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大工を継がない娘は今日も、夕飯に食すであろう八百屋で買った焼き芋を左腕にぶらさげながら、 自宅である西荻窪の夕刻をあてもなくただ歩く。 同じ西荻窪北口でも、閑静な住宅街の方とはなかなか行かないもんだ。 随分とこの辺りに出向いてはいなかったが、気分的に行きたくなって。と喫茶店をいつもより 早く後にした娘はそう思っていた。 やっぱり何度見てもここの建物は素敵だな。 温かだった焼き芋も冷たくなり始めていた。 三月も後半ということもあって、だいぶ陽が延びた午後六時過ぎ。 娘は舐めまわすようにその建物を見ながらも、いつかは自分も西荻窪でこんな レトロなモダンな場所に居住を構えたいと切望するのであった。 そんな帰りに立ち寄った貸ギャラリーとなっている一階スペースの店舗で。 娘は入れ物を買う。 娘は思う。 恐らくは、いや、これはパンやケーキの時の原型だ、と。 しかしそれはなかなかの年季の入ったものだったので さすがにこれではパンやケーキを焼く気にすらならなかった。 それは娘の手によって、キッチンで散らかる自身の花粉症の薬やらサプリメントやらを 整列させるために使用された。 娘は年季の入ったものに弱い。そして今日買ったそれが¥300という値段設定が
娘の弱さにつけこんで、あっけにとられてしまった。 |
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2010年03月17日
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