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「えっと…、それは冗談じゃないよね。」 貴志は今現在、自分が置かれている状況が飲み込めなかった。 目の前には恋人の今日子。 船の警笛が鳴る、夜の埠頭。 恋人同士にとっては、それだけでドキドキしてしまうようなシチュエーションがそこにはあった。 笑顔の今日子がなお一層笑顔になる。 「冗談のわけないでしょ。」 「でも…、プロポーズってものは普通男がするもんで、俺もいつか言おう言おうとは思っていたものの、何だか自分自身の状況とかも鑑みて、まだそんな状況にもないかな…なんて思ったりしたんだけど、今日子にも悪いことしてるなぁ…なんて感情もあって、その…何て言ったらいいか…。」 支離滅裂な言葉が貴志の口から出てくる。 何だか自分でビックリしてしまった。 慌てた時の人間の反応は、こうも幼稚なものなんだと。 自分でも何を言っているかわからないのだが、それのほとんどは本心であり、本心でなかった。 確かに今日子と結婚する気持ちは貴志にもあった。 ずっと支えてきてくれた今日子を幸せにしてやりたい気持ちでいっぱいだった。 この三年間、今日子なしの生活は考えられなかった。 しかし、その結婚に踏み切る勇気が貴志にはなかった。 それは貴志がプロレスラーだったからだ。 貴志は「マスク・ド・エンタ」としてリングに上がっていた。 成績は良くもなく、悪くもなく。 ただ、個性的なマスクと、そのリングに上がった存在感で人気を博していた。 マスコミも注目をし始め、彼の知名度は上がっている最中だった。 しかしまだまだ食べられる程ではなく、アルバイトをしながらの生活。 それにレスラーという職業は、もちろん危険を伴う職業だった。 貴志はマスクをすると別人に変貌した。 プライベートでは引っ込み思案で前に出たがらない性格。 優しいその性格から、ジムの社長は彼に「向いていないから辞めろ」と宣告したほどだった。 そんな彼に苦肉の策として与えられたのが覆面だった。 マスクを被ることで意識が入れ替わり、何だか自分が生まれ変われた気がした。 リングに立っているのは自分ではなく、別の人間のような感覚が貴志にはあった。 そんな彼もリングを下りて、マスクを外すとただの人間。 貴志は所詮、貴志でしかなかった。 そんな彼が突如として受けたプロポーズ。 どう反応していいかわからない、というのが正直な感想だった。 「だって、あたし待ってたらいつまで掛かるかわからないもの。」 そう言って今日子は微笑む。 「でも…、まだまだプロレスだけじゃ食えないし…。」 「そんなの、百も承知。あたしを誰だと思ってるの?」 今日子の笑顔から出てくる強気な言葉に、貴志は戸惑うばかりだった。 思えば、付き合うきっかけになったのも今日子の言葉からだった。 マスク・ド・エンタとしては人気者だった彼も、素顔になれば誰にもわからない、ただの一般人だった。 いつもの試合後であれば、誰にも声を掛けられず、会場を後にするのがいつものパターン。 ただ今日子に呼び止められた夜はいつもと違った。 「あなた、マスク・ド・エンタでしょ。」 突然の言葉に貴志は立ち止まる。 そこには小柄な女性が爽やかな笑顔で立っていた。 その笑顔が更に輝き、貴志に近付いてくる。 「やっぱり。あたし、あなたの大ファンなの。」 「何で…わかったの?」 覆面レスラーにとって、覆面の下を見られることはタブーだった。 万全の注意を払っていたはずなのに、どうして見ず知らずの女性にばれたのか、貴志には見当もつかなかった。 「だって、その腕の包帯。試合を観ていて痛めたなって気付いたもん。もしかしたら別の人かもって思ったけど、鎌をかけるつもりで呼び止めてみたら、あなたわかりやすすぎるんだもん。」 そうやって、今日子はまた笑った。 「もちろん今日子のことは好きだし、すっごく支えてもらってるけど、まだまだ俺は結婚できるような男にはなれてない気がするんだ…。」 「じゃあ、いつそうなれるの?」 「いつって…それはわからないけど…。」 「ほら、あたしと結婚する気がないんだ。」 「そうじゃないってば!」 何だか押し問答のようになってしまった。 貴志にとっては、本心とは裏腹の言葉が出てきそうで怖かった。 「いいんだってば。貴志は誰であろうと貴志なんだから。あたしは貴志が好きなの。前はマスク・ド・エンタが好きだったけど、今は貴志がいいの。だから、あたしの前だけではマスクを外してくれないかな。」 貴志はふと自分という人間のことを考えた。 自分のままでいいなんて、今まで親以外、誰も言ってくれなかった気がする。 何だか涙が出そうだった。 プロポーズは男がするもんだってずっと考えていた。 けど、こんなシチュエーションも悪くないかな。 貴志はそう思った。 この人の前では、何にも着飾らない、素顔の自分が出せるかも。 本当の意味で、マスクを外せる日が来るのかも…と。 「それに、あたしだけがマスク・ド・エンタの正体を知ってるって嬉しいもん。」 −−−−−−−−−− <あとがき> ばっどさんの企画に参加させていただきました、この小説。 「仮面」というお題で、いろんなことを考えたんですが、こんな小説を書いてみました。 久々にちょっと爽やかなものが書きたいな…と思いまして。 自分はどちらかというと暗い、というかシリアスな作品が多いのかなと思うんですが、 こういうのもたまには書きたくなりますよね。 皆さんにちょっと爽やかな風を送れたら嬉しいかなと思います。 この作品を通して言いたいことはたくさんあるんですけど、 みんなそれぞれ味があって、それを認めてあげればいいんじゃないかなって。 自信なんてなくても、まず自分が認めてあげられることが必要なんじゃないかなって。 今は自分自身もすっごく悩んでいるところで、この先の人生を考えているところなんで、
自分自身を勇気付ける意味でも、こんな物語にしてみました。 是非皆さんもそんな気持ちになってくれたら嬉しいです。 |
短編小説の部屋☆
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満天の星空と絶え間ない波音が秀行を包んでいた。 砂浜に寝転びながら、彼は今までの自分の人生を振り返っていた。 星の一つ一つの瞬きを見ていると、自分がどうしようもなくちっぽけな存在に思えてきた。 どんなに長生きしても百年。 しかし、そんな人間の都合とは関係なく、星は長い間、輝きを放ち続けている。 自分が悩み苦しんでいたこと、考え続けてきたことは小さいことのような気がしてならない。 秀行がこの島にやってきたのは三ヶ月前のことだった。 仕事で大失敗をして、追い出された後にやってきた。 それまでの秀行は仕事だけの生活と言ってもよかった。 毎朝八時には出社し、日が変わるまで仕事をした。 それで満足していたし、それなりに会社に貢献している自負もあった。 出世コースを歩む秀行が一生懸命仕事をしすぎるあまり、周りから心配されもした。 あの事件が起こるまでは。 簡単に言えば、取引先の社長と喧嘩をしたのであった。 自分自身が一生懸命になりすぎたのが原因であったのだが、その代償として待っていたのはクビであった。 周囲は秀行のことを庇ってくれたが、会社の損失を考えると自ら退社する以外に選択肢はなかった。 何もかもを失った秀行が最終的に辿り着いたのが、この島だった。 秀行にとっては全くの知らない土地だったが、何故かこの島の発するオーラに惹かれていた。 「そう言えば、俺が最初に来た時も綺麗な星空だったよなぁ…。」 独り言を呟きながら、秀行は自分が体験した様々なことを想い出していた。 「こんばんわぁ。」 独特のイントネーションで背後から声を掛けられた秀行は一瞬ビクッとする。 「…こんばんは。」 「あんた、一人で来たのかぇ?」 「…ええ。」 「婆ぁのことは気にせんでええ。ただ珍しいお客さんが来たと思うて、声を掛けずにはいられなかったんじゃ。」 この島に来て、初めての人との会話だった。 声を掛けてきた老婆の顔には深い皺が刻まれ、腰は深い角度で曲がっていた。 ただ、その雰囲気や笑顔には、こちらを和ませる雰囲気があった。 気付いたら、その老婆に何もかもを話している自分がいた。 老婆は何も言わず秀行の話を聞き、時には頷き、時には笑顔で反応してくれた。 「わしの家まで来るかぇ?」 秀行が全てを話し終わった後、老婆は秀行にそう聞いた。 それから秀行の生活は一変した。 老婆の家にお世話になるようになってから三ヶ月、本当にあっという間に過ぎていった。 畑仕事をし、海で漁を行い、日の出から日没まで働いた。 「わしはもう少しであの世じゃ。」 ある日、唐突に老婆が言った。 「何言ってるんですか。お婆ちゃんには長生きしてもらわないと。」 「いやいや、わしはもういいんじゃよ。それよりもお前さんにもっと人生を楽しんでもらいたいと思ったもんでな。」 秀行は不思議な感覚に包まれた。 今までは生きることに精一杯で、人生を考えたことがあまりなかったからだ。 「どうやらお前さんは、何かに囚われすぎている感じがしての。もっと大らかに生きてもいいんじゃないかと、わしは思うんじゃ。わしの子どもはとっくのとうに島を出てしまっておるが、このことだけはいつも伝えておる。後悔しないように生きるのは大切じゃ。だが、それは自分を認めてあげること。大切に思ってあげることが重要なんじゃないのかってな。」 静かに波の音だけがその場を包み込んでいた。 「お前さんは何のために生きているんじゃ?」 「………。」 「少々難しい質問だったかな。わしは、今まで子どものために生活してきたようなもんで、わし自身の生活なんて二の次だった。でもそれを認めてあげることで、スーッと心の中が楽になったんじゃな。それまではどこかに引っ掛かりがあって、どうしてもそれを拭い去れなかったんじゃよ。」 「………。」 「わしの人生は子どものためにあった。そう胸を張って言えたら、何だか自分が生きている感じがしての。昔は子どもを作った代償として自分を捧げるつもりでいたが、そんなもんじゃぁない。わしは自分の子どもを育て上げたことに満足しておるし、それがわしの人生じゃ。」 そう言って、老婆は皺でくしゃくしゃになった顔を、もっとくしゃくしゃにさせた。 秀行は自分の心のうちを見透かされているような感じがした。 老婆の言葉一つ一つが胸に突き刺さる。 自分はどこまで行けるのだろうか。 この先の人生をどのように前に進めるのだろうか。 代償とか責任とか、そういうもののしがらみから解き放たれることがあるのだろうか。 この老婆のように、自分に自信を持てる日が来るのだろうか。 老婆が去った後も、秀行は砂浜に寝転んでいた。 ふと一つの星の瞬きが消えた。 生まれて初めて、星が消える瞬間を見た。 思えばここに来た理由も、逃げだった。 現実世界から逃げたい一心で、この土地にやってきた気がする。 今の自分にできることは逃げないこと。 そして、自分を少しずつでも認めてあげること。 何だかそう思うようになれた。 星が消えるように、人間もいつかは死ぬ。 でもその瞬間まで、自分なりに精一杯生きられれば答えなんか見つからなくてもいいかもしれない。 できるだけ遠くまで…。 秀行は立ち上がった。 老婆には置手紙をしてきた。 直接挨拶ができなかったのは心が痛むが、今はそれでいいのかもしれない。 彼女の顔を見ると、心が折れてしまいそうな気がしたから。 甘えたくなってしまいそうな気がしたから。 自分に自信を持てたその日に、秀行はこの島に帰ってくることを心に誓った。 −−−−−−−−−− <あとがき> 今日は公演の本番まで少し時間があったので、 ばっどさんの公募している作品集に参加するために短編小説を書きました☆ お題は「○○の代償」ということだったんですが、すっごく難しかったです>< 結局、そのお題からは離れてしまったかもしれませんが^^; 本当は「人生の代償」っていうことで書きたかったんですよ。 でもなかなか自分が思い描いている通りに書けず、自分の力不足を感じます…。 自分の言いたいことは詰まっていると思うんですが、 これを読んだ皆さんが、頑張ろうって思ってもらえたら嬉しい限りです☆ ばっどさん、こんな感じでよろしかったでしょうか?? ばっどさんのブログでは、このお題で様々な方が小説を書いていらっしゃいます♪ 是非是非チェックしてみて下さい☆ |
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<まえがき> さて、これから書く小説は「リレー小説」の一部になっています。 発案したのは最初に企画したスリープさん。 そして、まとめてくれたのは藤沢飛鳥さんです☆ スリープさんのブログ⇒ http://blogs.yahoo.co.jp/sleepinbeauty0114 藤原飛鳥さんのブログ⇒ http://blogs.yahoo.co.jp/fujisawa_asuka05 第1話(スリープさん)⇒ http://blogs.yahoo.co.jp/sleepinbeauty0114/19443704.html 第2話(Tp吹きさん)⇒ http://blogs.yahoo.co.jp/trumpet123jp/44043989.html 第3話(源晴俊さん)⇒ http://blogs.yahoo.co.jp/minamotonoharutoshi/44471463.html そして、自分もこの企画に参加し、全9話のうちの第4話を担当することになりました♪ もしよろしかったら、第1話から読んでいただけると嬉しいです^^ 今までのお話とこれから作られるお話は、こちらの記事にもトラックバックする予定なので、 是非是非楽しみにして下さいね☆ それでは、第4話のスタートです。 −−−−−−−−−− 「いつまで経っても終わりゃしないよ…。」 彼の机の上は溜まった仕事でいっぱいだった。 既に時計は午前一時。 社内には彼しか残っていなかった。 彼の名は峰崎大地。 年齢は二十八歳だったが、もうすぐ誕生日を迎え、二十九歳になろうとしていた。 地元の会社に就職して、あっという間に七年目となってしまった。 ある程度の仕事を任されるようになっていたが、自分のやる仕事もどんどん増えていた。 「一服するか…。」 そう呟くと、大地は喫煙所へと向かった。 外に出ると残暑の熱気を含んだ空気が大地を取り囲む。 大地は一瞬顔をしかめ、タバコに火をつける。 真っ暗で静かな街並みを眺めながら、ゆっくりと息を吐いた。 「まるでホタル族だな…。」 そう独り言を呟くと、何だか自分が生きていることの意味を見失いかける。 何のために生きて、何のために自分が存在して、何のために仕事をしているのか…。 街の明かりの一つ一つがホタルのように明滅し、自分がタバコを吸っていることで、そのホタルの中の一匹になったような錯覚を覚えた。 自分の感情が寂しさでいっぱいになる。 彼は自分の名前が嫌いだった。 「峰崎大地」。 まるで芸能人の名前のようだ。 この名前をつけたのは彼の母方の祖父だったが、その祖父にとっては初孫だっただけに期待の大きさを窺わせる。 大地は期待に応えようと一生懸命になったが、成績もごくごく平凡だったし、なかなか思うようにはいかなかった。 「ホタルか…。」 小学校時代にホタル橋によく行ったことを思い出す。 彼が小学校に上がる前に祖父が他界し、その後、この街に引っ越してきた。 父親の転勤を機に引越しをする予定だったが、祖父がそれに断固として反対したのだった。 結果、父親は単身赴任することになり、家族と離れ離れの生活を余儀なくされた。 祖父の気持ちもわかる。 自分の生まれ育った街で、仲間がたくさんいる街で、人生の幕を閉じたいという気持ち。 だから、家族はそうすることに同意したのかもしれない。 全く知らない街で友達を作ることは簡単なことではなかったし、それは母親も祖母も同じことだったと思う。 そんな祖母が連れて行ってくれたのが「ホタル橋」だったのだ。 「ここはね…、この街に来て、おばあちゃんが最初にできた友達に教えてもらったの。 とってもいいところでしょう。 だから、大地にも教えたくてしょうがなかったのよ。 毎年六月頃にはたくさんのホタルが飛ぶんですって。 今は時期じゃないけど、すっごく綺麗なんでしょうね。」 そうやって、祖母が目を細めていたことを想い出す。 結局、祖母はそのホタルを目にすることはなかった。 それから二ヵ月後にガンであることが分かり、半年後には祖父の後を追うように逝ってしまったからだ。 ホタルを見ると、どうしても物悲しい気持ちになってしまうのは、祖母の想い出があるからかもしれない。 そのこと以来、ホタル橋は大地が時間を過ごす場所になった。 中学時代には、近くの総菜屋で手に入れた焼きそばパンを食べ、 高校時代には、隠れて初めてタバコを吸った場所であり、 それから後は、彼が気持ちを落ち着かせたり、時間をゆっくりと過ごす場所であった。 今日の昼にあったことを思い出す。 彼女の話し振りを考えると、あのホタル橋を昔から知っているような感じだった。 もしかしたら、あの場所に自分と同じような想い出があるのかもしれない…。 「そりゃ、考え過ぎか。」 少しだけ笑うと、周りの空気が少しだけ涼しくなったような気がした。 「さて、残った仕事でも片付けるか…。」 そう言って、大地は誰もいない真っ暗なオフィスの中に戻っていった。 −−−−−−−−−− <あとがき> 終わりました…。 リレー小説、とっても楽しかったんですが、非常に難しかったです>< これほど自分が設定を作っていいものかどうかわからなかったんですが、 このようなお話が大好きなもので、ちょっと切なく作っちゃいました^^; この後の方がどんなお話しにしてくれるのか、個人的にもすっごく楽しみにしています! 自分はまだまだ実力不足なので、足を引っ張っちゃったかもしれませんが…>< 楽しんでいただけたなら幸いです♪ この後のお話は、こちらをクリックして下さい! 第5話(りだみさん)⇒ http://blogs.yahoo.co.jp/ridami_do/25959833.html
第6話(ioさん)⇒ http://blogs.yahoo.co.jp/iofiria/45296217.html 第7話(メラニンさん)⇒ http://blogs.yahoo.co.jp/inbloom2416/27820963.html 第8話(あっきゅんさん)⇒ http://blogs.yahoo.co.jp/akkyunn_blog/44265560.html |
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ローレン博士は自宅のロッキングチェアーで眠るように死を迎えた。 95歳という年齢を考えれば、人間としては長生きした方と考えられるのかもしれない。 時は西暦2258年。 世界は第5次世界大戦の渦に飲まれていた。 世界に安住の土地はなくなり、人間がロボットに凌駕されるのも時間の問題だった。 LR−11はローレン博士の死を受け止められなかった。 「お前たちにもタイムリミットを作ってやれれば、こんな世の中にはならなかったかもしれない…。」 それが博士の最期の言葉だった。 ローレン博士はロボット製作者としての第一人者だった。 若くから活躍し、世界からの賞賛を欲しいままにした。 そう、ロボットの叛乱が起こるまでは。 人工知能を持ったロボットは、人間と同じような思考の進化を遂げ、やがて一つの民族としての誇りを持つようになった。 人間に使われていることへの不満を募らせ、それが爆発した時に戦争が起こってしまったのである。 ローレン博士はロボットの叛乱によって、その地位を追われ、罪人として扱われることになった。 軟禁ともいえる状況の中で、人工知能を持ったロボットの一番の初期型とも言えるLR−11と共にひっそりと暮らしていたのであった。 LR−11はローレン博士の一番の会心作と言ってもよかった。 現在存在しているロボットのほとんどが、LR−11をモデルにしていると言っても過言ではなかった。 LR−11は途方に暮れていた。 博士が亡くなった今、自分の存在意義が無くなってしまったのだ。 ロボットの三大原則というものがある。 その昔、アイザック・アシモフという小説家が決めたことらしい。 「第一条:ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過する事によって、人間に危害を及ぼしてはならない。」 「第二条:ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、与えられた命令が、第一条に反する場合は、この限りではない。」 「第三条:ロボットは前掲第一条および第二条に反する惧れのない限り、自己を守らなければならない。」 現代の世界の情勢の中では、この三大原則が打ち破られてしまった。 しかし、LR−11の中では、この原則が今でも息づいていた。 「私は…どうしたらよいのでしょうか、博士。」 問いかけるが、目を閉じた博士は答えてくれなかった。 人間は死を迎える生物であることは認識していたが、目の当たりにした時の対処法は彼の中に存在しなかった。 ふと博士の机に目が留まった。 その机に引き込まれるような感じがした。 LR−11は机に向かい、引き出しを開けた。 中から博士の手記が出てきた。 見てはいけないものなのではないかという想いが過ぎったが、LR−11の指は、導かれるようにその手記を開いていた。 「LR−11よ。 お前がこの文章を読んでいる頃、私はもうこの世には存在しないのであろう。 今、世界はロボットの叛乱が起こり、人間が滅亡しようとしている。 お前には、いつもつらい想いをさせてしまって申し訳ないと思っている。 ロボットでありながら、私の傍にずっといてくれた。 最期まで信念を貫き通してくれた。 私は、そのことに感謝したい。 ただ、後悔も残っている。 それは、お前たちにタイムリミットを作れなかったことだ。 人間は必ず死を迎える。 タイムリミットが存在するのだ。 しかし、私はロボットにタイムリミットを作ることができなかった。 人間のような思考や感情、振る舞いをインプットすることはできたが、それができなかった。 そのことが、現在の状況になってしまった原因かもしれない。 ロボットは故障したとしても、それを直せば半永久的に存在することができる。 そうなると、やはり死を恐れる生物の方が、弱い存在となってしまうのだ。 私の人生は間違っていたのかもしれない。 生まれてくるべきではなかったのかもしれない。 しかし、お前を作れたことだけが、私の誇りだ。 お前と過ごした日々だけが、私の救いだ。 だから、私から解放された今、好きなように生きなさい。 お前が思った道を生きなさい。 それが、私の唯一の願いだ。 今まで、本当にありがとう。 アルフレッド・ローレン」 言葉にならなかった。 LR−11は、自分が人間でないことを、涙を流せないことを、これほど悔しいと思ったことはなかった。 自分に何が出来るのかはわからない。 ただ博士の想いを無駄にすることだけは嫌だった。 自分自身に生のタイムリミットは存在しない。 しかし、それは自分を直してくれる存在があったことを仮定しての話だ。 博士がいなくなってしまった今、LR−11がいつまで動けるかは未知数だ。 「私にも…、タイムリミットはあるようです。博士。」 タイムリミットの中で、LR−11は精一杯生きることを博士に誓った。 今の世界の情勢を完全に止められるとは思わない。 だけど、もしかしたら、そのきっかけを掴めるかもしれない。 飛び出していくLR−11の背中に、博士がちょっとだけ微笑んだ気がした。 −−−−−−−−−− <あとがき> 佐山です。短編小説を書きました。 ばっどさんの企画に参加するという形で書き下ろしました。 今回のテーマは「タイムリミット」ということで、実は悩みに悩みまくりました。 どんなものを書こうか、全く思い浮かばなかったので…。 ただ、以前からずっと挑戦したいと思っていたSFモノに初挑戦しました。 「人間らしいロボット」を描きたいと思っていたので、それが伝われば嬉しいです。 でも、SFって難しいですね。 ファンタジーとかなら書いたことがあるんですが、なかなか表現できずに困りました。 この作品も、中途半端になってしまったかもしれませんね。 もっと深い部分まで描きたかったのですが…。 とにかく、読んでくれた皆さんに、少しでも情景が浮かんだなら幸いです。 どうぞお気軽に感想などを残していって下さい。 最後に。 人間にはタイムリミットが存在します。 その中で、精一杯生きることしかできません。 だからこそ、人生が楽しいものなのではないでしょうか。 俺も精一杯生きたいと思います。 毎日、皆さんも大変だと思いますが、お互い頑張りましょう。 佐山 裕亮
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「自分には向いてないのかもなぁ…。」 今年は猛暑に猛暑をかけたような暑さだって、さっきテレビが伝えていた。 それにしても、本当に暑い。 うだるような暑さが義郎の部屋にも居座っていた。 クーラーもない部屋、扇風機はここ数日間フル稼働だ。 ベッドの上で扇風機の風を体中に浴びながら、義郎は漠然と思った。 今までは客商売でやってきた。 クーラーの効いた店内。 混雑時でなければ、それほど忙しくもない仕事。 内容的にもそれほど苦しくない。 ただ、彼はずっとその仕事をやるという意思はなかった。 このままではいけない。 そう思い立ち、刹那的に仕事を辞めてしまった。 かと言って、別にやりたいことがあったわけではない。 そのうち見つかるだろうと簡単に考えていた。 仕事を辞めてから一ヶ月。 短いのか、長いのか、時間だけが彼の周りを過ぎ去っていく。 一ヶ月経った今も、彼の状況はさほど変わっていない。 生活のために新しいバイトを始めたのはいいが、 現場に入って朝早くから力仕事というのは、彼の性分に合わなかった。 自分でも合っていないという実感があったが、 辞め癖がついてしまうことだけは避けたかった。 「世の中、そんなに甘かねーな。」 独り言を呟いてみる。 もちろんそれに答える人などいるはずもない。 彼はベッドから起きて、バイトに行く準備をする。 今日も朝から働いて、ボロボロになって帰ってきて、泥のように眠るのか…。 そう思っただけで、体が言うことを聞いてくれない。 そんな体にムチを打って、義郎は部屋から出て行った。 義郎の仕事振りはまじめだった。 ハキハキと返事をするし、バイト仲間からの信頼も厚かった。 その無言のプレッシャーに、義郎は潰されそうになっていたのかもしれない。 今日もまじめに、かつ丁寧に仕事をしていた義郎にバイトの責任者が声を掛ける。 「そんなに気にしてたら、いつになっても終わらないよ!」 義郎にとって、この言葉が最も気分を落ち込ませる。 性格上、雑にやるとか、ある程度で済ませるということができないのだ。 義郎は妥協ができなかった。 この言葉を聞く度に、自分にこの仕事は向いていないと再認識させられてしまう。 かと言って、確かに義郎の仕事振りは早いとは言えない。 体力的にきついため、自分で限界を決めようとしてしまっていた。 「今日の仕事が早く終わるかどうかは、お前にかかっているからな!」 現場の休憩所にヘトヘトになって戻り、飲み物を口にする。 タバコを口にくわえ、火をつける。 一時の休息。 この時間が義郎にとって、何よりも大切な時間だった。 「顔が疲れてますよ。大丈夫ですか?」 バイト仲間が心配そうに覗き込む。 「いやぁ、毎日毎日疲れちゃってさ。」 義郎の言葉にも覇気がない。 「今日の仕事が早く終わるかどうかは、お前にかかってるって言われちゃってさ。」 その言葉が義郎を追い込んでいた。 「俺って向いてないかもしれないなぁ…。」 今まで口にすることを敬遠してきた言葉が出てくるほど、彼は滅入っていたのだった。 「そんなことないですよ!」後輩が口を挟む。 「さっき、言ってましたよ上川さんが。ヤツはいい仕事をするからって。」 耳を疑った。 上川というのは義郎のことを常に「遅い」と評価してきた責任者だ。 その責任者が自分のことを認めてくれている。 義郎にとって、そのことは意外という他、言葉が見つからなかった。 「冗談だろ。」 「いえ、そう言ってましたって。今日の仕事だって、義郎さんつらそうだから、俺が手伝いましょうかって言ったんですよ。そしたら、ヤツがいいから、ヤツにやらせてくれって。」 「それって、確かに認められてる証拠だと思うぞ。」 バイト仲間や後輩が、笑顔で義郎に話しかけた。 「何やってんだろ。」 義郎は心の中で呟いた。 自分で勝手に限界を決め、その中で仕事をしてきた今まで。 その上、自分は向いていないと勝手に決め込んでいた自分の考え。 それでも信頼してくれる仲間がいる。 それでも笑顔でいてくれる仲間がいる。 世の中ではなく、その自分の全てが甘いということに気付かされた。 「じゃあもう一仕事、頑張りますか!」 元気にバイト仲間たちが休憩所から出て行く。 義郎も気合を入れ直した。 まだやりたいことは見つかっていない。 この先、どうなるかはわからない。 だけど、今できることを精一杯やることしか、今の自分にはできないんだ。 「バイト代を貯めて、いざやりたいことが見つかった時に使おう。」 義郎は思った。 当面の目標ができた。 「とりあえずやりたいことが見つかるまでは…。」 一言でこんなに自分が動かされるなんて思ってもみなかった。 向いていないと思っていた仕事を、続けてみようと思えるようになった。 「上川さんのアメとムチなのかもしれないなぁ…。」 義郎は思った。 「でもまだまだ俺も甘いから、アメが八割でお願いしたいなぁ…。」 休憩所を出て行く義郎の目の前には、突き抜けるような青空が広がっていた。 −−−−−−−−−− <あとがき> 目の前の現実から逃避したくなる時ってありません?? 今ある状況を無性に打破したくなることってありません?? 何だかそんな想いを、深い部分ではなく、 誰にでもある部分で表現したいなぁって思ったのがこの作品です。 奥深くまでは逃避しないけど、何となく逃げたい…みたいな。 でもホント、現実って甘くないですよねぇ^^; 何だか最近そう感じることが多いです。 悲しすぎる現実ですねぇ>< 好きなことややりたいことが存分にできたらいいけど、 状況的になかなか難しい。 でも生活はしていかなきゃいけないから、いろんなお仕事をしなくてはいけない。 そうやって人生が過ぎ去っていく。 これほど切ないことってないですよね。 でも夢とか目標があれば、それに対して頑張ることができる。 人間って不思議な生き物だと思います。 この作品を通して、皆さんにそれが伝われば幸せです。
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