カトマンズ 生き抜く人々

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 ネパールには 数多くの民族が住んでおり、どの民族に生まれるかによって、
 その後の生活の行方が左右されることがある。
 その上、様々のカーストもある。

 ネワール族、タマン族、マガール族、ライ・リンブー族、タルー族、シェルパ族などは
 古い昔からネパールに住んでいたことから 先住民族と呼ばれている。
 
 バウン族、チェットリ族は その多くは3,4百年前からインドからやって来た人々で
 カトマンズの先住民族 ネワール族のマッラ王国を侵略し、ネパールの統一を果たした
 サハ王朝の創始者 プリティビ・ナラヤン・サハ、その後のラナ家による専制、そして
 サハ家の王政復古までは チェットリ族がネパールの支配階級であり、ネパールの政党
 政治の中でバウン族は権力を手に入れてきた。
 軍、警察などの治安組織はチェットリ族、政治中枢はバウン族といった形で ネパール 
 の支配階級を形成している。

 そうした権力を志向するのは男たちの世界であるが、その影でネパールの生活を支えているのは
 働き者のネパールの女たちである。
 
 カトマンズを歩いていると 何かしら仕事をしているネパール女性の姿をよく見かける。
 野菜売り、焼きとうもろこし売り、洗濯、農作業、水汲みと 朝から夕方まで立ち働いて
 いるのは 女性たちである。
 こうした女性たちを眺めていると 生きてきた歴史のようなものが立ち振る舞いや
 顔つきにしっかり表れていて、地面にしっかり足をつけて生きているなというものを
 感じる。
 苦労の多い先住民族の女性ほど 生活感にあふれていて、逞しさを感じる。
 又、苦労してきた人生の一端を その顔の中に窺わせる。
 彼らの後ろに控えている子供たちの存在すらしっかりと感じさせてくれる。

 こうした顔は 昔の日本ではよく見られたが 今の日本では数少なくなってしまった。
 生活実感のない顔ばかりで、小奇麗でお洒落に精出していても 人間的な魅力が
 感じられないのである。
 ネパールの女性の場合は 貧しさゆえに 何が生きていくために必要なのかが 
 その生活経験の中から 学び取っている。
 頑張って生きているなということが そばにいても感じられる。
 ネパールの先住民族の30代、40代の女性であれば、小学校だって卒業していない
 女性が大半だろう。
 しかし、生活していくための知恵や能力は 日本女性以上かもしれない。
 それが 大人としての顔をしっかり表している。

 4,50年前の日本映画のテーマに 母親を題材にするものが多かったが、
 今の日本ではそれはテーマにならないのはどういうわけだろう。
 その答えが、ネパール女性の顔を見ていると 判るような気がする。
 貧しさと戦おうとする姿、貧しさに負けないという意思、それが残っている限り、
 生活は苦しくても 不幸ではないだろう。
 そういう姿勢が 昔の日本の母親たちにはあったような気がするし、
 それが先住民族の貧しい女性たちの姿に重なっていく。
 物質的な豊かさだけでは 人間は充実した人生を送ることは出来ない。


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 バグマティ川に架かる橋の下には バラック建てのスラムが広がっている。
 そのスラムの中の細い道を 仲良しらしい二人の子供が テクテクと歩いている。
 並んで歩いていたと思ったら、仲良く手をつないで歩き始めた。
 今度は立ち止まって、大きな高い木の枝にとまっているカラスを眺めている。
 そうした二人の動きが あまりに自然でつい眼を留めてしまった。
 私が小さかった頃の子供たちの様子は こんな姿だったような気がする。
 子供だけが持つ独特の時間の流れが 昔はあったような気がする。
 この二人の後姿を見ていると 何やら懐かしい気持ちがしてくる。

 こんなほのぼのしたのんびりした子供の姿が今の日本にあるのだろうか。
 スラムの中に住み、貧しい生活の中にいる子供たち、そんな中でも人と人の
 関わりの中には 暖かい余裕のようなものを感じさせる。

 別のスラムの端にある草原で 二人の子供がなにやら、
 真剣な表情で話し合っている。
 どうもその中の一人の子供が 悩みを抱えているようだ。
 それをもう一人の子供が しっかり受け止めている。
 人間が育っていくための基本的な姿がそこにある。
 友達とは何かという答えが 彼らの姿から感じられる。
 こんな心の余裕は 今の日本の子供にはあるのだろうか。
 あまりに勉強や塾、習い事に追われ、じっくりと友達と話すという
 時間もないのではと思える。
 相手の心の中に入り込んで、相手の話にしっかり耳を傾ける。
 これは 人間が共生していくための基本的な態度である。
 これがないから、いじめが起こるに違いない。

 幼いときから 手をつなぎあうことを忘れた子供たち、そこには手をつなぎあうことを
 忘れた大人の姿がある。
 スクムバシと呼ばれるカトマンズのスラムの中では 皆 少しでも生活しやすいように
 協力し合って生きている。
 水が不足すれば、お金を出し合って 井戸を掘り、地下水の汲み上げ手押しポンプを
 備え付ける。
 スラム住民の生活の拠点になるセンターを建てる。
 そんな大人の姿を見ていれば、子供たちだって、助け合うことの大切さ、協力し合う
 ことの大切さを学んでいく。

 授業料の高い私立学校に行くことはできなくても 貧しいものが生きていくには
 何が必要かを 親や近隣の大人たちの行動を見ながら、成長していく。
 スラムの中で育つ子供たちが 生き生きと生活力のある表情を見せるのは
 そんなところから来るのかもしれない。



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 ネパールの子供たちはよく働く。
 カトマンズでも貧しい庶民の子供たちほど 親の手助けをして よく働く。

 スラムの中にある自分の家にトイレを作るための泥をせっせと運んで トイレ造りを
 手伝っている子供もいた。自分の家にトイレが出来ることは 子供にとっても大きな
 喜びだろう。
 雨が降るときでも 傘を差して 草叢で用を足すこともない。
 家のために自分たちが役に立っていることは 大きな誇りでもある。

 幼い子供が もっと小さい子供の手をもって引っ張りあげている。
 助け合う、協力し合うという芽生えがここにある。
 これが人間にとっての基本である。

 雑木林の中で10歳ぐらいの子供が 刈り取った葉っぱのついた木の枝を集めている。
 家で飼っている山羊の餌である。
 紐を使って 上手に枝をまとめ、運びやすく工夫している。
 私の家も昔、白い山羊を飼っており、山羊のための餌の草刈、乳絞りのことが
 彼の姿を見ていると思い出されてきた。

 外れた自転車のチェーンをはめ直している子供たち、自分の使う道具なら 出来るだけ
 自分たちで直すというのが 当然のことだ。
 子供たちと物との関係、物を自分の力で コントロールしていく力が 自然に身につく。
 小さな技術であるが こうした姿勢が 生活している世界との関係を築き上げていく。

 食後の洗い物を手伝う女の子、いつかは手伝いから自分の仕事になっていくのだろう。
 我が子のそばで 母親も一緒に座り込み、その仕事ぶりを微笑みながら見つめている。
 こうした親子の関係が 互いの情愛を育てていくのだ。
 スラムの貧しい庶民の親子関係は 決して失われていない。

 家の前で 母娘が 真綿から糸を紡いでいる。
 神様に捧げる灯明に使う糸である。素焼きの皿に入れた油にこの糸をつけ、火を灯す。
 ネパールの女性であれば、必ず身につけなくてはならない技術である。
 ネパールの女の子が 一人前になるには 覚えなくてはならないことが山ほどある。
 料理、洗濯、宗教的な儀式のこと、子育てと幼いときから身につけないと間に合わない。

 洗濯一つ取ってみても ぼんやり洗っているだけでは 汚れは落ちない。
 女の子も10歳を過ぎれば、一人前に洗濯ができるようになる。
 水場から何度も水を運び、洗濯に励む女の子、「自分の服だけ洗っているの」と訊くと
 「お母さんの服もあるよ」と応えた。
 他の人の役に立つようになれば、もう一人前である。
 男の子たちも同じである。

 自転車に共同の水場から汲みあげた水を自転車で運ぶ男の子、昔は 水汲みは女の
 仕事だったが この水不足のカトマンズでは 男も女も 男の子も女の子も
 そんなことは言っておられない。
 家族みんなでこの水不足を乗り越えていくより仕方がない。

 路上の小さなCDを売る露店で働く少年、客が求める品物をすぐに出せるように
 なれば、一人前である。

 子供たちが 一人前になる、自立することが ネパールでは幼いときから求められる。
 貧しい庶民の子供たちほど、多くの技術を身につけなくてはならない。
 中産階級以上の家庭であれば、子供たちが出来る仕事でも 雇い人がやってくれる。
 子供たちは 勉強だけをしていればいいのだ。
 親が豊かであるうちは 何も苦労せずに育ち、生活することも出来る。
 しかし、長い人生、何が起こるかわからないというのも事実である。
 豊かさから貧しさへと 急変することだってある。
 そんなときには どういう人生が待っているのだろう。

 少なくともこの写真の子供たちは どうにか自分の人生を切り拓いていくだけの
 たくましさと生活の技術はもっているはずである。



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 バグマティ川の岸辺周辺にあるスクムバシ(スラム)や人口の密集した集落を
 歩いていると 子供の数の多さには 驚いてしまう。
 ネパールの休日である土曜日や学校の終わった夕方4時を過ぎた頃に そんな
 人口密集地域に行くと 子供たちで溢れかえっている。
 貧乏人の子沢山という言葉があるが、その言葉通りの姿である。
 昔の日本もそうだった。

 子供たちが群れを成して遊び、その集団も同じ年齢の子供たちではなく、
 様々な年齢の子供たちが 混ざり合って 遊びに興じており、年上の子供たちも
 上手に小さな子供たちを受け入れている。
 子供たちの中での文化伝達機能が まだまだ息づいているカトマンズのスラムの
 中での子供たちの社会だ。

 大人に干渉されず、子供同士で徒党を組んでいる子供たちの表情は 
 実に生き生きしている。
 群れを成して遊ぶことのなくなった日本では もう失ってしまった日本の子供たちの
 姿である。
 薄汚れた服を身につけ、汚れることなど厭わず、遊び呆けている子供たちの集団を
 見ていると、4,50年前に 子供であった自分たちの姿が重なってくる。

 スラムの中にも 大人たちの間には カーストや民族の違いに対する意識はあるが、
 弱い 虐げられているもの同士であれば、カーストや民族を超えて助け合うことが
 一番大切なことで いつこの土地から追い出されるかわからない生活の中では
 まとまりは大切な要素である。
 スラムの住民たちが 水不足で困っていれば お金を出し合って、井戸を掘る、
 地下水を汲み上げるための手押しポンプを設置する、飲み水をためておくための
 大きなポリタンクを設置するなどの協力体制はある。

 そんなスラムの中で生活する子供たちは カーストや民族の違いなど気にせず、
 群れを成して遊ぶ。
 昔からある古い集落に住む大人や子供たちに比べると カーストや民族の違いに
 対する意識からは はるかに解放されている。
 こんなスラムの中から ネパールを変えていくリーダーが育ってくれば、
 ネパールも大きく変わっていくだろうが、高カーストのバウン族、チェットリ族など
 カーストに対して強い意識を持つ人間たちが 国を支配している限り ネパールが
 大きく変わっていくことにはまだまだ難しい。

 カーストや民族を超えて協力し合って 国造りをするというのが ネパールの最も
 重要な課題であるが、それが実践されているのが スラムの大人や子供たちの
 日常である。

 友達とか仲間とかという言葉は 日本では随分薄っぺらなものになってしまっているが、
 カトマンズの貧しい庶民たちの間では まだ生き生きした光を放っている。
 その光にあふれた姿が カトマンズの貧しい庶民たちの子供の中にある。

 もう日本では こんな当たり前といってよい子供たちの姿を見ることは出来ないの
 だろうか。
 生き生きと逞しい野性味あふれた子供たちはどこに行ってしまったのだろう。
 ここ30年の日本社会の変化は 日本の子供たちから 確実に生気を奪っている。
 本当にそれでいいのかと問いかけたくなる。




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 今の日本の社会の中で 血縁関係、特に兄弟のつながりとは 
 どういったものなのだろう。
 カトマンズの庶民の血縁関係、家族関係、兄弟とのつながりの濃厚さは 
 日本の比ではないように思う。

 カトマンズのスクムバシ(スラム)の中や、貧しい庶民が住んでいる地域を
 歩いていると 幼い弟や妹を背負っていたり、抱きかかえている子供たちの姿を
 よく見かける。
 幼い弟や妹を心から慈しんでいる様子がその姿から伝わってくる。
 互いの温もりを通して伝え合う愛があるとすれば、
 この子供たちの姿がその見本である。
 兄や姉が 親が忙しい間、弟や妹の面倒を見るというのは 
 カトマンズ庶民たちの当たり前の姿である。

 昔の日本の庶民たちの生活の中には こんな子供たちの姿があった。
 兄弟姉妹愛というものが 大きな力を持ち、それは家族に繁栄をもたらすものだった。
 貧しいものたちは 助け合わずには生きていくことが出来ない。
 その基本が 家族愛なのである。
 どんなに貧しくても カトマンズで 親殺し、子殺しの話を耳にすることはない。
 親は子にとって絶対的な存在だし、兄や姉たちも自分たちの育ちの中で 
 力を尽くしてくれたことを 弟や妹たちは知っている。
 スラムという最悪の場所に住んでいても 家族の心のつながりは 正しく機能して
 いるのだ。
 親が幼い弟や妹の世話をするのを見ながら、同じように弟や妹たちの世話をする。
 子育ての方法を小さいときから自然に身に着けていくのである。

 日本のように共稼ぎの家庭、一人っ子の家庭が増えていけば、小さいときから
 幼いものの命を尊ぶことを学ぶ機会は失われてしまう。
 命を育てるには 何が必要なのかを学ばないまま大人になってしまうのである。
 親も子供も心のゆとりを失った社会では 愛を育てることも知らず、
 凶悪な犯罪ばかりが増えていく。

 人と人とのかかわりより、物とのかかわりに目が行き、お金に翻弄されてしまう。
 スラムに住む子供たちの生活といえば、ないものだらけの生活である。
 ぎりぎりの貧しい食事、粗末な服、おもちゃといえば、その辺で拾ってきたような
 廃品、そんな生活の中でも 豊かな濃厚な家族愛はある。
 物にあふれる日本よりはるかに濃厚な家族愛である。

 自分が食べる前に 弟や妹たちに食べ物を与える。
 幼いもの、力のないものに手を貸す、そんな人間として基本が スラムの中には
 残っている。
 ネパールの中産階級よりも 深い暖かい愛や思いやりがあるかもしれない。
 ネパールの中産階級では 2,3歳になると 幼稚園や私立学校付属の幼児部に
 いれる。
 お金が許せば、寄宿制の学校にいれ、家庭の躾など二の次である。
 勉強さえ出来れば 他のことはどうでもいいのである。
 自分さえよければ それでいいという人間を生産するばかりだ。
 助け合って生活することなど 何一つ覚えず 大人になっていく。
 こうした人間が 政治家、官僚、実業家になっていく。
 他人の痛みなど 感じることも関心を持つことも知らない人間が 
 社会の上層部に立つのである。
 貧富の差が生まれるのは当然だし、それを是正しようとする人間もいない。
 富を手に入れた人間は それを護ることばかり考えているだけだ。
 それは日本も同じであるが、ただ、日本とネパールの違いは 貧しく虐げられて
 いる人たちの間には まだ助け合いの心が残っていることだ。

 豊かで濃厚な家族愛が 基本になりながら、スラムに暖かな助け合いを生み出して
 いる。
 スラムの中の子供たちの姿、様子を見ながら、そんなことを感じた。



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