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 ネパールやインドでは バスの屋根の上に座り込んでいる乗客をよく見かける。
 乗客からすれば 込んでいる車内よりもバスの屋根に座り込むほうが快適と
 いうこともあるだろうし、運転手や車掌も出来るだけ多くの乗客を
 積み込みたいという気持ちが合わさり、こんな状態が生まれるのだろう。

 しかし、これは危険との隣り合わせであることも確かだ。
 ネパールのニュースで ネパールのローカルバスやネパール人が使うツーリストバスが
 谷底や川に落ち、多くの死傷者を出したという話を耳にする。
 大勢の乗客と荷物を乗せ、バスがバランスを崩したという話も聞くし、居眠り運転、
 酒酔い運転の場合もあるだろう。
 インドあたりでは スピードの出しすぎによる衝突が多いようだ。
 インド人の運転手は インド音楽を大きくかけ、気分が乗るとやたら、スピードを出す。
 ローカルバスの運転手は特にそんなところがある。

 私の一度、インドでそんなバスに乗ったことがある。
 インドのラジャスタンの砂漠の中の町 バールメールからジョードブルに
 向かうローカルバスに乗ったときだ。
 いつもは列車でジョードブルに向かうのであるが、仕事の都合で列車の時間に
 間に合わなかったのかもしれない。
 バスの車内は乗客で一杯であり、バスの屋根の上を見たら、
 インド人たちが座り込んでいる。
 夕方近くのラジャスタンの気候なら、バスの屋根の上のほうが快適だと思い、
 ジョードブルまでバスの上に乗り、移動したことがある。
 その頃は まだ怖いもの知らずであったのかもしれない。

 ネパールやインドで旅をしていると、マニュアルなど役には立たない。
 そのときそのときで出会う出来事に 自分で対処して判断していくより方法はない。
 安全か危険かも自分で判断するより仕方ないし、近づいてくる人間が信用できるか、
 出来ないかも自分の眼を信頼するだけである。

 バスも列車も時間通りに出発することも、到着することも確実な世界ではない。
 時には事故に遇うこともあるはずである。
 事故で怪我、最悪の場合は死ぬこともあるかもしれないが、その保障すら定かではない。
 不確実なことが当たり前だし、事故が起こっても 誠実に対応してくれることなど
 期待できない世界なのである。
 
 ホテルに泊っても 冷蔵庫が壊れていたり、冷房が効かなかったりもする。
 それはホテルのメンテナンスが充分でなかったりするせいだし、サービスという考え方も
 日本とははっきりと違う。
 はっきりと主張する姿勢がなければ、泣き寝入りになってしまうこともしばしばである。
 クレームをつけても、すぐには対応もしてくれないことなど当たり前のことだ。

 そんな国で安全な旅をするには 旅をする個人の能力が問われている。
 そして どこまで自己主張が出来るのかも大切になる。
 自己主張というのは けんか腰ということではない。
 けんか腰になると 逆に危険を呼び込むことにもなってしまう。

 日本のようなマニュアル社会の中で生活している日本人にとっては、
 自分の持っている生活力、適応力を試すには こうした国々を旅することは 
 いい機会になるはずである。


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 ときどき カトマンズの中心にあるラットナ・パークに行き、
 この公園に集まるネパールの人々の様子を眺めることがある。

 公園のベンチに座り込み、所在なさげに日長一日 この公園で過ごしている人、
 公園の芝の上に座り込み、議論を戦わす人たち、香具師を取り囲んで香具師の口上、
 パフォーマンスを楽しむ人々、仕事を求めて村からやってきたけれど、仕事を
 見つけることが出来ず、ぼんやりを座り込んでいる人、この公園には どこかしら、
 人間の喜怒哀楽が色濃く漂っている。
 人間が生きているという実感を 確実に感じさせてくれる場所でもある。

 そんな大人たちに混じって、子供たちの姿もよく見かける。
 そんな中に 悪童めいた二人の少年がいた。
 年齢は 13,4歳だろう。
 ネパールの子供は 栄養状態が充分でないせいか、日本の子供に比べると小さく見える。
 しかし、その顔つきや目つきを見ると、日本の子供よりずっと大人びて見える。
 世界をしたたかに生き抜いているという面構えすら感じさせる。
 彼らに民族名を訊くと バウン族(ヒンズー教カーストの僧侶階級)だと言う。
 彼らの服装からすれば、決して豊かな暮らしの家で育ったとは思えない。
 しかし、こう言えば、こう切り返すというバウン族特有の理屈っぽさは
 充分に併せ持っている。

 日本でも昔はこんなしたたかな顔つきをした子供たちがいた。
 大人顔負けの生活力を持っていた子供たちだ。
 子供の顔をしていても 一人前の大人に近い存在だったのかも知れない。
 ネパールでは 大人になるとは 独り立ちして、自分の力で食べていくように
 なることだ。
 それは 年齢とは関係ないものだ。
 今は昔に比べると少なくなったけれど、私が初めてネパールにやってきた25年前には
 ローカルな食堂、ネパールのチアー(ネパール風ミルクティ)を飲ませる小さな店では
 子供たちが立ち働いていた。
 汚れた皿やコップを洗うのは 村からやってきた子供たちの仕事だった。
 村で育った素朴さとカトマンズという彼らにとっては都会で生き抜くしたたかさが
 奇妙に両立しているという不思議な子供たちだった。

 今の日本でこうした雰囲気と顔つきを持つ子供を見かけることはない。
 雑草のようなたくましさを持った子供も若者も日本では少なくなってしまった。
 生活は豊かになり、飢えもなければ、冬の寒さにも耐えることはなくなった快適な生活、
 動物としての人間の能力が すっかりそぎ落とされてしまった子供や若者たち、
 それと同時に生きる意欲、エネルギーまでもが失われているのではと感じられる。

 便利さと快適さを追求し、発展を目指し続けてきた先進諸国、
 未だに日本の50年前の生活をしている後進諸国、
 どちらに生活する人間のほうが 人間としての生活力を
 持っているのか、考えてみることがある。
 
 環境に対する適応性、劣悪な状況に置かれたときの対応能力、
 ひとたび大きな災害に見舞われたとき、今の日本人は大丈夫かと心配になる。
 国や政府が充分に機能しているときには どうにかなるだろうが、
 その能力を超えてしまったときには 個人の持つ生活力、適応力が
 試されるときである。


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