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本日は、伊達の遺稿詩集「風の詩音」より『水錘』を掲載します。
因みにこの「水錘」はこの詩集の冒頭を飾る詩であり、伊達の短かった詩業の中でも特に渾身の力(魂)で書かれたと思われる長文の現代詩で、また特に難解な詩でもあります。
『 水錘 』
溶解するみぎり
紅いうてなまでの
伸びやかな角質の水脈
その先は すでに落日して
紡がれないものの内洞は
そのように遠く、まぶしい
静寂の頂のかたわらで
果てることのない耳殻は
音もなく 自らの輪郭を奏でている
線という線を引き連れて
真皮に光を匿した石のように
液状の風を孕んだまま
凍てついた惑光の原形質は
その中心体から流動している
/惑光 垂氷を切る 光腕 ふたつ、
巻き取られる私の線という線) ひとつ、は
尖端の虹彩がのぞむものの形状をして
指先で回転する必要条件たち) ひとつ、は
水源の鳥瞰がこばむものの形状をして
生命線は羽のように編まれて) 垂氷を。
切る、光腕ふたつ。ゆび先は垂氷のは
るか遠方にあり、切り開かれた圏層の
瞳孔にまで伸びてゆく二百万という痛
点の配置は、原初から耳底に渦巻いて
いた遊星たちのそれに酷似している。
音の穿つ譜の。あるいは静寂の。
真皮を滑落する抜殻としての水疱に折れたものを
はためかせてなぞることも視いることもできない
光とはむしろ、
眩/暈
溶解するみぎり。紅いうてなまでの伸びやかな
角質の水脈。砕石場に堆積する音の輪郭は鉱物
たちの纏う帷子のよう。 捩じれた水の静脈、
眩暈、風に反転する錘。籠絡する管と記述され
た葉宙の記憶が確かな質量になるすこし手前で
知る、明滅しながら砂音になる私の質量など。
/きしみ、
水に削られゆく粒の。刻々と記される惑光のか
たちは、その細胞から揺らめいている。三半規
管に設けられていた円形舞台で辻楽師が葉宙を
演奏している。虹彩の収縮に正確な速度で鳴る
玲瓏とした静寂、その純粋な必要条件を巻き込
みながら、膨らむ肺。膨らむ肺。眩暈、風に反
転する錘。剥落した水の跳躍が静寂のままに響
きわたる。
水錘/
溶解するみぎり。紅いうてなまでの伸びやかな
角質の水脈。その先はすでに落日して、紡がれ
ないものの内洞はそのように遠く、まぶしい。
白譜の大地で葉宙を奏でた辻楽師の球形願望が、
剥落した温度を休符に誘う。ほとばしる新しい
譜のかたちが水錘を引いてゆく。ひとつの光腕
が垂氷を切り水錘は回転する。尖端の虹彩がの
ぞむものの形状をして。籠絡する管を通過した
空気はやがて先史のそしりを呑み込み、吹きす
さぶ。その風に反転する水錘。籠絡されたあら
ゆるい生き物たちの鼓動だけを抜粋して。
溶解するみぎり
紅いうてなまでの
伸びやかな角質の水脈
その先は すでに落日して
(水錘が反転する
静寂の頂のかたわらで
果てることのない耳殻は
音もなく 自らの輪郭を奏でている
線という線を引き連れて
真皮に光を匿した石のように
(水錘が反転する
反転する水錘がただ反転する、水錘が
ざらり
2008年5月。 同人詩誌「kader0d」第2号掲載。
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