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(転載歓迎)
反戦の視点・その68
【緊急アピール】 どさくさまぎれの海賊派兵を許すな!
井上澄夫(市民の意見30の会・東京、
沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック)
▼オバマの戦争拡大と日本の海外派兵拡大
イラクからの陸上自衛隊の撤退に続き、昨年末、航空自衛隊もクウェート─イラクから撤退したことで、マスメディアは一時期、これで海外派兵は一段落したかのように報じたが、とんでもない話だ。昨年末の国会ではもめたものの、アフガニスタンでの米軍の作戦を支援する給油新法改正案はとうとう成立させられ、海上自衛隊のインド洋での給油活動は今年1月から一年間延長されることになった。そのアフガニスタンをまもなくアメリカ大統領になるオバマは、大統領選で「主戦場にする」と公約した。ブッシュ政権のゲーツ国防長官はオバマ政権で留任する。
AP通信によると、米陸軍第10山岳師団の第3戦闘旅団(約3500人)がまもなくアフガンに派遣される。さらに今春、AH64攻撃ヘリコプター18機を含む軍用ヘリ約90機を主軸とする陸軍第82戦闘航空旅団(約2800人)が送り込まれる。マレン統合参謀本部議長は昨年末、現在展開中の米軍部隊3万1000人を、今年夏までに約6万人まで倍増させる方針を示した(08年12月23日付『読売新聞』)。遠いところの話ではない。沖縄では米海兵隊がIED(即製爆発装置)の直撃に耐えるとされる路上爆弾対策を施した装甲車エムラップの走行訓練を行なっている。言うまでもなくアフガン増派のためである(1月9日付『沖縄タイムス』)。
この米軍の増派戦略は〈オバマの戦争〉が始まることを意味している。アフガン東部に展開する米軍はすでにパキスタン西部国境地域を繰り返し越境攻撃している。明らかに戦火は拡大しつつある。その米軍を海上自衛隊はインド洋・アラビア海での洋上給油で支援し続けるの
だ。
〈昨年末に再可決された改正給油新法をペシャワール会の中村哲医師は「ナンセンスの一語に尽きる」と言う。「空爆のための油が日本からもたらされていることを、報道によってアフガン人は知ってしまった。誰もいい気分はしないでしょう。彼らの正直な思いはもう支援も軍隊もいらないから、人を殺すのをやめてくれ、ということなのだから」。〉(1月16日付『東京新聞』)。
米軍の殺戮と破壊に加担しつつ、日本政府は復興支援を強化する。
〈政府は1月9日、アフガニスタン中西部のチャグチャランでリトアニアが展開している「地方復興チーム」(PRT)に今春、外務省職員数人を派遣すると発表した。日本はこれまで、国際協力機構(JICA)の職員らが現地で技術協力を行ってきたが、政府職員の派遣は初めて。学校建設や医療支援などの調整や現地のニーズを調査する見通しだ。
PRTは外国軍の防護下で文民が地域復興に当たる枠組み。アフガンとイラクで実施され、地域ごとに軍が治安維持などを担い、文民が教育・保健分野の復興支援に当たる。リトアニアが昨秋、職員派遣を日本政府に打診。チャグチャランは「アフガン国内では治安が比較的安定している」(外務省安保課)ことから派遣を決めた。〉(1月10日付『毎日新聞』)
〈政府はアフガニスタンの復興を支援するため、新たな貢献策を固めた。復興の鍵を握る首都カブールの再開発計画を日本主導で策定、2025年までの完了を目指して資金・技術面から協力する。現地で復興支援に当たる政府職員の新規派遣やテロ対策への資金協力も盛り込み、治安と経済の両面から貢献する姿勢を示す。〉(1月11日付『日本経済新聞』)
〈オバマの戦争〉に加担してアフガンの人びとを殺し、国土を破壊しつつ、一方で「復興を支援してあげましょう」と言うのだ。
▼麻生首相が強引に進める海賊対策
東アフリカ・ソマリア沖で起きている海賊事件に対応するため、NATO(北大西洋条約機構)加盟国が次々にソマリア周辺海域・アデン湾一帯に軍艦を派遣している。すでに英、仏、ドイツ、ギリシャ、スペイン、イタリア、ベルギー、オランダなどが派兵している。さらに中国も艦隊を派遣し自国籍船だけでなく台湾の商船も警護している。アデン湾を含むソマリア沖海域には各国の軍艦が何十隻も集結している。すでに英海軍は海賊との銃撃戦で海賊2人を射殺し、インド海軍は海賊に乗っ取られたタイの船舶を撃沈した。
世論調査のたびに支持率が下がる麻生首相は、ここで頽勢挽回とばかり、海賊派兵を強行する気である。「バスに乗り遅れるな」というわけだ。その前のめりの姿勢は、2001年の〈9・11〉直後の小泉首相(当時)にそっくりだ。〈9・11〉が起きるや、小泉はただちに訪米してブッシュの報復戦争に全面的支持を表明し、テロ対策特措法案が国会で成立する前に(!)海上自衛隊の艦船をインド洋に派遣した。その名目は「情報収集」だったが、はなはだ根拠を欠いた恣意的な軍の運用というほかない。小泉首相は国会でろくに審議をせずに強引にテロ対策特措法を成立させた。そして洋上で待機する艦隊に同特措法に基づく措置を命じ、さらに艦隊を増派したのである。
麻生政権は当初、(1)「海賊行為対処法」のような一般法を制定する(2)海賊対処特措法を制定して対応する(3)海上警備行動を発令して海上自衛隊の護衛艦をソマリア沖に派遣するという3種の対応を考えた。しかし一般法の制定には法的な課題が非常に多く、しかも現在のいわゆるネジレ国会では(1)も(2)も早期実現は望めないので、(3)を当面の政策として押し出し、突っ走ろうとしている。
事態は急を告げている。1月15日付の『中国新聞』はこう伝えている。
〈アフリカ・ソマリア沖の海賊被害対策で、呉市の海上自衛隊呉基地所属の護衛艦2隻が、自衛隊法に基づく海上警備行動による派遣をにらんで準備を始めたことが1月14日、海自関係者の話で分かった。派遣が決まった場合、部隊は400―350人規模になる見込みという。
2隻は、さざなみ(4650トン)と、さみだれ(4550トン)。遅くとも昨年12月下旬には、防衛省海上幕僚監部から指示が出ているとみられる。海自隊艦艇の海外派遣の準備には通常2カ月、最短でも1カ月かかるとされ、防衛相の発令があればすぐに出発できるよう備えているという。〉
▼強引な拡大解釈による艦隊派遣
海上警備行動は自衛隊法第82条(注参照)に規定されているが、それはもともと海外での海賊取締りを想定したものではない。日本の周辺海域で発生する事態に備えるものだ。河村官房長官は昨年12月24日、記者会見で「海上警備行動は原則、日本の領海内を想定している」と言明している。
海上警備行動はこれまでに2度発令された。それらはいずれも領海内に入った不審船(99年)と中国潜水艦(04年)への対処だった(いずれも事態に間に合わず対処できなかった)。麻生首相は、日本を遠くはなれたアフリカ沖での海賊対処のために海上警備行動を発令する気なのだが、それが自衛隊法のまったく恣意的な解釈によることは明らかである。
海上警備行動は閣議で決定することができ、国会の承認を必要としない。それゆえ、防衛省幹部でさえ「安易に使われると世界中どこにでも行け、となりかねない」と懸念しているほどだ(昨年12月26日付『毎日新聞』)。麻生首相が前のめりで強気である背景には、国連安保理が昨年10月、加盟国に対してソマリア沖への海軍派遣を要請する決議を行ない、同年12月にはソマリアの領土・領空での海賊制圧を認める決議を採択したことがある。しかし海賊行為に対して国連憲章第7章(平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動)を適用するのは明らかに過剰な対応である。いかに社会や経済が破綻していると言っても、一国の領海・領土・領空に踏み込んで好き勝手にふるまうことは許されない。中国が艦隊を派遣したことが日本政府・外務省を焦らせ、派兵強行を決断させたという報道があるが、そんなことで軍隊を動かすのであれば、今後どんな派兵が強行されるかわかったものではない。
※注:自衛隊法第82条 防衛大臣は、海上における人命若しくは財産の保護又は治安の維持のため特別の必要がある場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に海上において必要な行動をとることを命ずることができる。
▼海賊への対処は海上保安庁の任務である
海上警備行動は、海上保安庁では対応が困難な場合に職務を代行することになっている。しかし海賊への対処が「海上保安庁では対応が困難な場合」に該当するかどうかなどこれまで検討されなかったし、それゆえ当然のことだが、海上自衛隊は海賊対処の訓練をしていない。海賊への対処は一義的に海上保安庁の仕事である。海上保安庁法は第2条で同庁が「海上における犯罪の予防及び鎮圧、海上における犯人の捜査及び逮捕」を任務とすると定めている。
〈マラッカ海峡の海賊対策では、海上保安庁がアジアの沿岸各国と情報を共有する体制を築き、人材育成を支援してきた実績がある。〉(08年12月26日付『北海道新聞』)。
〈日本は、東南アジアの海賊対策で「アジア海賊対策地域協力協定」策定を主導し、マラッカ海峡周辺国に海上保安庁の巡視船を提供するなどして海賊封じ込めに成功した実績がある。〉(08年12月27日付『毎日新聞』)
実際、同海峡での海賊事件は激減した。「2003〜07年のデータを見ると、海賊事案は東南アジアでは5年間で半数以下になっている」(外務省のホームページ)。だからソマリア沖での海賊事件についても、海上保安庁はイエメンやオマーンなど沿岸諸国に働きかけてマラッカ海峡での経験を活かそうとしている。そもそも日本政府の「海賊対策」は沿岸国イエメンの要請に応じ巡視船や巡視艇を供与する方向で調整を始めるところから始まったのだ。
〈巡視船艇供与は2006年6月に閣議決定したインドネシア向けに続き2例目。イエメンの海上警備能力の向上が狙いで、政府開発援助(ODA)の無償資金協力の枠組みで実施される見通し。既に海上保安庁が今月(12月)、現地に職員を派遣し、巡視船艇導入の効果などを詳細に調査している。〉(08年12月24日付『共同通信』)
ところが麻生首相が突出して海上警備行動発令を持ち出し、まず護衛艦隊を派遣し、その後「海賊行為対処に関する法律案」(仮称)を成立させることになった。浜田防衛相は一般法(海賊対処法)を整備した上での艦隊派遣を望んでいるが、麻生首相は押し切るかまえだ。
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