あなたは.....誰かに"渾身のラブ・レター"を書いたことがありますか?
そう、"渾身で"です。
全身全霊で、相手の女性の"髪の匂い"を感じ、"美しい瞳"、"愛らしい唇"、"しなやかな指先".....光輝燦然たるわが"ミューズ"に想い焦がれながら.....。
相手が便箋を開けると、あなたの"愛の雫"が滴り落ちるような「恋文」をです。
1960年代を代表する最高のイイ男とイイ女、マルチェロ・マストロヤンニ Marcello Mastroianniとジャンヌ・モロー Jeanne Moreau....."ファム・ファタール famme fatale"を演じさせたら世界一似合う女=ジャンヌ・モロー Jeanne Moreauも、『わかれ路 / INTERSECTION』(1994)に出演していたときのシャロン・ストーン Sharon Stone並に、((『クレーブの奥方』までとはいいませんが)"貞淑"で"たおやかな"カワイイ女を演じています。
■『夜/LA NOTTE』(1961)ミケランジェロ・アントニオーニ Michelangelo Antonioni
■解題
ある土曜日の昼間から翌日の夜明けまでのミラノ.....。
無味乾燥な町の、風景や建築物がシンボリックに映し出され、現代人の言い知れぬ孤独が浮かび上がってきます。
1960年代、イタリアの高度経済成長はピークを迎えました。ミケランジェロ・アントニオーニの「愛の不毛」3部作やフェデリコ・フェリーニ Federico Fellini『甘い生活 / LA DOLCE VITA』(1960)は、高度経済成長下のイタリアの中産階級やブルジョワ社会を鋭く描き出しています。
これらの作品の主人公は建築家や作家、株式仲買人、ジャーナリストなどの知的職業に就いています。彼らは経済的に安定していますが、生きる目標を失い、彼らの生活からは"倦怠感"が漂っています。この"倦怠"こそ(かれらが認知することもなく静かにかれらの体内で進行していた)かれらの精神を蝕む病巣だったのであります。
アントニオーニの「愛の不毛」3部作の主人公たち(『情事 / L'AVVENTURA』(1960)のサンドロ、『夜 / LA NOTTE』(1961)のジョヴァンニ、『太陽はひとりぼっち / L'ECLISSE』(1962)のピエロ)は『甘い生活 / LA DOLCE VITA』(1960)のマルチェロと似たところがあります。マルチェロはエンマ(イヴォンヌ・フェルノー)と同棲していますが、彼女と結婚する決心がつきません。彼はブルジョワの娘マッダレーナ(アヌーク・エーメ)とも関係を持っています。ハリウッドから来たグラマー女優シルヴィア(アニタ・エクバーグ)にうつつを抜かしますが、結局徒労に終ってしまいます。そして、貴族の舘でのパーティー(肝試し)でアメリカ人の女流画家と一夜を共にしてしまいます。一方、嫉妬深いエンマに辟易しながらも、彼女と別れるでもない。このようにマルチェロ及び他の3主人公の女性関係は、惰性で行き当たりばったりで、彼らの愛情生活はまさに"不毛"というほかはないでしょう。
■解説
「愛の不毛」3部作、『情事 / L'AVVENTURA』(1960)、『夜 / LA NOTTE』(1961)、『太陽はひとりぼっち / L'ECLISSE』(1962)で有名なミケランジェロ・アントニオーニ Michelangelo Antonioniとエンニオ・フライアーノ Ennio Flaiano、トニーノ・グエッラ Tonino Guerraが共同で脚本を執筆、結婚10年目の"倦怠期"の夫婦の生活を描いたもので、ベルリン映画祭でグランプリ(「金熊賞」)を受賞しています。撮影監督は、アントオーニ組のジャンニ・ディ・ヴェナンツォ Gianni Di Venanzoで、音楽はイタリア・ジャズ界の鬼才といわれるジョルジョ・ガスリーニ Giorgio Gasliniが担当しています。
出演者には『死刑台のエレベーター/ SACCO E VANZETTI』(1957)、『恋人たち / LES AMANTS』(1958)、『危険な関係 / LES LIAISONS DANGEREUSES』(1959)、『雨のしのび逢い / MODERATO CANTABILE』(1960)、『突然炎のごとく ジュールとジム / JULES ET JIM』(1961)、『エヴァの匂い / EVA』(1962)、『鬼火 / LE FEU FOLLET』(1963)、『小間使いの日記 / LE JOURNAL D'UNE FEMME DE CHAMBRE』(1963)、『審判 / LE PROCES』(1963)etc.の"famme fatale"を演じさせたら世界一(今回は違いますが...)のジャンヌ・モロー Jeanne Moreau、『甘い生活 / LA DOLCE VITA』(1960)などフェデリコ・フェリーニ Federico Fellini作品では常連で、ルキノ・ヴィスコンティ Luchino Visconti、ヴィットリオ・デ・シーカ Vittorio De Sica作品などに出演し、イタリアを代表する俳優マルチェロ・マストロヤンニ、『情事 / L'AVVENTURA』(1960)をはじめ「愛の不毛」3部作には全て出演し、一時はアントニオーニの"プライベート"なパートナーでもあったモニカ・ヴィティ Monica Vitti、またドイツから『橋』の監督ベルンハルト・ヴィッキ Bernhard Wickiがジョヴァンニ Giovanni(マルチェロ・マストロヤンニ Marcello Mastroianniの親友の文芸評論家トマゾの役で特別出演しています。
■あらすじ
ある日の午後、作家のジョヴァンニ Giovanni(マルチェロ・マストロヤンニ Marcello Mastroianni)と妻リディア Lidia(ジャンヌ・モロー Jeanne Moreau)は、病床の夫婦共通の友人である文芸評論家トマゾを見舞います。トマゾの病気は回復の見込みがない末期癌です。トマゾはジョヴァンニの親友であり、若い頃から3人は友人で、以前、ジョヴァンニもトマゾもリディアにそれぞれ別に告白した間柄でした(結局、リディアはジョヴァンニを選んだのであります。)。2人の文士、新進作家と文芸評論家に、ほぼ同時に愛の告白を受け、(巻末の大富豪ゲラルディーニのパーティーの明け方、リディアの独白でもわかるように)単に"愛を語る"のではなく、自分の"主張""物語"を熱心にリディアに話してきかせることを喜びとしていたジョヴァンニの"新鮮さ"に惹かれてゆきます。以前からトマゾはリディアを愛していましたが、彼女は結局ジョヴァンニを選び結婚してしまいました。
彼女は作家夫人として何不自由のない毎日を送っていますが、その生活に何か得体の知れない茫漠たる不安が徐々に広がっていきます。結婚前には固く二人を結びつけたはずの「愛」を見失ってしまったと感じたとき、彼女の心にポッカリ空洞があいてしまいます.....。2人の乗った車は近代的なミラノの街並みを縫っていきます。自動車は近代的で最先端の美しい建物の前へ止ります。そこは、各界のセレブ達が集う"サロン"と化していました。そこではジョヴァンニの「新作」の書籍のサイン会が行われるのです。なぜかその"空気"にいたたまれなくなったリディアはひとり近代的なミラノの街に徒で吸い込まれていきます.....。幾何学的な白いコンクリートの直線風景。郊外のうら寂しい家並み。そのまま彼女の心象風景を表しているかのような、表通りの華やかで近代的な町並みとは対照的な荒涼とした原風景的なシークエンス.....。
その夜、二人は男女の黒人ダンサーが妖艶かつデカダンなダンスを披露している「ナイト・クラブ」に遊びにゆきます。「ナイト・クラブ」に退屈したニ人はそれから、大富豪ゲラルディーニのパーティーへ行きます。会場でジョヴァンニは、ゲラルディーニの娘バレンチナ(モニカ・ヴィッティ Monica Vitti)に出逢い、魅了されてしまいます。彼の視線はたえず彼女を追います。ジョヴァンニはゲラルディーニの娘バレンチナ(モニカ・ヴィッティ Monica Vitti)に、妻リディアはゲラルディーニのパーティーの招待客ロベルト(ジョルノ・ネグロ Giorno Negro)にとそれぞれ、パーティーで出会った男女に誘惑され、パーティーの一夜を別々に過ごしてしまいますが、一抹の"アヴァンチュール"の香りを残しただけで、不発に終ってしまいます。一方、トマゾの容態が心配で病院へ電話したリディアはトマゾの死を知ります。リディアの胸中で何かが音をたてて崩落してゆきます.....。ポーチの隅で夫ジョヴァンニとバレンチナが接吻してるのを見ても、嫉妬の感情すら...つまり何の感情もわかなかったのであります。PARTY IS OVER.....。
「夜」を別々のシチュエーションで過した夫と妻に「夜」は何ももたらしはしませんでした。"愛撫"も"波瀾"も"憎悪"も"事件"もなかったのであります。二人はゲラルディーニ邸の広漠とした庭に彷徨い出ます.....そして、プライベートゴルフ場の一隅(バンカー)に辿り着き、座ります。「トマゾが死んだわ.....。」リディアはポツリと言います。それからトマゾへの過去の自分の気持、それから、リディアは"夫婦の愛の倦怠の哀しみに打ちひしがれ"、失意のあまり、ハンドバッグから"便箋"を取り出し、ジョヴァンニに朗読して聴かせます。それは実は、10年前(婚約〜新婚時代)にジョヴァンニがリディアに書き贈った"ラブ・レター"でした.....いったい燃え滾る"その愛"はどこへいったのか?.....今は二人の間には冷々とした"倦怠"があるだけです。あまりにも"情熱的"な「恋文」の文体に圧倒されジョヴァンニはリディアに尋ねます。「誰からの手紙だ?.....」と。リディアは答えます。「あなたからのよ.....。」
ジョヴァンニは言葉を失い、愕然として恥入ります.....リディアの手の甲に浴びせるようなKISSをし.....そして感極まった(自分がまだリディアに対する愛の炎の残滓が残っていることを確認した)ジョヴァンニはリディアをバンカーの砂の上に押し倒し、情熱的に掻き抱き、愛撫します.....。
●スタッフ
監督:ミケランジェロ・アントニオーニ Michelangelo Antonioni
脚本:ミケランジェロ・アントニオーニ Michelangelo Antonioni / エンニオ・フライアーノ Ennio Flaiano / トニーノ・グエッラ Tonino Guerra
撮影:ジャンニ・ディ・ヴェナンツォ Gianni Di Venanzo
音楽:ジョルジョ・ガスリーニ Giorgio Gaslini
美術:ピエロ・ズッフィ Piero Zuffi
●キャスト(役名)
ジャンヌ・モロー Jeanne Moreau(Lidia)
マルチェロ・マストロヤンニ Marcello Mastroianni(Giovanni)
モニカ・ヴィッティ Monica Vitti(Valentina Gherardini)
ベルンハルト・ヴィッキ Bernhard Wicki(Tammaso Garani)
ロージー・マッツァクラーティ Rosy Mazzacrati(Rosy)
マリア・ピア・ルージィ Maria Pia Luzi(Patient/Ninfomania(色情狂))
ヴィンツェンツォ・カルベラ Vincenzo Corbella(Mr.Gherardini)
ギット・マグリーニ Gitt Magrini(Mrs.
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