ブータン布の今昔

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   ブータン   ブータンの帯 ケラ      19世紀後期


 ブータンの女性用民族衣装 キラを身に纏う時には 日本の着物のための帯の役割を
 果たすケラと呼ばれる帯が必要となる。
 幅40センチ、長さ 2メートルの帯を 三つ折にして、腰の周りに巻きつける。

 このケラは19世紀後半から20世紀初頭に織られたものだ。
 両面縫い取り織りと呼ばれ、縦糸に 紋様を縫いこむように織り上げていく。
 この時代は 地の白い部分は ブータンの手紡ぎの木綿糸が使われ、紋様を織り込む
 ためのえんじ色の糸は ブータンの野蚕の手紡ぎのシルク糸を ラックカイガラムシで
 染めたものである。
 黒い糸は ブータンの手紡ぎ木綿糸である。
 この黒は 色を重ね合わせることで 作り出した黒だろう。

 この時代の織り込む紋様の種類は 多く織り手の技量が充分に伺われる。
 この堂々とした帯 ケラの存在感はどうだろう。
 強い表現力を持っているとは思えないだろうか。
 この時代の人間の持つ生活力のたくましさが 感じ取れないだろうか。
 余計なことを考えず、ただひたすら 織物に向かう姿勢が感じ取れないだろうか。
 小手先だけの器用な表現など考えず、真っ直ぐな気持ちで このケラを織り上げて
 いないだろうか。
 織るということが 生きる表現になっている。
 一つのことに向かう強さは 今の現代人にはないものなのかもしれない。
 小手先だけの器用さだけで 織物に向かっても 人の心を打つ織物は生まれてこない。
 百年経っても 尚且つ 人の心を奪うものが このケラにはある。



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         ブータン 野蚕シルクのキラ メンシィ・マタ   1980年代

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 1980年代後半に織られた野蚕シルクのキラ メンシィ・マタである。
 ブータンの赤を基調にした野蚕シルクのキラ・シリーズは これが最後のものである。
 長々と 記事をご覧頂ありがとうございます。
 次回からは キラを身につける際に締める帯 ケラについて 話を始めます。

 この野蚕シルクのキラで気になるのは 濃い色の桃色である。
 他の糸の染色は 天然材料を使ったものであるようだが、この濃い桃色はどう見ても
 科学染料のようだ。
 この時代頃から、女性用スカーフのラチュー、男性用スカーフ カムニの大半が
 科学染料を使って染めた野蚕のシルク糸に替わっていくようだ。

 金銭を使うことが主になっていく経済の中で、手軽に安く手に入ることへと
 考え方が変わっていったのだろう。

 1980年代後半からは 天然染料を使った染織が激減し、ブータンの染めの魅力は
 半減していく。
 色落ちの凄さは半端ではない。
 他のものと一緒に洗えば、色が移って、大変なことになる。

 1980年代後半以降のブータンの布は 私にとっては魅力のないものになっている。
 布の持つ風合いは感じられなくなっているからだ。

 ブータンだけでなく 世界中が 消費経済の波にもまれ、手作りの世界は どんどん
 失われていくことになるのである。
 それと並行していくように 人間性も疎外されていくようになる。
 人間は どこかで道を誤ったようだ。

 世界中が工業化のなかで 世界汚染を広げ、環境破壊に陥っている。
 必要なものと不必要なものの区別がつかなくなり、ひたすら消費に走る人々の
 姿が 目立つようになる。
 便利さばかりを追求していくことで 環境を生き抜くための人間の基本的な能力は
 どんどん失われていくここ30年の世界の流れである。
 これに歯止めがかかるのだろうか。




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        ブータン   野蚕シルクのキラ  メンシィ・マタ     1980年代

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 1980年代を過ぎると 野蚕の手紡ぎの染色に 少しずつ 科学染料が使われる
 ようになっているように思う。

 この野蚕のシルクのキラ メンシィ・マタの中の色を見ても、えんじは ラック、
 青は藍、黄色はウコン、緑は藍とウコンの合わせ染め、桃色はラックで薄く染めたもの、
 紫がかった青は 藍とラックを合わせてといった気もするが、どうだろう。
 桃色や紫がかった青は 科学染料を使ってということはないのだろうか。

 このキラに関しては 微妙なところである。
 色があまりどぎつくないところを見ると 天然染料を使っているようにも見える。
 この辺の判断が 非常に難しい時代である。


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          ブータン  野蚕シルクのキラ メンシィ・マタ    1970年 〜 1980年

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 1970年から1980年ごろにかけて織られた野蚕のシルクのキラ 
 メンシィ・マタである。
 本当はもう少し古いものかもしれない。
 紫がかった青が 少し気になる。
 藍とラックを掛け合わせて染めていれば、天然染料で野蚕のシルク糸を染めて
 いることになるが、定かでない。
 薄い桃色は 茜で染めているようだし、緑は 藍とウコンを掛け合わせて、
 染めているような色合いである。
 化学染料は まだ使っていないように思われる。

 布というのは 写真で見ているだけではなかなか わかりにくいし、見ているだけでも
 わかりにくい。
 見て、触るというのが 布を知るには 一番いい方法である。
 だから、私なども 出来るだけ触ってもらうようにしている。
 博物館などでは ガラス張りの向こうに布を展示して見せることが多いが
 それでは なかなか わかりにくいものだ。
 特に民族衣装のようなものだと、重量感、手触り、柔らかさなどを知ることが
 大切なことである。
 身につけたときのイメージを浮かべることが出来るからだ。

 ブータンの野蚕の手紡ぎのシルク糸で織られた布の肌触りの良さは、
 触らない限り、わからない。
 新しく織られたもの、何年にも渡って身につけたものでは 柔らかさ、手触りが
 全然違う。
 古い布は 着た人間の気のようなものが 乗り移っているようである。
 ブログというデジタルの世界では 五感を使ったアナログの世界を体験してもらえないのが
 残念である。


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          ブータン  野蚕シルクのキラ メンシィ・マタ   20世紀中期 〜 1970年代

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          ブータンの野蚕の手紡ぎシルク糸

 飽きもせず 野蚕シルクのキラ メンシィ・マタの紹介を続けているが、いろいろ
 見ておいたほうがいいとつもりで 読んでください。

 この野蚕シルクのキラも 20世紀中期から1970年頃までに織られたものである。
 野蚕のシルク糸の染色には 天然染料が使われている。
 この野蚕シルクのキラも ほとんど傷みがなく、保存状態がよいことから、裕福な家の
 女性のものだったのだろう。
 これを手に入れたのは 1980年代後半、カトマンズにおいてである。
 1980年代には インド・ブータン国境のアッサム州に接触のあるマルワリ商人が
 カトマンズに ブータンの布やアッサム、ナガランド、マニプルあたりの布をせっせと
 運び込んでいた。
 この時代には ブータン国内よりカトマンズの方が ブータンの古い布は
 多かったかもしれない。

 マルワリ商人は もともとはインド・ラジャスタンあたりに生まれた商人集団であり、
 インド各地、そしてインド周辺の国々で商いをしている。
 そして、ネパールの経済を握っているのは このマルワリ商人である。
 インドからネパールへの流通システムを築き上げており、インドからネパールへの
 物流は彼らの独占に近い。

 このブータン布のビジネスで大もうけをして、カトマンズに土地を買い、4階建ての
 家を建てたマルワリ商人もいる。

 1980年代は こうしたマルワリ商人が カトマンズにブータン布を運び、店を
 開いていた。

 その中のマルワリ商人に ブータンの野蚕手紡ぎ糸を運び入れてもらったことがある。
 20年前の話である。
 その野蚕の手紡ぎのシルク糸が 写真のものである。

 このキラも この糸を天然染料で染め、そして織り上げたものである。


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