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街道筋より幾体もの石像物が置かれ、恰も、誰かを山の麓より頂上へ導いているかの様に思えたのだ。
 
当初は、頂上には社が祀られているものと思い込んでいたが、其れにしてはあり得ない数の道祖神が置かれ、供え物までも村人に由って供えられていた。
 
余程、信仰が厚い村だと思ってはいたが、農家の脇には必ずといっていいほどに道祖神が置かれており、気になっていた事であった。
 
この話を聴いた権座の驚きは尋常ではなく、翠雲の顔を見つめ茫然とし、
「お主、気付いておったか・・・」
 
翠雲は、権座の驚きと、口にした言葉に確信を得た。
 
其れは、前々から思っていた事ではあったが、疑心暗鬼の推測を抜け出せないでいた事柄で、高田城三の丸に眠る金塊の一件であった。
 
翠雲は立ち上がり、湯呑茶碗を石の上に置くと、道祖神が祀られている農道を歩き出した。
 
その後ろ姿を追う様に権座が付いて歩いて行くと、農夫の姿をした幾人の者が翠雲の行く手を阻んだ。
 
すると、権座は、農夫姿の者達を制止し、翠雲を案内するかの様に山道を登り始めた。
 
権座に導かれる様に背を追い駆け始め、その翠雲の後ろには、農夫姿の権座の配下が続いた。
 
道祖神の話をしただけで、権座が翠雲の言葉に反応を示し、意外な展開になって行くのに驚いたのは翠雲であったが、権座が翠雲を何処へ案内するのかまでは不明であった。
 
山の頂上へ通じる道脇には、石像道祖神四体彫られた物が幾体も見え、山道より脇道に逸れ始めた時には、道祖神が彫られた石仏は五体に増えており、その先には社が見えた。
 
その社の両脇にはこんもりとした塚が見え、塚の頂上には大きな石を台に、徐々に小さな石が積まれた物が見え、権座は、塚に向い指を指した。
 
「道祖神は、我等と共に塚を守る氏神様である。塚の中には己の意志に反し、多くの同士が眠っている」
 
権座の言葉を借りるならば、己の意志では無くして、斬られたと言っていると解釈した。
 
翠雲は、権座が何を伝えたいのか判断できずにいたが、
「儂は、お主を信じ、此の場へ連れて参った。正種殿を信じ事に当たれば、お主は救われる」
 
権座は、一体何を言いたいのか、翠雲には測りかねていた。
 
「秀忠様の世になれば、忠輝様は容赦ない仕打ちを受けるであろう。忠輝様だけでなく、やがては伊賀の人々も重宝される事無く壊滅への道を辿るであろうな。だが、武蔵忍衆は生きて往かねばならぬ。翠雲様、この塚は、城兵を葬った塚であり、我等は守り人である」
 
翠雲は、権座が申したい事は、戦死した兵士を葬る塚であると言っているのか、あるいは、翠雲が思い描いていた金塊の行方を隠す塚なのか判断に悩んだが、権座が、早とちりした事に総てを賭け、口を開いた。
「やはり、金塊は三の丸にあらず。この場所に隠されていたのか・・・。だが、何故、金塊を此の場に埋めたのだ」
 
翠雲は、権座にカマを掛け、次なる言葉を待った。
 
すると、重い口を更に開き、
「天土様は、用心深い侍である。本多長安様より預けられた金塊は、一時、三の丸に運び込まれたが、ある夜、城内の兵士を使い密かにこの場に運び込んだのじゃ。そして、金塊を運んだ城兵を悉く切り捨て秘密を隠匿した。その後、金塊の守り人として我等を遣わしたのだ。天土様は、お主の父親と同じくして我等を信じ、道祖神を祀り、命を奪った兵士からの穢れ、災いから逃れるために道祖神様に祈っていた」
 
金塊の隠し場所を聴き出した翠雲ではあったが、その金塊の使い道に興味があり、天土が幕府顛覆のために忠輝を担ぎ出すのではないかと疑念を持っていたのだ。
 
本多長安は、流浪の身を送っていた服部正重(天土)を拾い上げ、当時、昵懇であった忠輝にお目道理を願い出許されるや、高田城の要職にまで抜擢を図ってくれた。
 
恩義ある越後高田城主、忠輝が、如何に新しい幕府体制より外れ様が、除者扱いされている忠輝に愛着を感じ、改易、召し上げとなれば救いの手を差し伸べぬ筈がないのだ。
 
その上に、敵と味方かは区別がつかぬ武蔵忍衆の信頼を得て配下に納め、金塊を密かに運び出し、この地に埋めたとなれば、その真意を知りたくなるのが人情というものである。
 
翠雲は、権座に向かい合い、この件を訪ねたが、天土様が思うが儘、と受け応えた。
 
先代の翠雲が、小田原城陥落の折、多くの金銀を城から運び出し、赤壁の地に隠した一件とよく似ていると思わざるを得ない。
 
秀忠が、忠輝に改易を申し付け、流人の身にでもなれば、必ず天土は動き、この地に埋め隠した金塊を用いて、一波乱起こす気でいることは勘繰りであろうか。
 
もし、その様な事が起きれば、武蔵忍も共に滅びる道を選択するであろうと予測できた。
 
何としても武蔵忍衆を救わねばならぬ、何故だか翠雲の心に訴え掛けるものが芽生えた。
 
其れには、服部半蔵が天土に差し向けた刺客に天土を討たせたとすれば、金塊と共に武蔵忍衆は生き残ると考えた。
 
だが、今、半蔵より天土に刺客が放たれていることを知った権座は、天土が討たれるのを見逃す事は出来ぬと判断を下し、ならば、天土が刺客より逃れ、忠輝が改易になった非常事態を想定して、事を動かさねばならぬと思った翠雲であった。
 
「権座様、金塊の隠し場所を知っておられるのは、天土様以外に何方かおられますか・・・」
権座は神妙な顔つきで、
「家老職の者ならば金塊の隠し場所を存じておろう」
 
此れこそが天土の手を離れ、金塊を悪用する者達の最後の望みであり、この金塊が幕府顛覆に用いられたならば、多くの大名を巻き込む一大事と成り兼ねないのである。
 
もし、此の場に埋め隠された金塊が忽然と消えたならば、高田城要職に就く家老が悪用するにも使用が出来ないのであった。
 
その為には権座を説得し、金塊を他の場所に移さなければならないと考えた。
 
「権座様、儂は、死ぬのを止める事に致す。順を追って話をすれば、刺客より命を狙われた天土様を助ける事に致す。その代わりと言えば語弊があるが、金塊を誰も知らぬ場所に移して頂きたい」
 
翠雲はこの様に頼み、先に浮かんだ己の考えを述べたのである。
 
悩み込む権座ではあったが、其処へ、太郎座が訪れ、父親である権座の顔を見つめ、何かの異変に気付いた。
 
面を上げた権座は、太郎座に翠雲の申し出を話しすると、太郎座は即座に金塊を移す、と答えたのだ。
 
その答えは余りにも即答で、武蔵忍衆の生き残る道といえば、金塊を誰にも悟られず手に入れ、公の人々の記憶から金塊の一件が遠のくのを待つ事であり、高田城の要職に就く者達と共に滅びるのは忍びないという事であった。
 
 
あくる日、翠雲は、小次郎、幽翠を引き連れ高田への帰路に着いたが、道すがら考えていた事は、正種が、刺客の命を受けた伊賀上忍である玄海の出現により、刺客としての内容を聴き出せば動揺を起こし兼ねない事である。
 
正種個人の問題だけでは無くして、伊賀忍衆の生きる道を絶たれる恐れがある事に関わり、一族の村長としては決断に迫れる事にあるのだ。
「正種様とは、争いたくはない」
 
正種との付き合いは長く、兄とも慕っている者ゆえ、悩みは尽きないのである。
 
一族を捨て去る難しさは、翠雲ならずとも答えは出ており、正種が翠雲に牙を向ける時こそ結論を出さねばならぬ時であった。

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