪い去れば事は成就出来る。だが、天土、太郎座、権座をむざむざ殺させ、高田藩までも滅亡へ導くかは己の判断に委ねられている」
翠雲は悩んでいた。
 
それも其の筈、越後高田に乗り込んだのは、正種を始め、凛、涼、蓮、総てが伊賀者で、自らの味方といえる赤壁衆は誰も存在しないのである。
 
伊賀滅亡となれば、伊賀衆が結束するのは間違いない事で、周囲は敵ばかりと翠雲の眼には映り、家康よりの命令を反故にしてまでも高田藩を護り通さねばならねばならぬ義理はないのである。
 
義理があるとすれば、権座、太郎座の武蔵忍衆が父である初代翠雲との関わり合いで築いた絆だけであり、その御蔭で越後高田藩への地位を得たのであった。
 
腹を決めれば、前途には武蔵忍が見えて来ており、周囲が伊賀衆ばかりでないことを悟った。
 
太郎座へ、
「権座様に会いたい。直ぐにでも案内を頼む」
己の口から出た言葉は、権座に総ての事を話し、協力を求める事であった。
 
 
翠雲と太郎座は、父親である権座の屋敷へ参り、土間に入った所で、真新しい草鞋を見つけ、先客が訪ねている事に気付いた。
 
太郎座は、翠雲に危害を及ばす者が訪ねて来てはいないかと心配し、翠雲に屋敷の外で待つ様に言い、囲炉裏のある部屋に入って行った。
 
其処には、見慣れぬ二人の旅人がおり、会釈を交わす太郎座に旅人は会釈を返し、権座の言葉を待った。

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