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☆本日は伊達風人の詩集「風の詩音」から、私が好きな詩『ぽろぽろ』を再掲します。




   『ぽろぽろ』

  
 誰も居ない水辺が悲しいので
 両手で水を掬ってみました
 とても透き通った世界が
 そこにはありました


 とても遠いところで
 ミツバチが花の蜜を
 集めています


 とても遠いところで
 愛に包まれた赤ん坊が
 生まれています


 それは確かに
 私のてのひらの上でした


 また両手で水を掬ってみました
 とても透き通った世界が
 そこにはありました


 とても高いところで
 お月様が神さまのように
 わたしを愛しています


 とても高いところで
 誰かの優しい心が
 陽のように輝いています


 それは確かに
 私のてのひらの上でした


 また両手で水を掬ってみました
 とても透き通った世界が
 そこにはありました


 とても深いところで
 熱く淋しい汽笛のような音が
 鳴り響いています


 とても深いところで
 母の鼓動のように懐かしい歌が
 聴こえてきます


 ぽろぽろ


 ぽろぽろ


 ぽろぽろ


 ・・・・・・



 ふと気がつくと
 それはただ
 わたしの指のすきまから
 ぽろぽろ
 落ちる 雫の音でした


 とても透き通ったその世界は
 わたしの悲しみ
 そのものだったのです



  *「めろめろ」102号  2004年9月




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  =追記=

 ・私事で恐縮ですが持病の甲状腺機能障害の影響かどうか、七月末頃から少し体調不   良(睡眠障害や意欲低下)になっておりました。ですがお陰様で最近になって少し状  態が良くなってきました。ブログもゆっくりとですが再開したいと思って居ます。
  皆様どうぞもご自愛ください。
   所で、暑かった今年の夏もそろそろ・・・といった感じの今日この頃。
  夜は、虫の音が次第に大きくなり、またその種類も少し増えてきているように思われ  ます。
  そう言えば、今朝、家の坪庭に今年もアブラゼミの亡骸がひとつ転がっているのを発  見しました。私はその後、庭の片隅に小さな穴を掘って土に戻してやりました。
七年もの長き間土の中で過ごして、地上ではたった七日しか生きられないという蝉の  宿命。その余りにも短い一生が我が子(伊達)のようにも思えて、この詩を掲載した  くなったのでした。合掌・・・。
 
  

        2019年8月26日(月)20時48分  野川秀行。

  
  
  

 

本日は、伊達が過去のweb同人誌「めろめろ」に投稿していた詩の中から『虹の向こうに』を再掲します。

 
  

   『虹の向こうに』



あの虹の向こうから
やわらかな風はやってきて
雨に耐えた木々の葉たちは
雫を落として揺らめいている

 

 きらきら
   ざわざわ


ただそれだけなのだけれども
あまりに 魂を揺さぶるものだから
この愛しい風が生まれてくる



あの虹の向こうには
奪い合いや 争いごとをやめた
心の優しい人たちの住む
美しい街があるのだと


 そう 心から信じられるんだ






  「めろめろ68号」(2004年2月4日発行)



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

☆本日は、詩集「風の詩音」に載らなかった詩の中から『夕焼け』を再掲します。



  「夕焼け」


夕焼けはまぶしかった
太陽はその存在を残すため
精一杯赤くなる

俺も誰かの風景の一部と化して
赤く染まっているだろう



もっと赤くなりたい

たとえいっときの色にせよ
全てを染める色だから
幸福の色だから


 あと何回この夕陽をみることだろう

 そのたびに俺は幸福でいられるのだろうか


夕焼けへの想いは六十億
俺の想いはその一つ


 そうだった
 
 夕焼けとは

 人々の想いの燃え上がる現象なのだ



やがて俺の長い影は闇と同化するだろうが

俺はもう少しだけ赤いままでいたいと思う

この想いを言葉にしても赤いままでいたいと思う



   ことばが理性的なものであるとは限らないから



 
       (詩作の時期不明)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 (追記)

☆朝からよく晴れた日。そして夕刻になっても未だ、かすかな暖かさの残る夕暮れの中で 真っ赤に染まった沈みゆく太陽(夕陽)を偶然発見した時。
 そんな時は時折、人を少し高揚させると同時に、感傷的にもさせるのかもしれない。
 我が子が亡くなった年(2012年)の5月末のある晴れた日、私は独り、日本海の夕陽を見 に山形県の鶴岡市の加茂まで車を走らせた事があった。
 その時、私は生まれて初めて「海に沈む夕陽」を見続ける体験をしたのだったが、果た して我が子(伊達)がこの詩を書いたのは、このような場所であったのだろうか。
 いや、決してこのような場所では無かったのではないのかと、私はその時、何となく直 感的に、そう感じたのであった。
 確かに美しい夕陽ではあったのではあるが、何の感傷も感情も殆ど浮かんで来なかった からなのである。
 では、我が子が夕陽を見たのは、どんな場所で、どんな心境の時だったのだろうか。
 勝手に色々考えてみた結果、私は、大勢の人々が帰宅を急ぐそんな都会のビルの谷間に 沈む少し小高い場所で、誰か想いを寄せる人(女性)の事を想いながら眺めたのではな  かったのではないのだろうかと・・・。
 「東京砂漠」という歌謡曲があるが、當に、都会の喧騒の渦巻く群衆の中だからこそ、 明日という確かな日(幸せの)到来があるのを期待しながらも、何故か自分だけには、 もしかして「明日が来ないのではないだろうか」という、一抹の「寂寥感」や「不安  感」に襲われたのではなかったのではないだろうか。
  私には、何故かそのように思えてならない・・・。

           2019年5月9日(木) 野川秀行。
 

☆本日は詩集「風の詩音」に載らなかった詩の中から『原風景』を再掲します。



   
『 原 風 景 』



人の心には懐かしい風景がある
その風景は決して「記憶」ではなくて
ある種の「感覚」に属している



青い香りを感じ取り青い季節を追う感覚
曖昧且つ確かで極めて個人的な感覚
センスデータの重層的触発に耐えられずに
その風景は立ち現れる



晴れた日はジョウロで紫陽花に虹を架け
雨の日はかたつむりを探した
素直に好きと言えずにあの子を泣かせて
友達とケンカしては仲直りをした
兄と腹を抱えて笑い合って
疲れ果ててはベッドで眠りに就き
父の帰宅を寝ぼけ眼で確認し
母の手のぬくもりに心を安らげ・・・
ただそれだけだった
それが全てだった
そんな時代があったと思う



自分がなにものであるかなど知る由もなく
もがきながらも喜怒哀楽に溺れ
それでも幸せだったあの頃



あの風景のどこを切り取っても
その切り口は美しく輝いていて
天然色の幸せが零れ落ちてくるから
時折僕は忘我の楽しみさえも忘れて
「感覚」の訪れを待っている



     〜伊達風人〜     (詩の作成時期不詳)


  
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(追記)

☆今日の昼頃、私達(夫婦)は久し振りに上山市牧野にある久昌寺に墓参りに行ってき
 ました。当初、我が子の生誕日である5月4日に行く予定にしていたのですが、昨日、
 テレビで「令和時代の到来」を伝える番組をずっと見続けている内に、何故か時の流
 れの速さや、全てが過去になってしまう、とてつもない寂寥感に突然襲われてしまっ
 たからなのでした。確かに存在していたもの(我が子)が、あっという間にこの世か
 ら消えて次第に確実に「忘れさられて行く・・・・・」という恐怖にも似た感覚。
 「幸せであったあの頃の懐かしい想い出・・・・」。
 伊達が遺したこの詩のように、私達の家族の幸せだった原風景が、今、走馬燈のよう
 に、私の瞼の中を駆け巡っている・・・・。
 
 

☆本日は伊達が遺したエッセー「慣性の法則」の中から、『心』という詩を再掲します。



 
(NO.23) 『 心 』


何をどれだけ詰められても
満たされないものが心だとしたら
僕は何を求めればよいのだろう
これが生きる秘密だと気づきながら
僕は今日も電車に揺られている


あなたひとりのために
満たされてしまうものが心だとしたら
僕は何を求めればよいのだろう
これが愛する悲しみだと気づきながら
僕は今日もあなたを見つめている


心はおそらく
一つの異世界で
そこでは
過去に降った雨が再び降ることも
また一瞬で晴れ渡ることもある
そして僕らは晴れたそのときを
幸福と名付けるしかない


逆行する時間軸の上で
深い記憶の底に潜む未来に
詩人は激しく抵抗するが
彼が心に得るのは
無言の歌と
風花のような想い
ただそれだけだ




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