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 この、2編からなる短編集(?)は、斉藤和義の両A面マキシシングル『君は僕のなにを好きになったんだろう/ベリーベリーストロング〜アイネクライネ〜』の初回限定盤の特典。
 正直、こんなものを記事にするのはどうかと思うが、あまりにも心に入ってきたので感想を書かずにはいられなかった。
 タイトルからも分かるとおり、この『ベリーベリーストロング』という楽曲は「パピルス」2007年4月号に掲載された『アイネクライネ』を下敷きに作られていて、『ライトヘビー』は今回書き下ろしの続編。



 『アイネクライネ』は、ごく一般的な会社員・佐藤が、夕暮れの街中で街頭アンケートをしている場面から始まる。
 ネット全盛の時代に街頭アンケートをとることになった理由、拒絶ばかりされて沈んでいく気分、日本人初のボクシングヘビー級チャンピオンへの挑戦のテレビ中継、アンケートに応じてくれた女性……そのときの状況が相変わらずの飾らない筆致で描写されていく。
 学生時代からの友人夫婦、織田一真と織田由美の2人と『劇的な出会い』についてとりとめのない会話をしたり、ある日突然に奥さんが家を出て行った先輩・藤間に、奥さんとの馴れ初めを聞いたり、忙しい仕事を片付けたりしながら、佐藤は過ごしている。
 ただ、それだけの物語。

 『ライトヘビー』は、ごく一般的な美容師・美奈子が、指名されるわけでもないのに担当になることが多い板橋香澄から、彼女の弟と電話で話してくれないかという不思議なお願いをされて幕を開ける。美奈子は断るが、電話はかかってくる。そして弟・学との電話だけでの関係が始まる。
 彼女の町には<斉藤さん>と呼ばれる露天商がいた。本名は誰も知らないが、自分の現状と100円玉をその人物に預けると、パソコンに入った楽曲のデータの中から、その人に合ったワンフレーズを聞かせてくれる。その楽曲がすべて斉藤という歌手のものばかりなので、自然とそう呼ばれるようになったのだ。
 そんな毎日の中、板橋香澄から日本人初のボクシングヘビー級チャンピオンへの挑戦のテレビ中継を一緒に見ようと、美奈子は誘われる。



 どちらの作品も、どこにでもある退屈そうな日常を、軽やかに描き出しながら進んで行く。その表現にふんわりとつかまれるものの、特に事件は起こらない。それはまるで何事もない日常の中に起きた、ささいな波紋を中心にしてぼんやりとした考え事のようで、結局のところ「だからなんだ?」ともなりかねない。

 ただそれが、とても後味よく心に残る。
 佐藤と美奈子、それぞれに歩んでいく人生には、まだ先があるのだという奥行きを感じることが出来る。しかもそれに親近感を持つことが出来るから、余計に心に残るのだろう。

 日常がひっくり返るわけでもない。
 日常から逃げ出したいわけでもない。
 誰も死なない。
 誰かが困ることすらない。
 水道から虹はあふれない代わりに、信号はきちんと青に変わる。

 当たり前の世界。
 でもその当たり前の世界の中にも、時々小さなチェックポイントがあって、僕たちは何となくそこに引っかかることがある。それは誰かの一言だったり、ふと思い出したことだったり、ある日に見た夢だったりする。なんでもない毎日だからこそ出会うことのできるチェックポイント。決してターニングポイントにはなり得ないほど小さなそれが、かすかにだが<いつもの風景>の輪郭を変えることがある。
 そのちょっとした違和感にも似た感覚を、この作品を読むと感じることができる。何となく空が高かったり、空気の流れが深く感じられたり、目に映るものが鮮明になったりする、あれだ(――あれだ、などと自明のことのように書いたが、はたして共感は得られるのだろうか?)
 違和感はちょっとした突起となり、ときどき他から流れてくる時間がそこに引っかかり、いくつかの事柄がつながることがある。それは偶然が重なる、と呼ばれる現象。いいことなのかは分からないが、確実に悪いことではない瞬間が積み重なり、ほのかに心が躍ることがある。
 生きててよかった――などと思えるほど大げさではなくても、とりあえず生きていようかと思う程度には前向きになれる瞬間。
 それを感じることができる。

 決して励まされたり、感動させてくれたりはしない。
 だからこそ、少しだけ落ち込んだときに読もうと思う。



 余談。
 たぶんこういう作品が素人が読んで「自分にも書けそう」と思うもので、それでいて実際に書くとなると途轍もなく難しい部類のものなのではないだろうか。
 もしも小説を書くとしたら、こういうものが書きたい。

閉じる コメント(10)

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伊坂ファンならこのCD買っても損はないですかね。。斉藤和義は嫌いじゃないし。。あ、でも限定!!!!

2007/6/23(土) 午前 0:39 ゆきあや

>ゆきあやさん もちろん損はさせません(何様?)伊坂節全開ですよ。20日に出たばかりなので、まだ間に合います。急いで〜!

2007/6/23(土) 午前 0:41 かとちん

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うわー、himaさんの記事が読めない!なぜならこれからCD屋さんに走らなくてはならないから!CD買ったら、また出直してきます!

2007/6/23(土) 午前 9:26 ang*1jp

>あんごさん はい、お待ちしております。ゆっくり読んで、また感想を聞かせてくださいね。

2007/6/23(土) 午後 10:47 かとちん

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読みました〜^^小さなブックレットにぴったり収まるちいさなちいさな物語でしたね。「ターニングポイントにはなりえない、ちいさなチェックポイント」というhimaさんの感想に「そうかぁ、そうなんだよなぁー」と思わずうなづいてしまいました♪

2007/6/27(水) 午後 11:45 ang*1jp

>あんごさん 共感してもらって嬉しいです。なんだかもう、普段は意識して触れることのできない部分を、見事にくすぐられてしまいました。

2007/6/28(木) 午後 11:11 かとちん

斉藤さんの曲の方からここにたどり着きました(笑)

ベリーベリー〜(曲の方)を聞くと涙が出てくるのは
何でなのか自分でも理解しかねる・・・と思い

斉藤さんはどんな気持ちでこの曲を作ったのか?なんて調べてる間に
この記事を読むことが出来ました。



少し涙の出る理由が自分なりにわかった気がします。


突然でしたが、ありがとうございましたww

2011/1/25(火) 午後 0:34 サンジzzz

>サンジさん
お越しくださってありがとうございます。

「胸に鳴り響くティンパニー」というフレーズ、
あれが色々なものを表現しているように思います。

我知らず、何かが心に触れて涙が出る……
名曲っていうのはすごいものですね。僕も大好きです。

2011/1/26(水) 午後 10:48 かとちん

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はじめまして。
伊坂幸太郎さんを検索してたらここへ来ました。
アイネクライネ読んでみたいです(>_<)
あと4年早く伊坂幸太郎さんの作品に出会っていれば・・・
なんて思ったりしてます。

2011/3/7(月) 午後 10:19 [ くるくる ]

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もう、入手不可能みたいです。何とか、読みたい!コメント読んでたら、絶対読みたいです。>_

2012/8/18(土) 午前 7:17 [ とみー ]


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