仕事の流儀 【哲学編】

時代は変わっても、人間の本質は変わらない。

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ホンダは昭和25年に三菱銀行と取引を始めましたが、手形を割り引いてもらったことはあっても、
初めて借金をしたのは、たしか昭和29年になってからでした。
それも、会社の危機だからというよりは、
この辺で借入れをして、結びつきを強めておく必要があると判断したからです。

十条にある小さな工場だけではどうにもならなくなってきたとき、
埼玉県の白子にある工場を買いました。ニュートーキョーの持ち物で、
戦時中は軍需工場だったもの。ぜひとも欲しかった。
しかし、現金で買えるだけの金がない。

いまのホンダだったら、いくらでも金を貸してもらえるでしょうが、
そのときは銀行が貸さないことははっきりしている。
貸さないとこりに借りに行くバカはいない。
貸すようにさせてから借りに行くのが原則です。
銀行というのはそんなにレベルの高い商売じゃありません。
企業の先が見えるくらいだったら、銀行屋などやってませんよ。

そこで、私はニュートーキョーの社長に会いに行って、月賦で売ってくれと交渉した。
話がまとまって、一年か二年の支払いで買うことができました。

まだ二輪車がものになるなんて、世間では誰も考えていなかった時代です。
十条工場を買ったのでさえ、三菱銀行は「へぇー、工場を買ったんですか」。
また三千五百坪の工場を買ったなんていえば、それこそ銀行が腰を抜かしそうだったので、
黙っていました。4サイクル・エンジンの生産を開始してから、
三菱銀行京橋支店長を白子工場に案内したら、びっくりしていました。
こちらは銀行から一銭も借りていないのだから、威張ったものでした。

それ以後は、三菱銀行に対して私は何でもしゃべりました。
いっさい隠し事はせず、悪い問題も全部打ち明けました
だから、審査部長も、専務も、頭取にしても、本田技研に関してはすべて知っていたわけです。

三菱には三菱重工があるから、そんなことをしていると
ホンダは三菱に乗っ取られてしまうぞという中傷をずいぶんされましたが、
どんなことを打ち明けても、それが三菱重工のほうに流れたこともないし、
合併話を持ちかけられたことも一度もありません。

すべてを知っていれば、銀行も正確な判断ができます。
29年の危機に際しても、会社の現実をはっきり説明しましたし、
未来の構想についても話したのですが、それがだいたいそのとおりになりました。

こうした経験が重なって、
三菱銀行に本田技研に対する絶大な信頼感を持ってもらえるようになったと思います。
ホンダも三菱に対して絶対の信頼感を持っていた。このような関係が、
企業をどのくらい助けているかわかりません

中小企業から脱皮しようというときに、いちばん大切だと今にして思うのは、
手形の発行を三菱以外ではしなかったことです
ある銀行がぜひ取引してくれというので、そこから多少の手形を振り出したことはありますが、
29年の危機につべこべいうので、やまてしまったんです。
その銀行から振り出した手形の額も、三菱に言ってありました。
金の流れが主力銀行にはっきりわかるようになっていたわけです。現在もそうです。
これが主力銀行を非常に安心させる原因じゃないかと思います

単純なことだけれども、これがなによりも大事です。
なにかという時に、いくつもの銀行をまわらずにすむから、くたびれもしません。
取引先も、三菱銀行に聞けば、「ああ、あそこは大丈夫ですよ」ということになって、手間も省けます。

私の経営信条は、すべてシンプルにするということです。
シンプルにすれば、経営者も忙しくしないですむ。
そのためには、とにかく一度決めたら、それを貫くことです。
状況が変わっても、一筋の太い道を迷わずに進むことです

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経営に終わりはない (文春文庫) [文庫]
藤沢 武夫(著)
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出版社/著者からの内容紹介
本田宗一郎との二人三脚で世界的企業を育てあげた経営者が初めて明かす自らの半生と経営理念。
ビジネスマン必読の人生の指南書
内容(「BOOK」データベースより)
「おれは金はもってないけれど、金はつくるよ」
著者・藤沢武夫はこう言って本田宗一郎とコンビを組んだ。
単に一企業の儲けを考えるのではなく、社会的責任を全うするという愚直な道を選び、
なおかつ本田技研を二人三脚で世界的企業に育て上げた名経営者が、初めて明かす、
自らの半生と経営理念。

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