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 カトマンズからバンコクに移動してから 2週間近く経つというのに 心も身体も
 バンコクの生活にうまく適応していかない。この傾向は年々ひどくなってくるようだ。
 一つには 自分の求めている世界が 今 バンコクから失われているからだ。
 だから、期待するものがないのである。

 少しでも好奇心を持とうと思い、運河の向こうのチャム族の住むバーン・クルアの
 集落まで 昼の惣菜を買いに行くことにする。ご飯は タイ産の日本米を炊いている。 
 雨期に入り、チャオプラヤ川の水門を閉じているせいか、運河の水はすっかり、黒く
 濁ってしまっている。

 東北タイのコンケンからこのバンコクに越してきて以来、多少、運河の水はきれいに
 なったような気もするが、やはり、季節によっては その汚れに違いがある。
 バンコク市内の至るところに 高層ビルが建ち並び、近代都市の装いを整えてきている
 バンコクだが、運河を見る限り、バンコクの街の発展が、そこに住む人々の生活を
 大切にしていることにつながっているとは思えない。

 運河を越え、運河に沿って バーン・クルアの集落の中に入っていく。
 運河沿いの道には 中央タイ風の総菜屋、東北タイ風の総菜屋、雑貨屋などが多く
 建ち並んでいるが、イスラム教徒の集落、ここでは豚を料理したものは売られていない。

 今日は イスラム教徒が商いをしている総菜屋へ行くことにした。
 この総菜屋の惣菜は ビニールの小さな袋に入れて売られており、1袋15バーツで
 ある。
 量は少し、少なめであるが、ひとり暮らしの私にとっては、そのほうが 都合が
 良い。
 細々と商いをしている店で 儲けが生活の足しになればといった感じの商いで、
 家庭料理風な味付けで、あまり、刺激的でなく 薄味なところがよい。

 惣菜を買って帰っている途中、運河沿いの木造の家の表で 母親が、はさみを上手に
 使って 子供の頭を刈っている。その様子を見ていると 母親は昔、床屋で仕事を
 していた手つきである。
 子供も文句をいうこともなく、任せているところを見ると 小さいときから頭を
 刈るのは母親の仕事なのだろう。
 こんな親子のかかわりは 子供の記憶に一生残っていく貴重な思い出になるだろう。

 少し 歩き続けると、お金を入れると使える全自動洗濯機が置かれている。
 容量の小さい洗濯機は 1回20バーツ、大きいものは30バーツである。
 若い人たちにとっては、便利な文明の利器であるが、年寄りにとっては、手洗いの方が
 汚れがしっかり落ちるといって、昔は洗濯機など信用していなかったが、今はどうなのだろう。

 一昔前にはこうした集落の中には 洗濯を生業にする女性たちがいた。
 各家庭と1ヶ月契約で 家族数に応じて 洗濯物を引き受けるのである。
 田舎からやって来た特別の技術を持たない女性にとっては、唯一の生活の糧を稼ぐ
 仕事だったようだ。
 といっても 上手に洗濯ができるということも一つの技術で、やはり、創意工夫して
 きれいに洗濯物を洗い上げる女性のところには 仕事が集中していた。
 私の住んでいるマンションの1階にも クリーニング屋があり、マンションの住民は
 このクリーニング屋と1ヶ月の洗濯物の枚数に応じて 契約しているようだ。
 収入が少ない間は 自分で洗濯するが、収入が増えれば、洗濯は他人任せというのが
 田舎は別にして バンコクや地方都市では それが当たり前のようだが、洗濯機を
 使う家庭も増えてきているようだ。

 コイン式の全自動洗濯機の近くには コイン式の飲料水の自動販売機もあった。
 こうした文明の利器と手仕事の世界が奇妙に並存している集落の姿である。
 コイン式全自動洗濯機の横では 昔から変わることのないやり方で 東北タイ風の
 麺類を売る店が 昔ながらの姿であった。



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 バグマティ川に架かる橋の下には バラック建てのスラムが広がっている。
 そのスラムの中の細い道を 仲良しらしい二人の子供が テクテクと歩いている。
 並んで歩いていたと思ったら、仲良く手をつないで歩き始めた。
 今度は立ち止まって、大きな高い木の枝にとまっているカラスを眺めている。
 そうした二人の動きが あまりに自然でつい眼を留めてしまった。
 私が小さかった頃の子供たちの様子は こんな姿だったような気がする。
 子供だけが持つ独特の時間の流れが 昔はあったような気がする。
 この二人の後姿を見ていると 何やら懐かしい気持ちがしてくる。

 こんなほのぼのしたのんびりした子供の姿が今の日本にあるのだろうか。
 スラムの中に住み、貧しい生活の中にいる子供たち、そんな中でも人と人の
 関わりの中には 暖かい余裕のようなものを感じさせる。

 別のスラムの端にある草原で 二人の子供がなにやら、
 真剣な表情で話し合っている。
 どうもその中の一人の子供が 悩みを抱えているようだ。
 それをもう一人の子供が しっかり受け止めている。
 人間が育っていくための基本的な姿がそこにある。
 友達とは何かという答えが 彼らの姿から感じられる。
 こんな心の余裕は 今の日本の子供にはあるのだろうか。
 あまりに勉強や塾、習い事に追われ、じっくりと友達と話すという
 時間もないのではと思える。
 相手の心の中に入り込んで、相手の話にしっかり耳を傾ける。
 これは 人間が共生していくための基本的な態度である。
 これがないから、いじめが起こるに違いない。

 幼いときから 手をつなぎあうことを忘れた子供たち、そこには手をつなぎあうことを
 忘れた大人の姿がある。
 スクムバシと呼ばれるカトマンズのスラムの中では 皆 少しでも生活しやすいように
 協力し合って生きている。
 水が不足すれば、お金を出し合って 井戸を掘り、地下水の汲み上げ手押しポンプを
 備え付ける。
 スラム住民の生活の拠点になるセンターを建てる。
 そんな大人の姿を見ていれば、子供たちだって、助け合うことの大切さ、協力し合う
 ことの大切さを学んでいく。

 授業料の高い私立学校に行くことはできなくても 貧しいものが生きていくには
 何が必要かを 親や近隣の大人たちの行動を見ながら、成長していく。
 スラムの中で育つ子供たちが 生き生きと生活力のある表情を見せるのは
 そんなところから来るのかもしれない。



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