インドの刺繍布

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            横 104cm x 縦 116cm
 
 グジャラート州のカッチ地方の刺繍を施したバッグ、
 何でも入りそうな大きなバッグ。
 着替え、食料、何でもこの袋の中に入れて旅をしたのだろうか。


 夕方 砂嵐の舞う中、バスは ビカネールの街に到着した。
 風に舞う砂が 口の中に入らぬようにしっかり口を閉じ、今夜の宿を探す。
 日中の熱気で消耗した体力を回復するためには 早く宿を探すことだ。

 バスを降りた場所の近くに宿を見つける。
 宿の中も砂塵でざらざらしている。
 窓を開けると砂塵が舞い込んでくるので、窓を開けることはできない。
 部屋に浴室がついているだけでも有り難い。

 水を浴びる。ここの水も他の場所と同じように塩気が混じっている。
 贅沢を言っているわけには行かない。
 水分の補給は必須のことだ。

 落ち着いたところで、外に出て散歩してみる。
 砂嵐はすっかり収まっている。
 通りの一角に人々が集まっている。
 近づいてみると、大きな釜でミルクを温め、それを売っている。
 街の人々はそれを求めて、集まっていたのだ。
 私もミルクを求める。
 二つのカップを使い、右のカップから左のカップへとミルクを何度も
 移し変えながら、ミルクを冷ましてくれる。

 ビカネールの通りに立つのは 男ばかりで女の姿はない。
 ラジャスタンでは、ヒンズー教徒の女は 人前には姿を現さず、外に出るときは
 薄いショールで顔を隠す。
 写真を撮られることも嫌う・
 ここでは、イスラム教徒の女は 顔を隠さない。

 一杯のミルクを飲み、宿に帰って寝てしまった。
 この宿の部屋のことが記憶に全くないのは、どういう訳だろう。
 次の日には、この街の宮殿を訪れたはずだから、2泊はしたはずなのに。



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    50cm x 52cm


 インド グジャラート州 カッチ地方のアンティーク刺繍布。
 大きなミラーが独特だ。
 灼熱の太陽の光を 縫い付けられた鏡に反射させ、
 光を 衣服や小物の中に取り入れる。
 暑い太陽を敵に回すのではなく、仲間をして取り込んでいくたくましさ、
 それがなければ、砂漠の中では生きていけない。


 窓の外の牛の死骸から逃れるように ナゴールの町を去り、砂漠の王国ビカネールを
 目指す。
 ラジャスタンには ラージプートのマハラジャの住んでいた王国がいくつかある。
 有名なのは、これから向かうビカネール、他にはジャイサルメール、ウダイプル、
 ジョードブルなどが有名な町だ。
 ラージプートというのは、ヒンズーカーストのクシャトリア(武士カースト)に属し、
 インドにやってきたイスラム勢力と 最後まで勇敢に戦った人たちだ。
  
 朝早く、荷物を積め、大きなリュックを背負い、バス乗り場へと足を運ぶ。
 太陽の光は 容赦なく照りつけ、砂漠を灼熱の熱さが覆っている。
 ビカネール行きのバスを見つけ、行き先を再度、確かめると 「そうだ」と応える。
 荷物をバスの屋根の荷台に載せろというので、鉄製のはしごを掴み、上ろうとすると、
 鉄製のはしごは 太陽に照らされて もう熱くなっており、あまりの熱さに掴むことは
 出来ない。
 それを見て、所掌が笑ったので、この砂漠の気候の中で、熱くなっていた脳みそには
 怒りがたぎってきた。

 バスに乗り込み、座る場所を確保する。
 バスは 砂漠の荒地の中を走り出していく。
 正午が近づいてくると、バスの中は 熱気に包まれてくる。
 バスの窓は、閉め切りだ。
 窓を開けると熱風が入り込み、余計に車内の温度を上げてしまう。
 ひたすら 耐えるだけだ。感覚はすっかり、麻痺してしまっている。
 何も考えない、何も感じない、そんな世界に自分を追い込んでいく。

 ビカネールまで 何を飲み、何を食べたか、今では思い出すことも出来ない。
 こんな暑さに慣れていない日本人にとっては 全くの限界への挑戦だ。
 体感温度は、45度を超えていたに違いない。

 バスは小さな町や村で停車しては、人を降ろし、又乗せていく。
 砂漠の民族服に身を固めた女たち、ターバンをかぶりドーティを身につけた
 たくましい砂漠の男たちが、バスの中にも、バスの外にもあふれている。

 そんな光景を ぼんやりとした感覚を失った視覚が追いかけていく。
 まるで悪夢の中の世界である。
 夕方近くなり、バスは 砂漠の王国ビカネールに到着した。


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  上のバッグ 33cm x 32cm   下のバッグ 31cm x 25cm

 グジャラート州のカッチ地方の刺繍を施したバッグ、
 刺繍は 砂漠の女たちのおしゃれだ。
 砂漠の太陽の光に反射して、きらきらと光るミラー
 小物入れのようなこのバッグに
 女たちは何をいれていたのだろう。


 汚い部屋と塩気の強い飲み水、これだけで砂漠の町メリタから逃げ出して
 しまいたくなる。
 真夏のラジャスタンの砂漠の町メリタには見るべきものは何もない。

 しかし、乾季の12月を過ぎると、この町や隣村のプシュカルでは 
 盛大な駱駝市やメラ(祭り)が開催され、多くの人々が 各地から集まってくるという。
 そんなときには、町は一変して 別物に変わってしまうのだろう。
 しかし、真夏のメリタの町は ただのひなびた生気のない町だ。

 朝 起きだし、この町から逃げ出すように隣の町 ナゴールへと移動した。
 この町は、メリタとは違って、活気があり、それなりに施設の整った安ホテルもあった。
 当時のインドルピーで一泊60ルーピー、日本円で6百円ぐらいだったように
 憶えている。

 受付でお金を支払い、階段を上っていくと、その踊り場には 上からの大型扇風機の
 風で 無数のハエが床にへばりついていたのを思い出す。

 部屋は 2階のシングルルーム、ベッドが一つ置かれ、浴室も部屋にはある。
 水道の蛇口をひねると 水も出る。
 その水の味を確かめてみるが、やはり塩気の強い水である。

 窓を開け、園を眺めてみると、1頭の牛が、死んだように横になっている。
 どう見ても死んでいるようにしか見えない。
 それが本当かどうかは、時間がたてばわかると思い、街の中を散策する。
 この町も 同じように暑い。

 市場辺りを目指して歩き始めると、一人のインド人がネパール語で話しかけてきた。
 私を見て、ネパール人だと思ったらしい。
 彼はネパールに住んでいたことのあるマルワリ商人だった。
 彼も、こんな名も知れぬ町にやってきているのは モンゴリヤン系のネパール人だと
 思ったのだろう。
 ネパールでも商売をしていたらしく、懐かしくて声をかけてきたらしい。
 まさかこんな辺境の土地に 日本人がいるとは 考えも及ばなかったのだろう。

 私もこの頃は 少しはネパール語も話せるようになっていたので、
 ネパール語で会話を進め、街の中を案内してもらった。


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  幅 86cm x 長さ 170cm

 インド グジャラート州 カッチ地方の刺繍の壁掛け、
 刺繍ミラーワークのミラーが、輝いてきれいだ。
 まるで生命の樹を表すような図柄だ。
 こんな壁掛けを家の中に架け、どんな祈りを捧げたのだろうか。
 砂漠の容赦のない暑い日光によって 干からびた大地、
 厳しい風土の中で生まれた信仰とはどのようなものだろう。


 真夏のラジャスタンのオアシスのような村 プシュカルですら、
 照りつける陽射しは例外ではなかった。
 聖地として有名になった観光地 プシュカルは どういう訳か
 居心地のいい場所ではなかった。
 村中を ブラーマン階級の高慢さが 覆っていたせいかもしれない。
 うわべだけの友好、計算高さが感じられたのかもしれない。

 もっとなんでもない砂漠の町に 行ってみたくなった。
 そこで 地図を調べ、近くの町 メリタへと向かうことにした。
 バスに乗り、メリタの町に着くと、そこは 荒地の真ん中にぽつんとある町、
 そんな感じの町だった。
 町には 宿といえば、一つ、巡礼宿だけだ。
 外から見る眼には、3,4階建ての立派な建物だった。
 受付に行って、宿の宿泊料を訊くと 20ルピーもしなかったように思う。
 一泊、2百円以下、お金を支払い、階段を上り、部屋に入ってみると
 外と内とは大違いで、掃除などほとんどされておらず、ベッドのシーツといえば、
 何ヶ月も洗われていないような代物だった。
 
 白いシーツの色が にしめた様な茶色に変わり、とても 横になることの
 出来るようなものではなかった。
 シーツを変えてくれるように頼むが 一向にやってこない。
 一休みをしようにも横になることも出来ない。
 頭にきて、汚いシーツをベッドから引き剥がし、受付に持っていき、
 それを見せ付けると、やっとしぶしぶと洗ったシーツを出してくれた。

 次の問題は水だが、下の受付の近くにある水道の水は、真水ではなく、
 塩気を含んだ水、24,5年前の辺境の町では、まだまだミネラルウォーターなど
 なかった。
 地元の人間が飲めるといえば、その塩気のある水を飲むより仕方がなかった。
 この町でも夜、何を食べたか記憶はない。
 食べ物に対する関心は のっから薄れてしまっていたのだ。
 暑さと水に慣れるだけで精一杯の状態だった。
 仕方なく飲んでいたのは、ホテルの前の広場で売られている自家製のソーダー、
 塩気を感じないだけ、抵抗なく飲むことが出来た。


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 インド グジャラート州 カッチ地方のアンティーク刺繍、
 玄関の飾り。
 クラシックな刺繍のデザインが素晴らしい。
 小さい飾りは、どこに飾ったのだろう。


 アジメールの小高い丘の上には、石造りの古い寺院があり、そこに座り込んで
 吹き抜ける風に身を任せていると、ラジャスタンの暑さを忘れさせてくれた。
 帰り際に イスラム教徒の集落に迷い込むと、子供たちも友好的ではなく、
 小石を拾って投げつけてくる子供もいた。

 アジメールに2,3日滞在して、次に目指したのは ヒンズー教の聖地プシュカルだ。
 町というより小さな村といった感じで、住んでいる人たちの大半は ブラーマン
 (ヒンズー教カーストの最上位である僧侶階級)だった。
 当然、村全体は 菜食主義の村で、その村の滞在の際、何を食べたのか、
 全く記憶がないのは よほど不味かったのだろう。
 プシュカルの村の中心には 湖があり、その湖の湖畔に政府のツーリストバンガローが
 あったが、いつも一杯で泊まることはできなかった。

 インドの各地の観光地には 観光客用の政府運営のツーリストバンガローがある。
 宿泊費も高くなく、民間のゲストハウスに比べると、施設も整ったものだ。
 私もダージリンやブッダガヤ、サルナートではお世話になった。

 いくら村の中心に湖があるとはいえ、四月のラジャスタンでは、日ごとに暑さは
 増して行くばかりで、泊まったゲストハウスでは、夜は、宿の屋上にマットレスを持ち上げ、
 星を見ながらの睡眠だった。

 24,5年前の真夏のラジャスタンのプシュカルでは 日本人に会うこともなかった。


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