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その男性は、あるアパートを住処とし 夜には警備員の仕事をしているそうだ。 そこの大家さんと管理人さんの意向で そのアパートにはあるサービスが無料で成される。 しかし、その男性は約二年もの間、そのサービスを 施されることなく、ただただ自分が生きる為に夜間警備に精を出す。 いや実際には精を出してはいないんじゃないかな。 家族もおらず、ただただ自分が生きて食っていくことで精一杯。 初めて電話で会話を交わしたとき、その男性の空気がそう私に伝えた。 [連絡先を教えていただけませんか?」 [電話なんて、無ぇ!!!!] あとあとになってその言葉や空気が、じんわりとわが身に込み上げてきて わけもわからず切なくなってしまった。 後日、その男性の住処に足を運ぶ。 管理人さんがちょうど住処のまわりをうろついていた。 挨拶してその男性の住処に手紙を投かん。 自分が住むにはあまりにも無理なアパート。 その男性の部屋へ行きつくまでの真っ暗闇。 照明は無く、感覚が奪われる。ここはどこだろう。 ぱかっと開けてぱっと照らした頼りない携帯の液晶画面の光の前には、扉。 玄関扉は左から右へガラガラと木製スライド式。 靴は宅内に収める場所が無いのか、部屋の外へ置きっぱなし。 そして今日。無事にその男性の住処にはあるサービスが成された。 [長い間待たせちゃって、いやぁ〜ごめんね。] その男性はお礼にと言って、銀コインをくれたそうだ。 それが私の手元に渡ってきた。 私が直接その男性の住処へは行くことは無い。 電話の会話でしか、その男性のイメージは膨らまないし 手にした銀コインを握りしめながらも、そのイメージは頭の中で独り歩きしていく。 携帯なら持っていたのかな。 それとも会社の電話機から掛けてきてくれたのかな。 [電話なんて、無ぇ!!!!] とても荒げた口調だったけど、その男性が所有する自分時間の中の たった少しの時間を使って電話をしてきてくれたこと。 私はその男性に対して、切ないだとか可哀想とか、 そういう同情しか持てていなかった。 私が同情したところで、その男性に何もできやしない。 けれども私は感じることができる。 その男性の銀コインの行為を。 貧乏ながらもお礼だと言って、くれた銀コイン。 その男性の生きる為の蓄えが、私の手中にある。 生活基準は人間を様々に変えてのけると思う。 私は自分自身のそれを改めて考えるべきだと思う。 夜間警備員をしながらも、この都会の夜空に数少ない星を見ているんだろうな、きっと。 私は、
星が光る住処に、その男性の真摯さを感じることができる。 |
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2010年02月01日
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