"澁澤龍彦"あるいは"澁澤龍彦的世界"の真骨頂、彼の上梓した単行本の中でも最も人気もあり人口に膾炙されている「手帖3部作」をご紹介いたしましょう。『文藝』昭和48年11月号に発表され、『人形愛序説』にも収録されている「翻訳について」という小文があります。
"翻訳は、カメラのファインダーをのぞいてピントを合わせる作業に似ているのである。近ごろ流行のコンポラ写真は論外としよう。フランス語で表現された一つの文章、一つのボキャブラリとまさにぴったり対応する日本語の文章、日本語のボキャブラリを発見するまで、根気よくフォーカス・ノブをぐるぐる廻さねばならない。ようやく二重像が一致して、ぴったりピントが合ったな、と思ったときに初めてシャッター・ボタンを押す。つまり、原稿用紙に文字として定着させるわけである"
(澁澤龍彦)
これはすなわち、『ウォルター・ペイター全集』(筑摩書房)の編訳、『新=東西文学論』(みすず書房)、『ある唯美主義者の肖像〜ウォルター・ペイターの世界〜』(青土社)の著作etc.世紀末研究では著明な富士川義之氏が『ユリイカ〜澁澤龍彦 ユートピアの精神〜』昭和50年9月号(青土社)のなかで指摘しているように、ここには"澁澤流"の翻訳の美徳があり、澁澤の生得の思考方法である"視覚的なイメージによる思考方法"があるといえましょう。
さて、本作は『宝石』昭和35年8月〜36年10月に連載されたエッセイ集です。コンテンツは以下のとおり。
*序
*ヤコブスの豚
*カバラ的宇宙
*薔薇十字の象徴
*夜行妖鬼篇
*古代カルタの謎
*サバト幻景
*黒ミサ玄義
*自然魔法もろもろ
*星位と予言
*ホムンクルス誕生
*蝋人形の呪い
*ジル・ド・レエ侯の肖像(聖女と青鬚男爵)
水銀伝説の城
地獄譜
幼児殺戮者
『澁澤龍彦集成』(全6巻)(桃源社)の第1巻(昭和45年2月25日発行)に再録。
現行本では、同タイトルにて河出文庫(昭和58年12月3日発行)。『澁澤龍彦全集』(全24巻)(河出書房新社)では、第2巻(平成5年7月12日発行)に収録。
*本の装丁フェチでもある三島由紀夫氏がその反時代的な"ダンディさ"を<殺し屋的ダンディズムの本>と激賞したように三木本一氏・矢貴昇司氏(桃源社社長)の手になる本の装丁も揮っていて、洋書のように"天""地""小口"、3方"黒色"に塗りつぶされています。それは、以下の手帖2作にも受け継がれています。
*さらに、「手帖3部作」は澁澤龍彦氏の「序」部分のみ本文と異なったインクを使用する、つまり「2色刷り」という贅沢さ!!本作では"魔術とは欲望の全能である"ヤーコブ・べーメ、"想像力は最も科学的な能力である"ボオドレエル、"真の詩人はつねに祭司であった"ノヴァーリス etc.と箴言やアフォリズムを引用した序文が「碧緑色」で印刷されています。
画像は、『黒魔術の手帖』澁澤龍彦(桃源社)(初版本:昭和36年10月5日発行)です。
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