瑠璃色

『三度の飯より…。』改め『瑠璃色』に、ブログ名を変更しました。これからも、宜しくお願いします。

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俺の好きな人は、彼の通う大学の近くのファミレスでアルバイトをしている。
可愛くて俺は好きだが、彼自身は気にしている成人男性にしては小さめな身体。その何処にそんな力があるのだろうか。
注文された料理を運ぶため、重たそうなトレーを片腕に支え、広い店内を機敏に動いている。白いシャツに黒いベスト、これまた黒いスラックスが良く似合っていて、そんな格好良い姿に俺は目が離せなくなる。頼んだチーズインハンバーグの中身が固まってしまうぐらいには見惚れてしまう。
そうすると俺の視線に気付いているのか、それとも俺が来ている事が気になるのか、チラホラ視線が合うから、嬉しくて堪らない。
嬉しさからニコッと微笑んだら、そっぽを向かれてしまった。漫画だったらフンっという効果音が付きそうなぐらい大きくそっぽを向かれたというのに、俺はそんな彼が可愛くて仕方ない。
だって、そんなに大袈裟に視線は外すくせに横を向いた頬が紅く染まっているとか、どんだけ可愛いのって。
今すぐに家に連れ帰って、あの制服を脱がしてしまいたくなるけれど、ここはご主人様の帰りを待つ忠犬ハチ公宜しく、大人しくしてます。
でも、 ちょっとだけ、本当ちょーーーっとだけ。
目の前に愛しい人がいる健康男子としては。
本当、ちょーーーーーーーっとだけ。
制服姿の直ちゃんにあんな事やこんな事を致す脳内妄想を繰り広げていると……、


「…………ま?……さま!お客様!!」


店員さんの声で中断されてしまった。
ちぇっ、と思わなくもなかったが、声の主に気付いた俺は一気に笑顔になる。
だって直ちゃんが呼んでくれたんだもの。
しかも、いつもは俺の名前呼び捨てなのに「お客様」だって。ヤバい……。脳内では同じバイト同士だったけど、お客様と店員プレイも侮れない。
いや、寧ろこっちの方が美味しいかも。
なんて心の中で思っているとも露知れず、店員の井上さんは話を続けた。


「もうお召し上がりになられたなら、お下げしても宜しいでしょうか?」

「あっ、いやまだ……」


食べ終わりに空になった皿を、邪魔にならないように下げる事はウェイターの気配りからの基本従事だが、もう一つ意味合いがある。
高級料理店では無いだろうがファミリーレストランでは『 食べたのなら早く帰ってね』と、急かしの意味も込められているとか、いないとか。
鉄板には、まだ半分ほど残ったチーズインハンバーグと手付かずの彩り野菜。平皿にはライスが一口程食べた状態で残っているし、とてもじゃないが前者の意味合いで「お下げしましょうか?」と、聞かれたのではない事は一目瞭然だ。


「……いつまでチンタラ食べてんだよ。もうハンバーグなんか冷めてんだろうが。忙しいんだから、早く食え」


店員さんから恋人の顔に戻って、直ちゃんは俺に小声で話した。
その声に、左腕に嵌めた真新しい腕時計を見やれば正午前。いつまでも見てたいけれど、店内も込み合い待ち客も居るようだ。
つい直ちゃんを愛でるのに忙しく、食べることが疎かになってしまった。
だって本当に、いつも俺の前では可愛くて仕方ないのに、仕事をしている直ちゃんは格好良くて、いつもと違った雰囲気に俺はつい夢中になってしまった。
でも流石に直ちゃんの仕事の邪魔になってはいけない。
ここは大人しく、帰ることにしようと思った時だった。


「それ、温め直してこようか?」


なんて、忙しいのになんて気遣い!
優しすぎて頬が緩むのを止められない。
多分、めちゃめちゃだらしの無い顔になってるに違いない俺に、何故か直ちゃんは少し頬を紅くして「ほら、忙しいんだから早く」と急かした。


「ありがとう。でも良いよ。忙しいのに邪魔してごめんね。これ食べたら帰るから」


本当は直ぐに切り上げた方が良いのだろうが、せっかく作ってもらったものを残すのは忍びない。それに、忙しい直ちゃんの手間を取らせてまで、温め直してもらうのも悪いし、俺は自業自得で冷めてしまったハンバーグを口に入れた。


「ごめんな、バイト休めなくて。せっかくの誕生日なのに」


直ちゃんが、バイト先というのも忘れて恋人全開で可愛さを振りまいてきた。
ピンク色の唇を一文字に閉じ、ハの字に下がった眉。悔しさと切なさを滲ませたその表情に、俺は心の中で叫んだ。
だから、その顔止めて!
そんな顔、俺以外の人間が見たらと思うと本当、嫉妬で苦しくなる。
確かに今日は俺の誕生日だが、直ちゃんはバイトを休めなかった。多数の大学が近くに顕在するこのファミレスは、それだけ大学生が多くバイトをしている。
その分、入れ替わりも激しく、卒業入学のこのシーズンは古参の直ちゃんは重宝されていると聞いたのは、一ヶ月前。
そのせいで俺の二十歳の誕生日にバイトを休めなかった事を、愛しい恋人は悔いている。店長さんに何度も志願したようだが、のらりくらりと交わされ、決して首を縦には振らなかったようだ。
けれど、そのおかげで良いこともあった。
昨日、今日と直ちゃんとお泊まりデートだったりする。
昨日、直ちゃんのバイトが終わるまで待ち二人で直ちゃんの家に帰った。今朝は「いってらっしゃい」のキスをして、まるで新婚さんのようだね、なんて嬉しすぎて笑ったら顔を真っ赤にしてお腹を殴られてしまったが……。
でも、恥ずかしがり屋の直ちゃんの照れ隠しだってわかってる俺は、その痛みにもニマニマ顔が隠せないでいた。
そして昨夜、直ちゃんが恥ずかしがってなかなか出してくれなかったピンク色の紙袋の中身は、俺の二十歳の誕生日を彩るには勿体なさ過ぎるもので。俺は嬉しすぎて、思わず何度も何度もスマートフォンでそれを写真に納めた。角度や写りを変え、何度も何度も。
嬉しすぎて食べるのが勿体なかったそれとは、直ちゃんがバイト先の先輩に教えてもらい、昨日の休憩時間を利用して作ったという誕生日ケーキ。
形は確かに歪だったが、今まで食べた中で一番美味しかった。直ちゃんが俺の為に作ってくれたという事実に、食べて無くなってしまうのが惜しかったのだが直ちゃんに「食べるなら早く食べろ」と、ドヤされてしまった。
そして渡されたプレゼントにもう一度、俺は歓喜した。
そのプレゼントは、相手を独占したいというあらわれの物……。
その気持ちに、頬が緩むのを抑えられないでいる俺は、他の誰かから見るとめちゃめちゃ怪しい奴だろう。
でも、やっぱり嬉しい。変な奴に思われようとも、直ちゃんから愛されているという事実だけで、他の事なんてどうとでもいいと思える。
冷たくなったハンバーグを咀嚼しながら物思いに老けていると、ピンポーンという店員を呼ぶファミレス特有のチャイムに現実に引き戻された。
俺の席の横を、直ちゃんが急いでお客様の元に走る姿を見ながら、直ちゃんのバイトが終わるもう二時間ばかし、何処かで暇を潰そうと席を立った。


「ご馳走様でした」

「あっ、ちょっと待って」


会計時に、中年の頃合いだろうか。笑顔の優しい女性店員に呼び止められた。
何かと思うと、その人はポケットから一粒の飴を取り出し、ポンッと掌に渡してきた。
不思議に思い「これ…?」と、言いかけた矢先、女性店員から、


「お誕生日おめでとう。こんなもんしかなくてごめんね」


と、笑顔で祝われた。
なんでそれを、と思い不思議がっていたら中年女性特有の手つきで話し出した。


「井上くんがケーキ作ってあげたのって、あなたでしょう?あれ教えてあげたの私なの。あの子ね、何日も前から練習してね。失敗しても一生懸命作ってたわよ〜。あっ、あなただってわかったのは昨日ね、一緒に帰るところ見ちゃったからね〜」


若いっていいわね〜、との言葉に照れくささで苦笑いを作りつつ、心の中はめちゃめちゃ飛び跳ねていた。
そんな前から俺の誕生日を気にかけてくれて、何かしたいと考えてくれた直ちゃんの優しさを再認識出来た。
二十歳の誕生日をきちんとお祝い出来ないお詫びに、と直ちゃんは言い訳のように話したが、恋人が自分の為を想い作ってくれた物が、きちんとしてない筈なんてない。
寧ろ、嬉しくて嬉しくて最高の誕生日祝いだった。


「ありがとうございます」


飴のお礼と、一生懸命に作ってくれた喜びを再度味わえた嬉しさを言下に含めつつ、俺は店を後にした。

確か、この近くに大きめの本屋があったから、そこで何か探してみようかと足を向けた。
歩いている間、チラリと左腕に嵌めた腕時計を見やれば、青い光沢のある文字盤がキラリと光った。直ちゃんから貰ったもう一つのプレゼント。
一目で気に入った俺に、「もうハタチだからさ。良い時計持ってた方がイイかなって……」なんて、照れくさそうに笑った直ちゃんが可愛くて、その気持ちが嬉しくて。
ずっと大事にしていきたい。
昨日直ちゃんから貰った腕時計に、そっと片方の手を添えた。
ずっとずっと、こうして二人で時を重ねていけたら良いな。
いや、きっとそうなる。そうしてみせる。何があろうとも、直ちゃんの手だけは離さない。

直ちゃんは知っているのかな?
腕時計を相手に贈るのって、独占欲からなんだって。自分と永くその時間を大切にして欲しいって意味合いが込められているんだよ。
でも、独占欲だったら俺の方が上だと思う。
だって本当は俺、ケーキ作りを教えてもらったバイト先の先輩が、どんな人か気になって仕方なかったもん。
家で大人しく待っていられなくて、直ちゃんに嫌がられるのわかってたけど、偵察がてらバイト先まで行っちゃったぐらい。
けど、直ちゃんが一生懸命作ってくれたって話聞けたし、直ちゃんの働いている姿は拝められたし、来てよかった。
そんな風に俺、独占欲強いけど、それが直ちゃんの重荷にならないよう気を付けるから。
だから、ずっとずっとこの先も一緒に時を刻んでね。
直ちゃんも、貰った時計も、その気持ちも、大切にするから。
愛しくて愛しくて、仕方ないよ。
直ちゃん、ありがとう。
もうホント、大好き。
ずっと、一緒に居ようね。

あ〜、早くバイト終わんないかな〜。
俺は今すぐにでも抱きしめたい衝動を胸に、何時までも変わらない愛しさに苦笑いしつつ、春の暖かな木漏れ日の中、時間潰しの本屋へとゆっくり歩いた。
本当は、スキップでもしたいぐらいの気持ちだけれども、185cmの大男がスキップなんてしてたら恥ずかしいだろうし。
いや、まぁ隠しきれてない嬉しさがニマニマ笑いになってしまっているのは、自分でも薄々気付いてはいたが……。
まぁ、ポカポカ暖かいし、木漏れ日はキラキラだし、こんなに素敵な日だから、少しぐらいは大目に見て貰おう。

すみません。
俺、今幸せなんです。

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田中ひかる
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